第12話 衝撃発言
夕食を摂った後、疾登が突然智の部屋に入ってきて、問題の間違ったところの答えを教えてくれと頼んできた。
「でもな、疾登は・・・」
その先を言おうとしたところで疾登に遮られてしまった。
「俺は大丈夫だから。お願い!」
疾登が両手を合わせてこちらを見ている。これ以上反対しても意味がないと思ったので、仕方なく教えることにした。
「ありがとう」
「でも、限界が来たらキブアップしろよ」
疾登は深く頷いた。智は、問題用紙を机の上に置いた。最初に智が口を開いた。
「まず、第2問なんだけど、疾登は22歳じゃないんだ」
「え、そうなのか?」
智は頷いてから言った。
「疾登が事故に遭ったのが22歳だ。それから疾登は3年間眠り続けていたんだ。だから疾登は、今、25歳なんだ」
すると、疾登が事故のに遭った時の映像が頭に過ったのか、疾登が突然、頭を頭を抱えて呻き出した。その疾登の行動を見て智が急いで声をかけた。
「大丈夫か?もう、これ以上言わないから、今日はもう寝た方がいいよ」
「いや、大丈夫だ。もう少し、聞かせて、くれ」
息が激しいせいで言葉が途切れ途切れになっていた。智は、「もうだめだ」と言おうとした時に疾登が言葉を発した。
「本当に大丈夫だから。兄貴、第4問の事も教えてくれ」
あまりにも真剣な顔で疾登が頼んできたので仕方なくその考えを了承した。智はつくずく「自分は甘いな」と思う。
「第4問の答えは、父さんの名前が野々神 真人、母さんが野々神 紗由だ」
その言葉を聞いた瞬間、疾登の頭に家族みんなで楽しそうに公園で遊んでいる映像が映った。それを見て、疾登の目に涙がにじんだ。
「なんでだよ・・・あんなに楽しそうにしてる事は覚えてるんだな」
そう言って智に向かって笑顔を見せた。疾登が顔を上げた途端、疾登の目から涙が零れ落ちた。そんな疾登を見て智の頭にも家族みんなで楽しそうに会話しながら食事をしている風景が映し出された。智の目からも涙が零れた。
「犯人、早く見つけような」
「でも、今は何の手がかりもない。もう、犯人見つけはじめて3年経ってるし・・・」
「もう!犯人誰だよ。いつになったら出てくるんだよ」
泣いてるせいで疾登の声が震えた。
「いや、犯人は必ず姿を現すよ」
疾登は「何でだ」と聞いてきた。
「犯人は父さんと、母さんに何か恨みがあったから殺したはずだ。
だから、俺らにも何か関係があると思ったからだよ。まあ、俺の予想だけど」
智は微笑んだ。
「なんだ。予想かよ」
疾登もにっこり笑った。その後も、智と疾登は昔あった出来事を疾登に負担をかけない程度に話した。
旅行前日、花輪は智の部屋に来て明日の打ち合わせをしていた。
「いよいよ明日だね・・・あれ?疾兄は?」
智はため息をつきながら言った。
「昨日、疾登がどうしても問題の答えが知りたいって言うから教えてたんだ。結構な負担だっただろうな・・・やっぱり、やめておけば良かった。」
すると、突然、花輪が思い出したような顔をして言った。
「そういえば、私、その解答用紙見てない!」
「おぅ、そうだったな。ごめん。」
智は花輪に用紙を渡した。解答用紙を見た花輪の表情は一気に沈んでしまった。
「お母さんと、お父さんの名前・・・憶えてないんだ」
智は渋々頷いた。
「疾兄、可愛そう・・・」
しばらく、部屋が沈黙に包まれた。その沈黙を破ったのは、またもや花輪の携帯電話だった。花輪はポケットから携帯を取り出し、画面を見て切ってしまった。智はその行動を見て、思ったことを聞いた。
「また、あいつか?」
花輪はため息をつくながら言った。
「うん、最近、電話の回数が増えたの」
智は腕を組んで言った。
「まったく、しつこいな」
「本当だよ。こっちの状況知らないくせに」
智はその言葉に反応した。
「いや、それは分からない」
花輪が首を傾げる。
「この前のメール、犯人探しって書いてあったろ」
「あ、うん。それがどうしたの?」
「だから、こちらの状況をまったく理解していないっていう事はないだろう。まあ、あくまでも、俺の予想だけどな」
そう言った途端、花輪は緊張が解れたようにため息をつきながら言った。
「なんだ。予想か・・・でも、なんか、そんな気がする」
「せめて、少しの情報があれば違うんだけどな」
その時、部屋に疾登が入ってきた。もう、元気になっているように見える。
「大丈夫か?」
「疾兄、調子はどう?」
疾登は笑顔を見せて頷いた。
「明日、旅行行けそうか?」
