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Evergreen ~永久なす緑~  作者: 宗像竜子
第三話 比翼の鳥
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比翼の鳥(4)

 こっちこっち、と何処となく楽しげなフレルの先導に従って、アディとリーフはその後に続いていた。こちらは二人とも居心地の悪そうな顔だ。

 リーフが不機嫌そうな顔をしている事は珍しくもなんともない事だが、アディがそういう表情をしているのは非常に珍しい。

 正直、リーフとしてはあまり彼女とこれ以上の関わりを持ちたくはなかったのだが、アディの傷の手当てもしたいし、彼女の申し出を断る十分な理由が思いつけなかった。

 対してアディはと言えば、彼とフレルの繋がりがわからないせいか何処となく不安な顔をして、時折ちらちらと二人を見比べている。

 リーフが黙って付いて行っている事で、フレルの事は信用に足る人物らしいと思っているようだが、恐らく三人の中で一番状況に付いて行けていないのはアディに違いなかった。

 そんな不安が手に取るようにわかるのに、フレルとの関係を説明するうまい言葉が見つからない。

 『昔馴染み』と先程は答えたが、今となってはあの時に人違いという事にしておくべきだった、と今更リーフは後悔した。

 何しろ── アディと共に行動するようになる以前の知り合いという事にしてしまったら、その頃の事について説明をしなければならなくなる。

 今まで興味がなかったのか、それとも聞かずにいてくれたのか、アディから出会う以前の事について尋ねられた事はない。

 だが── 昔の知人が現れた今、その頃についての質問がいつ出てもおかしくない状況になってしまった訳だ。

(…失敗したな)

 自業自得という言葉を噛み締めつつ、アディの不安を解消してやれない自分を、心の中で自嘲する。

 こうなったら後は相手── フレルの出方を待つしかない。彼女がどういうつもりで関わってきているのかはっきりさせない限りは下手な事は出来ないし、言えない。

 …不様だと思う。以前の自分だったら、アディが不安に思おうが、疑惑を抱こうが気にも留めなかったに違いないのに。

 でも…今は。

 夕闇に足元の道が覚束なくなる。フレルの足はどんどん街の外れの方へ向かっていて、同時に周辺の闇は濃くなる一方だ。

 またアディがつまづく事がないように注意しつつ、リーフは腹をくくる。

(もし…今回の事で俺の過去がアディに知られるようになっても……)

 その時、アディがどんな反応をするのか…考えるのも辛い。

 拒絶するだろうか、それとも受け入れてくれるのか。どちらの反応を取るか、今の段階ではまったくわからない。

 …それだけアディの存在はリーフの心を占めている。それはもう、誤魔化し様のない事実だ。

(アディが俺から離れるような事になっても、最後の最後まで自分を見失わないようにしよう……)

 出会ってから今まで、ずっと騙し続けてきたようなもの。嘘を嘘で固めて、理由をこじつけて側に居続けたのは自分の我侭だ。

 真実が明らかになった時、自分の居場所がなくなったとしても── 自分にはそれを受け入れる事しか出来ない。

「…わきゃ!」

 そんな事を考えていると、案の定、アディはまた小さな段差に足を取られてつんのめった。

 今度はすかさずその腕を掴んで転倒を防ぐと、アディは衝撃に強張った顔のまま、小さく『ありがと』と礼を言う。

 いつもの事だろう、と言いかけて── 結局彼は何も言わずにその手を離した。代わりに口にしたのは……。

「…礼はいいから、気をつけろ」

 いつもとは違う、何処か案じるような口調のリーフの言葉に、アディが驚いたように目を丸くした。そして嬉しそうに笑うと、うん、と頷く。

「大丈夫? アディ」

 アディの奇声のせいか、先に行くフレルも驚いたように声をかけて来る。

「あ、だ、大丈夫です!」

「暗いから足元気をつけてね。その足でまた転んだら大変」

「はは…そうですね」

 フレルの言葉に照れ笑いを返し、アディはようやくいつものような朗らかさを取り戻したようだった。

 その大きな瞳から先程まであった不安が消える。そのままその目は隣を歩くリーフに向けられて。

「転びそうになったら、またリーフが助けてくれるよね?」

 にっこり笑って言われた言葉は、普段の屈託のない口調。リーフは内心ほっとしながらも、結局いつも通りの受け答えを口にした。

「── 気が向いたらな」


+ + +


「お待たせしました! ここよ!」

 そう言ってフレルの足がようやく止まったのは、街の中心からかなり離れた場所だった。

 人通りがない訳ではないが、どちらかと言うとこの街の住人が多く暮らす場所のようで、周辺には畑のようなものや普通の民家が立ち並んでいる。

 そこに── ぽつん、と二階建ての建物があった。

「…居酒屋?」

 その入り口に掲げてある看板に気付き、リーフがその眉を不審そうにひそめると、まるでそう言うのを予想したかのようにフレルが口を開いた。

「どちらかと言うと食事処ね。でも一応二階で宿もやっているのよ?」

 未成年お断りじゃないわ、とフレルは言い、リーフとアディに笑いかける。

「さて、まず先に傷の手当てをしましょうか。こっちに来て、裏に水場があるの。…あ、宿代とかそういう交渉は中に店主がいるからそこでやって。わたしの名前を出せば通じるから!」

 一方的に指示を出すと、リーフが反論する前にアディを連れて行ってしまう。

 リーフは一人取り残され、しばしどうしたものかと途方に暮れた。

(…あいつ、あんなに強引な性格だったか……?)

 以前のフレルの事を思い返すが、昔馴染みとは言っても個人的に特別親しかった訳でもない。ただ数度── 直接言葉を交わした事があるというだけで。

 その時の事を思い返し、リーフの顔に苦虫を噛み潰したような表情が浮かぶ。

(出来れば、会いたくはなかったな)

 おそらく、向こうもそう思っているに違いない。

 それくらい、いい思い出だったとは思えない会話だった。むしろ互いに険悪だったとも言ってもいい。

 …だから不審に思う。

 アディの怪我を見過ごせなかったのだとしても、何故自分を手助けするような事を彼女がするのか。 

 読めない。

 彼女── フレルが何を思って関わってきたのか。なまじ好印象を互いに持っていた訳ではないだけに、その意図がわからなかった。

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