第18話 高峰への恐怖
出口を抜けると、不思議なことに、疾登は目を覚まし、赤森は普通に歩けるようになった。そんな疾登を見て、智は呆れたように言った。
「なんだよ。最初から目を覚ましてたんじゃないのか」
疾登は首を左右に激しく振ってそれを否定した。
「ちがうよ、本当だよ。急に目の前がかすみ出してさ」
「もういいよ、分かったから」
智は疾登の言葉をこれ以上聞いても何も変わらない事が分かり、途中で遮った。智は赤森に視線を向け、赤森に問うた。
「本当に、ここから出たら足が自由に動けるようになったのですか?」
赤森は頷いて言った。
「本当です。屋敷を出た途端、急に足が軽くなって、震えが止まったんです」
智は、もう1つ気になっていることを聞いた。
「あの、その女性の霊というのは、どんな姿でした?」
赤森は再び恐怖が襲ってきたのか、顔が引きつった。
「白いワンピースを着ていて、足がなかったんです。あ!それと、髪が長かったです」
「そうだったのか?疾登」
智は疾登に聞いた。
「うん。でも、足までは見てないな・・・あまりの怖さに見ることができなかったんだ。あはは」
疾登は頭を掻きながら言った。智は疾登の頭を叩いて言った。
「あはは、じゃねーよ。まったく、役に立たないな。でも、案内人が言っていた事は本当だったんだな」
「兄貴、いってーよ。叩くんだったら、もう少し加減をしてさ・・・」
「お兄、疾兄!早くしてよ!」
疾登が続きを言おうとした時に、花輪が旅行客に交じって2人に叫んでいた。智は、疾登の腕を掴んで、花輪がいる場所まで連れて行った。
「ごめん、花輪。ちょっと兄貴ともめてて」
「お前は黙っておけ」
智がきつめに言うと、疾登は俯いた。後から、ちょっと言い過ぎたかなと思った。
「あ、赤森さん、そんなに固く喋らなくていいですよ。同じ仲間同士なんですから」
智は話題を切り替えた。
「そうですか。分かりました」
「皆さん、揃いましたか?」
気付くと、先ほどのしつこい高峰が声をかけていた。
「揃ったようですね。では、これから昼食にしますので、今からあそこの食堂に行ってもらいます」
高峰は、正確に数を数えないと、見た目だけで判断し、ここから300メートル程あるところを指さして言った。
「行ってもらいます」って、ここのツアー、なんか旅行客の扱いが荒くないか?
智はこのツアーに不満を感じた。
突然、1人の30代前半くらいの女性が手を挙げて発言した。
「あの、まだ私の彼氏が帰ってきていないんですけど」
すると、高峰は不敵な笑みを浮かべて言った。
「そんなの、知りませんよ。今頃、霊に呪われて気を失っているかもしれませんね。もっと最悪の場合、もう、ここには戻ってこれないかもしれませんね」
智はその言葉を聞いて、愕然とした。これは酷すぎる。感情を抑えきれずに、高峰に怒鳴ろうと思ったが、先に女性が声を上げた。
「何言ってるんですか!案内人としての責任を取るのは当たり前でしょ?早く英明を捜してください!」
英明とは女性の彼氏の事だろう。彼女は、必死に訴えたが、高峰の答えは素っ気ないものだった。
「私の責任ですか?そもそも、その英明という男と一緒にいたはずなのに、なぜはぐれてしまったんでしょうね。とにかく、私には関係ありません。捜すんだったら、あなたが捜して来たらどうです?」
彼女は何か理由があったのか、黙り込んでしまった。
そんな彼女を見て、智は堪えきれずに、高峰に歩み寄って怒鳴りつけた。
「案内人が、何で責任取ろうとしないんですか?あなた、おかしいですよ。さっきから聞いてたら何でも人のせいにして!あなたそれでも人間ですか!」
そう言い終えた後、高峰はため息を吐いて静かに言った。
「うるせーな。客は黙ってろ!」
その直後、智の腹部に激痛が走った。高峰が智の腹を足で蹴ったのだ。智はその場に倒れ込んだ。
「お兄!大丈夫!」
「おい、兄貴!しっかりしろ!」
花輪と疾登が急いで駆け付けてくれたが、返事をする気力もなくなっていった。次第に視界が薄れ始め、花輪と疾登の声も聞こえなくなっていた。
智は、ゆっくりまぶたを閉じた。
いよいよ高峰が本性を現しました!!
高峰は何者なのか・・・
今後も期待して読んでいただけると嬉しいです。