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過去の英雄  作者: 由城 要
One knight's story
32/33

第4章 1


 BエアクトルG34−7819.25yx(14bar+Jelftユ2)×Wルーン/Rc=24





  - 続く系譜 -





 アタランテ領に入ると、俺たちは記憶を頼りにあの遺跡のあった場所を目指した。幸運なことにアタランテは地形がさほど変わっておらず、魔学術の研究所はすぐに見つけることが出来た。

 俺は馬を下りると、研究所の前で大きく息を吐いた。どうやらここは、崖の洞窟を利用して建てられたらしい。サーシャは入り口にかけられたロープをくぐると、中に足を踏み入れた。入り口や建物こそしっかりしているが、中に人気はない。

 足を踏み入れる。もうすぐ太陽が地平線に沈もうとしている。灯りのない建物の中に光が真っすぐに入ってきた。3人分の影が壁に伸びている。


「……ありました」


 サーシャはそう言うと、指先であの機械を示した。あの時見た機械は半分崩れていたが、確かにこの機械だ。試しに中に入ると、訳の分からないコードが散乱する壁際に明かりが灯る。ふと腕の時計を見ると、文字盤が僅かに光っていた。

 俺たちは目配せをすると、時計のりゅうずを動かした。時計の針が動き、俺たちはそれを数式の解へと導く。パスワードをセットし、俺はサーシャを見た。


「これで間違ってたら恨むぞ」


 片腕のクリフの時計を動かしていたサーシャは涼しげな顔でそれを無視した。その自信は本当にどこから湧いてんだ、お前は。

 サーシャに針を合わせてもらったクリフが、ふと辺りの機械の変化に気づく。俺たちがパスワードをセットした順に、壁際の3つの光が赤から青へと変化した。

 機械が音を立てて動き出す。俺はふと、疑問に思っていたことを思い出した。


「……そういや、なんであの遺跡の中でこの機械が動いたんだ?」


 アタランテの遺跡には既に何人ものトレジャーハンターが出入りをした後だった。奴らもこの機械には気づいたはずだ。この機械は遺跡の中に残っていた。これは動かず、持ち帰るほどの価値もないと判断された結果に間違いない。

 サーシャは機械音を聞きながら、静かに目を瞑る。この時代に来た時と同じように、光が俺たち3人の中心に現れた。


「あれですか……あれはどうやら私が触ったことに反応したようですね」

「さ、サーシャさん、何か押しちゃったんですか?」


 クリフが眩しさに目を細めながら問いかける。そういや、コイツは一人、先に消えたんだった。俺はモヤモヤした記憶をたぐり寄せる。たしか、サーシャが機械の前に置かれた球体に触れた。そのとき丁度クリフは機械の中を探っていた。

 サーシャは目を瞑ったまま答える。光が強くなってきた。目が痛ぇ。


「おそらく認証装置のようなものが生きていて、作動したんでしょう」

「認証装置たって……。認証されてるわけがねぇだろ、お前が」


 詳しいことはよく分からない。頭が朦朧としてきた。俺は目を閉じ、後は全てを運に任せることに決めた。クリフも口を閉じ、祈ることにしたようだった。

 ただ、サーシャの言葉だけが僅かに聞こえてくる。


「ええ。この機械が何を認証の対象としているかは分かりませんが、おそらく私は別な人間と間違われたようです」


 別な人間。問いかけようとした瞬間、瞼の裏にまで入り込んだ光が、俺の体を真っ白に染めていった。









 重力から解き放たれた、そんな感覚だった。そしてゆっくりと体が重みを取り戻す。咄嗟に俺は足場を探したが、いつの間にか地面に足をついていた。

 長い眠りから覚めるように、体が感覚を取り戻していく。目を開くと研究所は様変わりしていた。崩れかけた洞窟の壁面が見え隠れしており、天井は崩れていて空の光が入ってきている。俺は崩れた穴から空を見た。来た時と変わらない、青々とした空だ。