「うん、全然大丈夫」
突然、花輪がもじもじし出した。智はその行動が気になって「どうしたんだ?」と声をかけた。すると、花輪は気まずそうに、口を開いた。
「あのさ。大事な話があるんだけど。ちょっと、疾兄も、お兄の隣に座って」
疾登は、智の隣に座った。お互いが向かい合っているので、異様な緊張感が走る。智は、この緊張感を押し殺して花輪に問うた。
「どうしたんだ?なんか急に改まっちゃって」
すると、花輪は、決心を決めたように真っ直ぐに智の目を見て言った。
「急なんだけど、実は、私は2年前からお付き合いをしている人がいて、そ」
「ちょっと待て」
智は、途中で口を挟んだ。智は、頭が混乱して、うまく整理が出来ない。疾登は口をポカンと開けたまま動かない。
「花輪、彼氏いたのか?」
「うん。今まで話さなくて、ごめん」
何ということだ。今まで全然気付かなかった。しかも、2年も付き合っていたなんて・・・ふいに、その相手が気になり、花輪に聞いた。
「その、彼氏とは、何処で知り合ったんだ?」
花輪は照れたように顔を伏せながら言った。
「私が、大学に行ってた時に、出会ったの。私がお昼休みに、図書室にいる時に、いっつも声をかけてきてくれて、それから気が合ってお付き合いすることにしたの」
確かに花輪は大学に通っていた。でも、まさか「あまり恋には興味がない」と言っていた花輪が付き合っていたなんて・・・しかし、よく考えると、2,3年前からその言葉を発しなくなっていたことを思い出した。
花輪がとても幸せそうに話しているのに、智は顔を手で覆いながら目を瞑って聞いていた。話が終わると、智は急に眩暈に襲われた。しかし、意地で踏ん張って、続けて花輪に質問した。
「彼氏の名前は?年は?」
智は、今すぐにでも泣きたい気分であった。しかし、そんな智とは反対に花輪は嬉しそうに質問に答えた。
「奥田村優翔さん。私の3つ上」
花輪は今、22歳だから25歳か。ということは、疾登と同じ年か。そう考えていると、隣に座っている疾登がソファーに寝転がって呟いた。
「なんか、急に具合が悪くなってきた」
疾登も智と同じ状態だった。無理もない。可愛い妹に彼氏がいたなんて。兄として、相当ショックだった。もちろん、疾登もショックだろう。
花輪はまた、もじもじしながら言った。
「それでね、さっきの話の続きなんだけど、私、優翔さんと結婚しようと思ってるの」
い、今、何て言った?結婚って聞こえたんだけど気のせいかな。念のため、花輪に確認した。
「今、何て言った?」
「だから、優翔さんと結婚しようと思ってるんだけど・・・」
け、結婚!!やっぱり聞き間違えじゃなかった。いきなり彼氏ができたと言われ、それだけでも相当なショックだったのに、結婚まで話が進んでいたとは・・・
そう考えていると、智は2度目の眩暈に襲われた。今度はそう簡単に治まらなかった。疾登は、失神寸前だった。智も耐え切れず、ソファーに疾登と反対の向きに横になった。
「大丈夫?2人とも。本当にごめん、今まで隠してて。それに、結婚だなんて、急すぎるよね・・・」
花輪は、智と疾登の傍に寄り添って呟いた。智はやっと眩暈が落ち着いてきて、何となく状況が分かってきた。気付くと、花輪が寄り添っていた。
智は思った。花輪はもう、立派な大人じゃないか。いつまででも智や疾登の傍にいてくれるはずがない。優翔さんと一緒にいて、花輪が幸せになれるなら、それでいい。それに、花輪の子供も見てみたいと少々期待している自分もいた。
智は、優しく花輪の頭を撫でながら言った。
「結婚するんだったらまず、挨拶しに来てもらおうかな」
その言葉に、花輪は顔を上げ、智の顔を見て、うっすら涙を浮かべながら言った。
「本当?」
智は優しく微笑んで頷いた。
「ありがとう。すごく嬉しい!」
智は真剣な顔つきになって言った。
「でも、1つ条件がある」
花輪は頷いた。
「俺がこの男は花輪に任せられないと思った瞬間、結婚は即却下だからな」
「いじわる。でも、お兄は絶対許すような人だから。すっごく優しいんだよ」
「そうか。楽しみにしておくよ」
花輪はにっこり笑った。智も微笑み返した。
今回、この小説の登場人物の名前を募集します!
男性の名前がいいです。一応、智の親友で、大阪弁を使うキャラになっています。
期間は3月8日まででお願いします。(短期間ですみません。)
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