第20話 誤算
祝20話です!!
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午後1時になると、急に扉がノックされた。3人の体がビクッと跳ねた。智は、高峰かと思い、警戒しながら扉に向かって言った。
「どなたですか?」
すると、冷ややかな声が返ってきた。
「1時になったので、午後の部を開始します。外で待っているので、早く出てきてください」
さっきとは口調がまったく違ったが、その声は紛れもなく高峰の声だった。智は無駄に抵抗するとまた危険な目に合うと思い、「はい」とだけ返事をして、すぐに2人を連れて部屋を出た。
旅館を出ると、すでに他の旅行客が待っていた。皆、高峰が恐ろしい事をすると知ってしまったで、会話をしている人は誰もいなかった。顔を強張らせて、ただ寄り添っているだけだった。当然、あの彼氏を探していた彼女もいなくなり、英明という男性もいないのか、人数が30人から28人になっていた。
「すみません。待たせてしまって」
智は皆に頭を下げた。疾登と花輪も少し遅れて頭を下げた。皆それどころではないのか、だれ1人返事をしてくれる人がいなかった。
「まったく、常識がない人ですね」
高峰がこちらを睨みつけながら言った。高峰は、もう、すっかり『案内人』という仕事を忘れて、裏の姿になってしまっている。
疾登と花輪を見ると、2人とも高峰を睨みつけていた。
「何です?その目は」
智は危険だと感じ、急いで2人に言った。
「おい、余計な事をしない方がいい。何されるか、分からないぞ」
2人はため息を吐きながら俯いた。
俺ら旅行客は何もできないのか・・・
このまま高峰の言う事に従っていくと、どんなことが待っているのかと思い、背筋がゾッとした。
3人は先ほどと同じ一番後ろの広い席に座った。バスに乗って10分ほど経っていた。行きはあんなに賑わっていたのに、あの事が頭に残っているのか、口を開く者は誰一人いなかった。
突然、ずっと前を向いていた高峰がマイクを持って、こちらに向いた。智はずっと高峰を睨んでいたが、すぐに目線を逸らした。
「それでは、午後の部では、皆さんにある山でゲームをしてもらいます。まあ、賭けと言った方が正しいですかね」
高峰は妙に興奮気味になって言った。その姿を見ると、余計に恐ろしさが襲ってきた。
「ルールは簡単です。皆さんに、山の中のエリア内で10枚のカードを探すだけです」
なんだ、そんな事か。危険じゃなくて良かった。智はホッと胸をなでおろした。
「まあ、体力があればすぐにクリアできます。でも、もしクリア出来なかった場合、罰が与えられます」
罰って何だ?安心感が一瞬にして消え去った。
すると、ある、1人の20代前半くらいの黒縁眼鏡をかけた男性が、恐る恐る手を挙げて言った。
「あの、その罰ゲームとは一体・・・」
高峰は薄ら笑いを浮かべて、
「それは、お楽しみです」
と言ってこちらに背を向けてしまった。
「なあ、兄貴。俺の予想だけど、予想だぞ?」
急に疾登が、小さい声で話しかけて来た。
「何だ?」
疾登は緊張気味に言った。
「あの、罰ゲームってまさか、高峰が持っていた銃で殺すとかじゃないよな」
智はまた、嫌な予感がした。
「そ、そんな事・・・でも、あいつだったら、何の躊躇いもなく殺しそうだな」
この会話を聞いていたのか、花輪が両手で顔を覆って呟いた。
「もう、こんなの嫌だよ・・・帰りたい」
智も同じ気持ちだった。恐らく、ここにいる旅行客皆がそう思っているだろう。
しかし今、帰りたいなど言ってもどうにもならないことなんて目に見えている。
智は、花輪の体を抱きしめて励ました。
「大丈夫。花輪は、俺と疾登が守ってやる」
その言葉を聞いて、安心したのか顔を上げて智と、疾登の顔を見て言った。
「お兄、疾兄。ありがとう」
疾登は照れているのか、頬が赤い。智は花輪に微笑んだ。
その時、花輪が急に力が抜けたように、智の方に寄りかかってきた。
「おい、花輪?」
花輪からの返事はない。花輪に気を取られていると、疾登も智の方に倒れてきた。バスに乗っていたので、何とか2人の体を支えることができた。ふと、前方を見ると、智以外の人もグッタリしていた。
「どうなってるんだ・・・」
そう言った後、智の視界が薄れ始めた。智は疾登に寄りかかり、静かに目を閉じた。
智が目を開けると、青空が広がっていた。
「ここは・・・どこだ?」
上半身を起こして、辺りを見渡すと、360度木で囲まれていた。視線を下に移すと、他の旅行客が皆倒れていた。智の左右には疾登と花輪が倒れていた。
「何だよ、どうなってるんだよ」
しばらくすると、疾登が目を覚ました。
「兄貴・・・」
