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僕たちの約束  作者: 翔香
第1章 僕たちの約束
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第14話 旅行前日

 今回も花輪の言葉に注目して読んでみてください!


 

 智が目を開けると、部屋は真っ暗になっていた。電気を点けに行こうとすると、何かにつまずいて、智の体は派手に倒れた。



「いってーな!もう!」



 智はイライラしながらスイッチを押した。部屋には電気が点き、明るくなった。ふと、時計を見ると午後8時ちょっとすぎていた。



「もう、こんな時間かよ」



 智は頭を掻きながら、少々苛立ちを見せて言った。智は、寝起きは機嫌が悪い癖があるので、小さなことでもイライラしてしまう。

 突然、智の携帯が鳴った。



「誰だよ」



 智は、テーブルに置いてある携帯を乱暴に取った。



「もしもし」



「智か?」



 一輝からだった。



「そうだけど」



 智が面倒くさそうに答えると、一輝が急に怒り出した。



「智!あそこの和食専門店、全然うまくないやんけ!」



「ごめん、ごめん。もう行ったのか?」



 まさか、紹介したその日に行くとは思わなかった。



「もう行ったのか、ちゃうわ。もう、金は払わへんで。お互い様やで」



 智は早く電話を切りたかったので、すぐに謝った。



「ごめん。また、本当に美味しい店行こうな」



「そうだな。悪かったわ。また、2人でホンマにうまい店行こな」



 意外とあっさり許してくれたことに驚いた。



「ところで、今何してるの?」



「え、今か?今は、オカンとテレビ見よるで。オカンが好きな演歌やから、全然おもろないけどな」



「お前は本当に、親思いだな」



「智やって親思いやんけ。犯人、捜してるんやろ」



「うん・・・」



 そこで、一輝ははっとなって慌てた口調で言った。



「あ、すまん。余計な事言ってしもたな・・・」



「いいよ、全然。気にしないでいいから」



「ホンマ、ごめん。じゃあ、ここら辺で切るわ。また今度うまい店行って話そな」



「おう。じゃあ、また今度連絡するよ」



「リョーカイ!待っとるけんな。絶対連絡してや。せんかったら、わしから電話するけんな。出るまでしつこく鳴らすで~」



「分かった、分かった。早いうちに、絶対連絡する。じゃあな」



「じゃあな」



 今は心が落ち着いていたので、疾登と花輪を起こさないように、ゆっくり携帯をテーブルの上に戻した。

 しかし、会話の声が大きかったのか、疾登と花輪が起きてしまった。



「いやー結構寝たな」



 疾登が背伸びしながら言った。



「ごめん。起こしちゃったかな?」



 智は両手を合わせて、顔の前に持っていった。



「ううん。大丈夫・・・」



 花輪が何か言いたそうな様子だった。



「どうした、花輪」



 智が声をかけると、花輪はコクリと頷いてお腹をさすりながら言った。



「花輪、どうした?お腹の調子が悪いのか?やっぱり、あのラーメンがいけなかったか・・・」



 花輪は首を振った。



「ちがうの」



「良かった。でも、言いたいことがあるなら言いな」



 智は優しい口調で聞いた。

 すると、花輪は嬉しそうな顔をして言った。



「私ね。お腹の中に赤ちゃんがいるの」



 え?今何と?



「ごめん、もう一回言って」



 智が確認のため聞くと、花輪はあっさりと答えた。



「だから、お腹に赤ちゃんがいるの。私と優翔さんの子」



 疾登は慌てて聞いた。



「え!つまり・・・妊娠って事か?」



「そうなるね」



「マジで!おめでとう。花輪」



 疾登は笑って返事をしているが、心の中では戸惑っているのだろう。花輪の前では笑顔を見せないといけないと思っているのだ。

 そんな疾登とは正反対に智はおかしくなっていた。智は壁もたれかかって遠くを見つめた。



「お兄?」



「そうか・・・花輪もお母さんになるのか」



「お兄、大丈夫?」



「どんな子が生まれるのか楽しみだな。男の子かな、女の子かな」



「おーい」



「可愛いだろうな~俺もおじさんになるんだな」



「お兄!」



 その声でやっと我に返った。完全に、智ワールドに入り込んでいた。



「あ、ごめん、ごめん。ちょっと、おかしくなっちゃったな。花輪、おめでとう。でも、これからが大変じゃないのか?」



「うん。でも、本当に、何もかも急でごめんね」



 智は笑顔で答えた。



「いいって。全部打ち明けてくれてありがとう。すっきりしただろ?」



「うん!」



 疾登は花輪のお腹を見て言った。



「今、何か月目?」



「2か月は経ったかな」



「そんなに!結構経ってるな・・・俺たち、何にも気付かなかったな」



 疾登が智を見て言った。



「そうだな。情けないよな。というか、今日のラーメン、ヤバいんじゃないか?」



「いいよ、いいよ。大丈夫だって」



「本当にごめんな。あんな奴、信用しなきゃよかったよ」



 すると突然、花輪は慌てたように立ち上がって言った。



「あ!私、旅行の準備してない!」



 その言葉に智は呆れた。花輪は、時々こうゆう、おっちょこちょいな所を見せる。それも、また「可愛いな」と思う。でも、もうじき花輪がいなくなる事を考えると、また、悲しくなった。



「花輪、今からでも間に合うか?」



「うーん、正直、ギリギリかな・・・」



 ふと、時計を見ると、午後8時を指していた。



「明日なんだけど、7時に出るからな。バスの時間が7時10分からしかないんだ」



 花輪はソファーに座って天井を見つめながら言った。



「お兄、7時は早いよぉ。女の子は化粧とかいろいろ準備があるんだから」



 横から疾登が花輪に冷かしに来た。



「そうだよな、女の子は化粧で化けてるんだからな」



 その言葉にカチンと来たのか、花輪は立ち上がって疾登の頬をつねりながら言った。



「疾兄、今、何て言った?もう一回言ってみなさいよ!」



 疾登は頬をつまられているので、うまく言葉が話せない。



「ごべん、ゆるじで」



「ごめん、許して、だって」



 智は疾登の言葉を通訳した。疾登は何度も小刻みに頷いている。



「いいよ、許してあげる」



 そう言って、花輪は疾登をつまんでいる手を放した。疾登は痛そうに花輪がつまんでいた所を押さえている。



「さあ、準備してこよーっと」



 花輪は部屋を出て行った。智はすぐに冷凍庫で保冷剤を取り出して、タオルに巻いて、疾登の元に行って真っ赤になった頬を冷やしてやった。

 心が落ち着いた途端、悲しみが一気に押し寄せ、涙が溢れてきた。



「花輪は何でも急に言うな。本当、びっくりするよ。俺、嬉しいのか、悲しいのかよく分かんねーよ。妊娠までしてたなんて・・・」



 声が震えた。疾登はコクリと頷いた。疾登も目から涙がぽろぽろ流れていた。疾登に限っては、頬の痛みもあって、余計に涙が溢れていた。

 2人は肩を並べて、しばらく男泣きをしたのだった。


 次回からは、ちょっと、旅行の回が長く続くと思います。


 でも、皆さんが飽きてしまわないようにちょっとスリルを加えてみたいと思っています(笑)

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