「……ったく、散々だったな」


 振り返ると、クリフが機械から出てきて大きく安堵のため息を吐いた。安心してへたりこんでいるクリフを横目に、サーシャは辺りを確認した。

 俺は大きく息を吐く。


「ダンの情報にゃ懲り懲りだ。今後一切手を出さねぇぞ、俺は」

「それは同感ですね」


 サーシャの言葉に、座り込んでいたクリフが苦笑を浮かべている。どうやら俺たちの意見は珍しく一致したらしい。

 外に出ると、相変わらずの砂漠が広がっていた。少し前までそこにあったはずの町並みも消え失せ、アルジェンナの砂漠が此処まで広がってきている。

 晴れ渡った日差しを見上げると、目が眩んだ。太陽だけは変わらないらしい。ジリジリと肌を焼く熱さを感じながら、俺は目を細めた。


「そ、それにしても、フレイさんが間に合ってよかったですね」


 ふと深呼吸をしたクリフが思い出したようにそう言った。そういえばコイツ、俺が単に出遅れたもんだと思ってんのか。確かに帝国軍を捕まえて前線まで連れて行くように説得するのに時間はかかったが。

 クリフは同意を求めるようにサーシャに視線を向けた。止めとけ止めとけ、この女にそんな同意を求めたって、どうせ『五月蝿いのが減ると助かる』とか『トラブルがなくなって平和になる』くらいの毒舌しか帰ってこねぇぞ。

 しかし、サーシャは珍しく何かを考えると、俺に向かって頷いてみせた。


「そうですね。安心しました」


 ああ、どうせ俺一人減ったくらいの方が静かになって楽になるだろうよ……って、はっ!?

 凍り付く俺。そしてまさか、安心した、とまで返ってくると思わなかったクリフも、衝撃的な一言を聞いてしまったかのように目を丸くしていた。


「えっ、さ、サーシャさん?だ、大丈夫ですかっ?」


 何処か頭でも打ったのかと、クリフが心配し始める。そ、そうか。頭打ったのか、それなら世迷い言一つくらい仕方ない。

 しかしサーシャは自分の言葉を更に肯定するように深く頷いた。


「本当に安堵しました。……本心からですが、何か」


 アタフタするクリフにサーシャがトドメを刺した。ちょっとこれは重傷過ぎないか?それとも俺たちで遊んでんのか、この女は?

 俺はジトっとした目でサーシャを見る。背中に汗をかきながら口を開いた。熱風で汗が噴き出しているにも関わらず、すぐに冷えていく気がするのは気のせいか。


「お前……なんか企んでんだろ……」


 いや、企んでいないはずがない。俺は自分自身にそう言い聞かせた。そっちの方がまだマシだ。多いにマシだ。

 するとサーシャは皮肉るような嘲笑を浮かべて俺を見返した。太陽の光に、髪色が照らされる。のぞく碧眼が面白いものを見たかのように笑っていた。


「自分の胸に手をあてて、よく考えてみれば分かることですよ」


 サーシャはそう言うと、砂漠に向かって歩き出した。俺は眉間に皺を寄せてその背中を見る。ふと隣を見ると、明らかにクリフが何かを勘違いした顔で俺とサーシャを見比べていたので、とりあえず一発ぶん殴っておいた。

 俺たちはサーシャの後を追って歩き出した。過去は振り返らず、ただ、前へと向かって。新たな旅の始まりを告げるように、上空を鳥が横切っていく。サーシャの碧眼がそれを映し、そして僅かに笑っていた。



FIN



後書き


 初めましての方は初めまして、何度目かの方はお久しぶりです。過去の英雄、作者の由城要と申します。


 過去の〜シリーズ、第2作目はトゥアス帝国を舞台にしたお話でした。いかがでしたでしょうか。今回は過去の話ということで、視点をサーシャ、フレイ、クリフの3つに絞って表現しました。一カ所カタリナの視点もありますが、他の登場人物は過去の人間ということで、なるべく主人公3人から見た世界として書きました。前回のような迫力や人間ドラマは少なめですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。


 あ、あとラストでサーシャが珍しい発言をしていますが、もちろんいつもの通り裏(というより事情?)があります。分からない方がいたら私の文章力が乏しいせいですね(汗)なので、とりあえずヒントだけ書いておきます。詳しいメイキングはサイトの裏ブログの方でやっておりますので、そちらをご覧下さい。

 というわけで、ヒント。


 ヒント:この物語にはサーシャの血の繋がった両親が登場しています。


 フレイがもし居残ってしまうと、サーシャにとって恐ろしいことになる、ということですね(笑)では、私の描いた答えと皆さんの答えが合うことを願って……。


 2011.04.23 由城要


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