第16話 自由時間
「ごめん。無理だった」
「そんな・・・」
疾登は崩れ落ちた。
「私、怖いよ。ねえ、お兄一緒に寝よう」
智はその言葉に敏感に反応して、手を顔の前で振りながら言った。
「い、一緒はまずいよ」
「私も一緒に寝たくて言ってるんじゃないんだから。疾兄も一緒に寝る?」
疾登は戸惑うことなく、小さく頷いた。智はこの時、「疾登は変態か?」という感情が芽生えてしまった。
「まったく無責任だよね。あの受付嬢。客が頼んでるのに逆らうなんて。なんか、この先不安になってきた」
花輪の言う通りだ。なぜ、あんなに粘るのだろうか。
しばらくすると、またマイクを持った女将さんが説明を始めた。
「では、コースの説明をします。Aコース、Bコースどちらも5時に終了致します。昼食などはこちらの方でご用意いたしますので、ご安心ください。移動はどちらのコースもバスになりますので酔ってしまう方は、酔い止めなどの薬を飲んでおいてください。11時までは、自由時間になりますので、どうぞごゆっくり」
女将さんは小さく頭を下げ、こちらに背を向けた。その際、女将が不敵な笑みを浮かべたのは気のせいだろうか。
「普通、昼食くらい用意するだろ。というか、薬くらい用意しておけよ。年寄りとか困るだろうが」
疾登はキレた口調でブツブツ言っていた。智は、そんな疾登の肩を叩きながら言った。
「まあまあ、落ち着け疾登。疾登の言う通りなんだけど」
「だろ?もう、何なんだよ」
花輪は腕時計を確認して2人に話しかけた。
「ねえ、まだ10時20分だから1回、部屋行ってみない?」
智はその考えをすぐに承知した。智もその事について気になっていたのだ。疾登は1つ息を吐いて頷いた。
3人は、荷物を持って303号室に向かったのだった。
扉は木で出来ていたので、少し腐っていた。中に入ると、床は畳で出来ていて窓が1つあり、押し入れがあった。いたって普通の和室だった。
「なーんだ。普通の和室じゃない。特に違和感もないし」
花輪は荷物を畳に置いて、背伸びしながら言った。疾登も安心したらしく、畳に寝転がっていた。智も荷物を置いて、疾登の横に転がった。
窓から吹いてくる風が心地良く、智は目を瞑って休憩していた。すると、隣にいる疾登が呟いた。
「何か暇だな・・・そうだ!皆でDSしようよ。じゃあ、マリオカートね」
「は?俺たち何にも言ってないけど・・・」
「そうだよ。それに、DS持ってきてないよ」
疾登は、自分のバックの中身を探りながら言った。
「大丈夫だよ。花輪の分はちゃんと持ってきたし、兄貴の分も持ってきたよ」
え?俺はDS持ってないけど・・・そう言おうとした途端、疾登が声をあげた。
「あった!はい、花輪。それと、兄貴のDSね」
そういう事か。智はDSを持っていないので、代わりに疾登が前に使っていたDSが智の分になるというわけだ。当然、疾登は最新のDSを持っている。
マリオカートは3つカセットがなくても出来るので、疾登がカセットを本体に差し込んだ。
「どれにしようかな・・・やっぱりマリオかな」
疾登はキャラクターを楽しんで選んでいた。智と、花輪はカセットが差し込んでいないので、自動的にヘイポーになってしまった。
しばらくしてゲームが始まった。智はマリオカートをした事がなかったので、予想どうりのビリだった。花輪は疾登と接戦だったらしいが、結局は疾登が1位になって、花輪が2位になってしまったらしい。
「あーやっと終わった。何か疲れたわ」
智が肩を回していると、花輪が声をかけてきた。
「お兄、まだ終わってないよ」
「え?まだあるの!」
花輪は微笑んで頷いた。マリオカートは4つのコースがある事を知らなかった智は、がっくりと肩を落とした。
それからずっとマリオカートをしていた。気が付くと、すでに11時前になっていた。3人は急いでBコースのバスに乗り込んだ。
今回は前回と比べて、文字数が2分の1ほど少なくなってしまいました・・・
でも、これでも頑張って考えたんですよ(笑)