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可変の探偵  作者: 羽月to
2/3

親友

前回出し忘れていた主人公と自称親友のフルネームを公開します。


主人公・碧山永和〔あおやまとわ〕


自称親友・犬飼利通〔いぬかいとしみち〕


(は?)


一瞬、いや、数秒何も考えられなかった。


それも当然だ。


さっきのが、夢なのか何なのかはわからないが、昨日は金曜、2025年9月12日のはずだ。


病院のベッドから起きて、全身怪我だらけだったなら納得できるが、生憎、俺が起きたのは自宅のベッドだし、全身どこにも怪我はない。


それどころか、頭痛や、喉の不調もない。


先程のことを忘れれば、絶好調と言えるほどだった。


そんな、病人、怪我人とはお世辞にも呼べない俺が、自宅のベッドで寝ていたら、いつの間にか、2,3日過ぎているということになる。


充分あり得ないことだが、この後知ることになる事実を考えれば、まだ許される程度のものだった。


現実を受け止めるのに、少し勇気が必要だったが、なんとか思考を切り替え、冷静になる。


取り敢えず、本当に月曜なのか確かめようと、携帯の日付を見ると、そこにあったのは、予想していた日付の七日前。


9月8日だった。


少し耐性がついたのか、非現実的すぎたのか、今度はすぐに思考を切り替えられた。


まず、俺は自分の記憶が本当に正しいのか、確かめるために、ここ最近で印象に残っている出来事を思い出す。


このとき、何故か


「探偵」


なんていう言葉が浮かんできたが、すぐに思考を切り替えて、記憶を遡る作業に戻る。


その時、都合よくテレビでとあるスター選手が50-50を達成した、というニュースが流れていた。その情報を、なんとか理解するが、それでも認めたくなかった。認めてはいけないと思った。


それはもう、去年の、2024年の話のはずだ。そのニュースをおぼろげながら、俺は確かに”覚えていた”。


50-50が、どのようなものなのか、説明を聞いてもピンとこなかったが、興奮気味に語るテレビの人たちを見ると、とにかくすごいことだということなのだなと思ったことを覚えている。


しかし、内容はあまり重要じゃない。つまりそれは、俺が一年前に戻ってきたことを意味する。


もしそうだとすると、俺は、2025年9月13日に電車に乗り、爆弾男に襲われて、一度死んだという滑稽な話にも、現実味が出てくる。


それが信じれなくて、認めたくなくて、必死でそれを否定する材料を探すが、スマホのカレンダーも、ネットニュースも、壊れたはずの目覚まし時計も、現在が2024年であると突きつけてきた。


それから、数十分経ってから、ようやく、認めた。認めざるを得なかった。電車での事件から、あの日から、一年前に、過去に戻ってきたんだ。



「なあ永和」


学校の昼休み、考え事をしていた俺は、後ろから不意にかけられた声に驚き、机にぶつかり


「ガタッ」


という大きな音を鳴らしてしまった。



「なんだ犬飼」



いつもと同じセリフ、だが咄嗟に取り繕ったためか、少し声が震えてしまった。


そんな時、犬飼が、じっと俺の顔を見る。



「な、なんだよ」



「いや、今日ずっと上の空って感じだから。珍しく宿題も忘れるし、何回も物にぶつかるし。いつもは永久に本を読んでるのに、今日は全く読んでいない。ほんとに大丈夫か?保健室行くか?」



過去に戻ってきた。



そのことを確信した俺は、今後のことを考えるが、その途中で、いくつかの疑問が出てきた。


なぜ俺は過去に戻ってきているのか。


俺は死んだのか。


あの爆弾男は何なのか。


なぜ俺を狙ってきたのか。


誰でも良かったのか。


この事件は、両親が関係しているのか。


など。情報が少ないのに、考えなければいけないことが多い。


おかげで、仮病という選択肢があることすら気づけなかった。


これからの方針が全く定まらず、学校でも常に考えて事をしており、注意力が散漫になっている。


今の俺を一言で表せと言われば、ほとんどの人が、挙動不審と答えるだろう。


街中を歩けば、不審者扱いを速攻で受けれるレベルだ。そんな状態なのだから、犬飼が心配するのも当然だ。


実際、先生にも何度も早退を勧められ、午前中は保健室で休んでいた。



「、、、いや、大丈夫だ。」



俺は、無理に元気なふりをし、心配をかけないようにした。



「そうか、それならいいけど、、」



犬飼が心配そうに呟くが、これ以上は空気が悪くなると判断したのか、気を取り直したように話題を変える。



「そういえばお前、〜〜〜中学校の文化祭行く?」

この質問は来ると思っていた。



「いや、やめとく。」



「え〜〜!!なんでだよ。」



「その日は新発売の本を買うって決めてるんだよ」



「いーじゃないか。そんなの来週にでも買えよ。」



俺も行ってみたい気持ちはあるが、あの爆弾男がたまたま俺を狙った可能性もあるし、1年前に戻った後の文化祭には何が起こるかわからないからな、


それからは、周囲に心配されることもなく、うまく取り繕い、無事に学校が終わった。


 放課後、学校が終わり、ようやく一日が終わるという安心感と、一寸先も見えないような霧の中にいるような不安が押し寄せてきた。



「なあ永和。見てみろよ。このアリの大群、なんか菓子クズ持ってる!。今日もアr....」



(一体こいつは何を言っているのだろうか。)



