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Evergreen ~永久なす緑~  作者: 宗像竜子
第三話 比翼の鳥
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比翼の鳥(8)

 フレルがリーフを伴って木戸の向こうに消えるのを見送ると、コトンと音がして目の前に皿が置かれていた。

 注文した料理はもう終わっていたはずで、何だろうとそこに目を向けると、そこには今までほとんど口にした事のないような、綺麗なお菓子が置かれていた。

 ランプの光を受けてきらりと光るそれは、果物のタルトだった。

 中に詰められた赤い果実が宝石みたいにつやつやで、タルト生地は見るからに食欲を誘うキツネ色。しばらくアディは、言葉もなくそれを見入っていた。

「う…っわあ……、綺麗……!」

 正直な賞賛に、それを置いたゴードの顔はにっこりと満足そうな笑顔を浮かべる。ここまで素直に感想をくれると、作り手としてあれこれしたくなってしまう。

「こ、これ……?」

「まあ…お近づきの印、かな」

「…食べていいの……?」

 おそるおそる尋ねるその姿に、ゴードは思わず吹き出す。

 目の前に置くだけ置いて、食べては駄目なんてそんな意地悪はとても出来ない。もちろん、アディがそう考えている訳でない事もわかっている。

 どちらかと言うと注文もしていないものを食べていいのだろうか、という困惑からそんな事を尋ねたのだろう。

「どうぞ。食べてもらう為に作ったものなんだからね。…お代の事は心配しなくてもいいよ。これは宿代とは関係ないから。君の連れ…リーフだっけ。彼に何か言われたら、僕がちゃんと説明してあげるよ」

 そう言うと、ようやく安心したのかアディの顔に笑顔が戻った。

「えへへ、良かったあ。リーフって、こういうのにちょっとうるさいんだもん」

「彼…お兄さん、じゃないんだよね?」

「え、うん。血は繋がってないよ」

 言いながら、アディは添えられていたフォークを手にする。

 心はすでにタルトにあるのか、ゴードの質問に対する答えもあっさりとしたものだった。

「あたしが四歳くらいの時に会ったの。それ以来、ずっと一緒に旅をしてるんだ…── ゴードさん…これ、綺麗過ぎて崩すのが勿体無いよ~~」

 いざフォークを握ったはいいが、綺麗に仕上げられたタルトを崩せずに、アディが困った顔でそんな泣き言を言う。

 そんなアディにまた吹き出して、先程フレルと連れ立って出て行った青年を思い出す。

(なるほどね、道理で似ていないと思った)

 兄妹にしてはあまりにも共通点がないと思っていたら、赤の他人だったのかと納得する。

 だが、先程リーフがアディに向けていた心配そうな目は、本心からのもののようだった。血の繋がりなどなくても、絆というものは出来るものだと暖かな気持ちでそんな事を考えた時だ。


 …ざわ…っ


「…?」


 何か、人の気配を感じた気がして、ゴードは何気なく店の入り口へと顔を向けた。

 先程他の客は帰って行き、今、店の中にはアディとゴードしかいない。新たな客だろうか、そんな風に思った矢先。


 …バンッ!!


 乱暴に店の入り口の扉が開き、あ、と思った時には黒ずくめの男達が数人、風のような勢いで入ってきていた。

 …客ではない。

 そんな認識を持った時には、もう男達は状況についていけていない二人に肉薄している。


 …ガシャンッ!! パリーン!!


 反射的に身を引いた瞬間、腕が背後にあった壜に当たって床に落ちた。

 数本まとめて落ちたそれは、思いのほか激しい音を立てたが、侵入者を怯ませる事はなかった。

「…え、や、きゃああああ!?」

 気がついた時には、男達の一人がアディの腕を掴んで捻り上げていた。

「い…ッ、た……」

「…アディ!?」

「── 動くな」

 自由を奪われ、苦痛に顔を歪めるアディの様子に身を乗り出すと同時に、ぴたりと冷たく硬い感触と感情のこもらない声が突きつけられる。

 男の一人がゴードの咽喉元にナイフを向け、それ以上の行動を制限する。…強盗にしては変だ、と思った矢先、アディを捕えていた男が別の男に声をかけた。

「…おい、確認しろ」

「はっ…間違いありません。先日受けた報告にあった容姿と酷似しておりますし、何よりこの特徴的な瞳の色…別人である可能性は低いかと」

(…何だ……?)

 そのやり取りを聞く限りだと、どうやら目的はアディの身柄らしい。

 だが、アディ本人にはその理由がわからないらしく、自分を見下ろす二つの視線の狭間で混乱を隠さない顔をしていた。

 捻り上げられていた腕は、どうやら逃げる素振りがない事で、多少は力を緩めてくれたらしいが、完全に解放はしていない。

 一体、どうなっているのかと思っていると、アディを捕えている男と、ゴードの行動を制限している男以外が、いきなりすっとひざまずいた。

 それはなかなかに堂に入っていて、彼等がそうした礼を取る事を日常行っている事を示していた。すなわち── 明らかに、賊とは違う。

 そしてアディの容姿を確認した男が静かに口を開いた。

「…突然、このような無礼を働いて申し訳ございません」

 淀みなく発音されたのは、マザルークの言葉。

 この街では決して珍しくはないものの、その後に続いた言葉はゴードを驚愕させるに十分だった。

「旧アディア王家の直系にして、現在、唯一王位継承権を有するアディライト=ケイナ=アディア様。我等が主がその身柄を欲しておられます。…ご足労願えますか?」

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