「お!疾登、大丈夫か?」
「ああ」
その後は、他の皆も次々と目を覚ましていった。
「おい、兄貴。花輪大丈夫か?」
花輪が一向に目を開けない。
「おい、花輪。しっかりしろ」
智が花輪の体を揺するが、起きない。
「花輪、起きろよ。もう、仕方ないな・・・」
疾登が花輪のおでこに、でこピンした。
「痛い!何すんのよ!」
「良かった。もう、心配したんだぞ」
疾登が腰に手を当てながら言った。
「疾兄ね!やるんだったら、もうちょと控えめにしてよ」
疾登は顔の前で手を合わせて「ごめん」と謝った。
「今回は許してあげる」
疾登は微笑んだ。
「なあ、何で俺たち眠ってたんだ?」
疾登が智に疑問をぶつけてきた。智はしばらく考えていると、ある事が頭に浮かんだ。
「あの、さっきの弁当、なんか、味変だって言ってただろ?多分、あの弁当に睡眠薬が入ってたんじゃないか?変な味の原因はこれだったんじゃないか?」
疾登と花輪は納得したように頷いた。
「そうだったのか・・・睡眠薬か」
「何なの、もう」
3人は同時にため息を吐いた。
突然、花輪が智に声をかけてきた。
「ねえ、お兄、これ警察に言った方がいいんじゃない?」
そうだった!何でもうちょっと早めに気付かなかったのだろう。
「そうだな。ちょっと連絡してみる」
智は携帯を探し始めた。その間に、疾登が花輪に問うた。
「花輪、何で、もうちょっと早く気付かなかったんだよ」
「何よ、疾兄だって、今まで気付かなかったんじゃないの?」
「そ、そうだけど・・・兄貴まだ?」
あれ?携帯がない。いつもジーパンのポケットに入れているのに、入っていない。上着のポケットにも入っていない。落としたということは、絶対にあり得ない。
「ないんだ。携帯が」
花輪が首を傾げながら言った。
「え?何でよ」
「分からない」
「しょうがないなぁ。私の携帯で連絡してみるよ」
花輪も、上着のポケットに入れたのかポケットに手を入れたが、入っていないらしく、他のポケットを探し回っている。
「私の携帯も・・・どこにもない。バックには絶対入れないんだけど・・・」
「俺もないよ」
疾登が困った顔をして言った。
「なぜだ・・・そうだ、他の人なら持っているかもしれない」
智は期待を胸に、周りの人に聞いてみたが、誰も携帯を持っていなかった。
あり得ない・・・なぜ、一斉に携帯が消えるんだ・・・
すると、ふと智の頭にある考えが浮かんだ。
「なあ、疾登、花輪」
2人は同時に智の方を向いた。
「俺、思うんだけどさ、これって高峰が仕組んだんじゃないかな」
「あ!そうかもしれない」
「考えられるな・・・」
そこに、高峰が現れた。
「あら皆さん。ようやく目を覚ましたのですね」
智は思い切って聞いてみた。
「あの、携帯電話ってあなたが回収したんですか?」
高峰は鼻で笑って言った。
「そうですよ。あなたたちの携帯電話は私が回収したの。外部に連絡が出来ないようにね。ちなみに、あなたたちが眠ったのは、私が弁当に睡眠薬を細かく刻んで入れました」
やっぱり、そうだったのか。
高峰の言葉に反発する人は誰もいなかった。
「それじゃあ、全員こっちについてきてください」
皆は黙って高峰の後について行った。
歩いている途中、花輪が聞いてきた。
「ねえ、お兄。これから何するんだろうね。何か怖いよ」
智は花輪の肩に手を置いて、優しく言った。
「大丈夫だって。ほら、さっきも言ったろ。もしもの時があったら俺と疾登が守ってやるって」
花輪は心配そうに呟いた。
「でも、お兄と疾兄が・・・」
「もう、気にするな。花輪は心配しなくていいんだよ」
横から疾登が入ってきた。
「そうだよ花輪。俺と兄貴は男なんだから、女性を守るのは当たり前だろ?」
花輪は涙声で言った。
「本当にありがとう。こんな優しいお兄ちゃんが2人もいるなんて、私、幸せ者だよ」
智と疾登は照れながら言った。
「もう、照れるじゃないか。なあ、兄貴」
「本当だよ。俺も花輪みたいな可愛いくて、優しい妹がいて嬉しいよ」
花輪は少し頬を赤らめてた。
「あ!兄貴ずるいよ」
疾登が口を尖らせて呟いた。
「こんな事が言えるのも全部父さんと母さんのおかげだな」
「そうだね」
「父ちゃんと母ちゃんに感謝しないとな」
高峰に聞こえないように小さい声でいろいろ話していると、急に高峰の足が止まり、こちらを向いた。前方を見ると、コンクリートで出来た小さな建物が建っていた。
「じゃあ、中に入ります」
冷たい声で言い放って高峰は建物の中に入った。
智たちも、高峰について行った。
祝20話といくことで、ちょっと文章を長くしてみました。
・・・すみません。嘘です。きりが良い所となると、ちょっと長くなってしまったもので・・・