こいつはどれがボケなのか素なのかも分からないし、何より言うことやることほとんどが意味わからん。チャックも空いてるし。



「そんなことより見てみろよこれ。コンビニで買ったクロスワード。し、か、も、し〜か〜も〜プロ級だぜ。どっちがどれだけやれたか勝負な」



(こんなに「だぜ」とか言うやつだっけ。なんかいつもに比べてテンションが高いような...まあどうでもいいか。)



「これは〜電車?いや、それだとこれが〜ーー」



チャックも空けて、ここまで能天気なこいつを見ていると、少しだけ不安も和らいでくる。



(こういうときだけは、こいつと一緒にいてよかったって思えt



「ぜんぜんできねえ。はい次永和の番。」



前言撤回。


やっぱこいつめんどくさい。



 というか、こいつ最初「勝負な」とか言ってたが、一つもできなさそうなものでどうやって勝負するのだろうか。



やっぱりこいつは究極のあh



「おい、ダダ漏れだぞ。というか今めちゃくちゃ失礼なこと言おうとしたよな。」



「...キノセイジャナイカナ」



「い〜や、言おうとしたね。というか、感情込めて言えよ。せめて目ぐらいは見ろ。」



「ほら、友達なら目を見なくても通じ会えるって言うじゃん」



「それ絶対離れ離れになったり、背中合わせのときのことだろ。目を見れるときは見るべきだ。」



珍しく論破されてしまった。



「というか、話を逸らすんじゃねえ。クロスワードの話だったろ。」



「そうだったそうだった。それで、そのクロスワードを解けばいいのか。」



「そうそう。永和ならいけるいける。」と言われて見てみる。



「これは、犬飼の脳みそじゃ無理だな。」



「お前、俺に対して失礼過ぎないか。」



とはいったものの、とんでもなく難しそうだった。


というか、そんなもんではなかった。10×10マスというマス目の多さに加え、縦、横のカギともにわかる単語がほとんどなかったのである。



てかこいつ、電車とか言ってたがどこにも電車が入りそうにない。



(まあ、まずはわかるものがあるか探そう)と思い、カギを見て、記憶の中から掘り返そうとすると、すぐに異常に気付いた。



何故かそれが何なのかわかったのだ。しかも、いつもとは違う感触がした。



いつもは、自分の脳みその記憶の箱の中を情報を探し回るようにするのに対し、今回のそれは、まるで開いた扉から、脳みそに新しい情報が入ってくるようだった。



しかも、その情報をどのように知ったのか思い出せないのである。



ゲルマン民族の大移動の原因となったアジアの民族なんて、知ってるわけがない。



しかし、俺にはそれがフン族だとわかった。



もちろん、そんなことを調べる趣味などなく、授業で出たこともまったくない。



そのとき、あまりにもバカバカしい空気感で忘れていた、「探偵」という言葉が再度浮かんできた。



もう一度、絶対知らないようなことを思い出そうとする。



低カロリーで人工甘味料がとれると知られるキク科の植物。


もちろん、そんなものは知らないはずだ。だが、またあの感覚がして、それがステビアだとわかった。いったいこれはどういうことなんだ。



こんな事、俺が知ってるはずがない。



なら、知らないことでもわかる、ということなのか?しかし、いったいなぜ...



「危ねえぞ永和!」



犬飼が俺の襟を引っ張った。


クロスワードの本が横断歩道に落ち、そのあと、少し前をトラックが通っていく。がっと胸ぐらを掴まれる。


呆気にとられた俺に、犬飼が怒鳴る。



「バカ野郎!なにボーっとしてる!」



犬飼のその表情は、今まで見たことがなかった。


あの犬飼が珍しく、いや、初めて俺に対して本気で怒っている。


急な出来事に呆然としてると、犬飼も少し落ち着いたのか、掴んでいた手を解き、俺の肩に手を置く。



「今日、ずっとだよな。ずっと、眼の前のことじゃなくて、別の事考えてる。なにがそんなに気になる!なにがそんなに不安なんだ!何も今日だけじゃないよな。答えろよ。答えてくれよ...俺達、友達だろぉ」



最初は怒鳴るように、しかし、言葉を吐き出していくたびに弱々しくなり、最後には泣きつくように、嘆願するように言ってきた。


その言葉は、俺の心にどこかあった、こいつとの間に作った壁を壊して、図々しくも、オレの心をさらけ出した。


少しの沈黙の後、犬飼が手を離し、後ろを向き、ゆっくりと歩く



「...ごめん。今のは...忘れて



「待ってくれ!」



犬飼が目を丸くして振り返った。いつものように茶化すのは簡単だ。けど、ここではぐらかせば、もう、二度とチャンスはないと思った。



「犬飼。今までごめん。」


「えっ!」



今まで、こんなに罪悪感を感じて、心から謝ったことがあっただろうか。それと同時に、



「それと、ありがとう。俺の友達でいてくれて」



ここまで、嬉しいと思って、感謝を伝えたいと思ったことがあっただろうか。



「これから、改めて、親友として、一緒にいてくれないか」



「ああ!ああ!もちろんだ!」



少しベタな展開だなと思いながら、俺達は泣きながら握手をした。


それから、しばらくしたら、俺達は改めて帰り道をたどり始めた。



「というか、犬飼。あの空気感で言うのがためらわれたんだけど、チャック空いてるぞ」



「はあ⁉何で言ってくれなかったんだよ」



「あの空気感で言えるかよ、アホ」



「いや、お前絶対ちょっと前に気づいていただろ。」



それからいつもは少し早歩き気味に歩く道を、今日は、分かれ道まで、ゆっくりと歩いていった。

今回も話が面白いと思ってくださった方がいれば、ぜひコメントよろしくお願いします!

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