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もっと一緒にいたいから

急な呼び捨ての上に、変なことをいわれて慌てて離れて後ろを向くと、偉二さんはニヤニヤしていた。


「あっ、顔まで赤くなっちゃったね。奏人くんはほんと可愛いね」


俺は何も言えなくなり、ただ偉二さんに顔をしかめるしか出来なかった。


「ごめんね。ただ、僕が買ってあげたかっただけだから」


ニコッと笑った偉二さんはさっきのように首の後ろに手を回す。また顔が近くてそわそわしていると、偉二さんはネックレスの留め具を外し俺から離れた。


「じゃあ、買ってくるから、ここで待っててね?」


「うん...」


俺は大人しくその場で待っていると、偉二さんが戻ってきた。


「お待たせ。はい、これ」


「ありがとう」


俺は袋を受け取り、ネックレスを取り出す。


「今つけるの?」


「うん。偉二さんとのデート中だし」


「じゃあ、僕がつけてあげる」


そう言ってネックレスを取ろうとする偉二さんからネックレスをスっと離した。


「つけるなら後ろからつけてくれない?」


「また耳赤くなっちゃうもんね」


ふふっと笑う偉二さんにネックレスを渡し後ろを向く。ネックレスを後ろからかけられ、留め具を留めてくれる。


「できた」


そう聞こえ偉二さんの方へ体を向ける。


「いいね、似合ってる」


「ありがとう」


「じゃあ、行こっか」


その後、数店舗回り、時刻は12時40分頃。


「そろそろお昼にする?」


偉二さんのその言葉に俺は頷く。


「何食べようか」


「奏人くん、何か食べたいのある?」


「特にないかな。ちょっと一通り見てみる?」


「そうだね」


そして俺たちは飲食店を一通りみて、かつ屋に決め、店に入った。メニューは色々あったが、俺は味噌カツ定食、偉二さんはメンチカツ定食を頼んだ。しばらくすると、料理が運ばれてきた。


「うわ〜、美味そ!」


「美味しそうだね〜」


「じゃあ、いただきます!」


俺はカツを頬張る。


「うまぁ〜」


そんな俺をみてニコッと笑った後、偉二さんもカツを頬張る。


「うん、美味しい。奏人くんも1口食べる?」


「じゃあ貰おうかな」


俺がそう答えると、偉二さんはニコッと笑い、カツを箸でつかみ、俺の口元へ運ぶ。いつもの事なのに、何故か今日は少し恥ずかしかった。俺は口を開け、カツの方へ口を近づける。カツ1切れは大きく、流石に一口では食べれないので、半分くらいで噛みちぎった。


「これも美味いね」


「でしょ?」


ニコッと笑った偉二さんは、残りの半分を自分で食べる。俺の食べかけを食べて嬉しそうに笑っている。変な人だ。


「あっ、奏人くんのも食べてみたいな」


「あぁ、いいよ。はいっ」


俺が偉二さんのお皿にカツを置こうとすると、片手で塞がれる。なんだと思い偉二さんの顔を見ると、口を開けてもう片方の手で自分の口を指さしていた。

食べさせて欲しいのか。俺が偉二さんの口にカツを運ぶと、偉二さんは嬉しそうにカツを噛みちぎった。


「美味しい〜、奏人くんに食べさせてもらったから余計に美味しい〜」


「ちょっ、それ口に出さないでよ」


偉二さんから食べさせてもらうことはよくあったが、俺が食べさせるのは初めてだった。そのせいか偉二さんはニコニコ笑っている。俺はなんだか恥ずかしくて、残りのカツを口に放り込む。


「あっ、僕の食べかけ、食べてくれたの?なんか嬉しい」


「別に嫌じゃないから」


俺がそう答えると、偉二さんは少し驚いた顔をしたあと、また笑顔に戻る。


「もしかして奏人くんって、もう結構僕のこと好き?」


「はっ!?」


突然そう言われ、俺は慌てて否定する。


「いやっ、別にそんなことないけど?」


「ほんと?」


「ほんと」


「なんだ、残念」


偉二さんはガッカリした顔をして、カツを食べた。しばらくしてカツを食べ終わった俺たちは一息つく。


「ふぅ、お腹いっぱい」


「そうだね、この後どうする?奏人くんもう帰る?」


「う〜ん...」


正直、帰りたいなんて思っていない。むしろ偉二さんともう少しいたいという思いが頭によぎっていた。


「もう少し偉二さんといようかな。クレープも食べたいし」


「クレープ食べたいの?」


「うん。さっき見かけて食べたいなって思ってたから」


「じゃあ、食べに行こっか」


偉二さんは会計表を持って立ち上がる。俺も後に続いた。ちなみにクレープが食べたいというのは嘘では無いが、この後も偉二さんといるための口実で言ったというのは、偉二さんには秘密だ。会計の時、また奢ってくれようとしてたので俺は「割り勘がいい」といって割り勘で払った。店を出た俺達はクレープの店へ向かう。2人それぞれ好きなクレープを買った。さっきのカツのようにお互いのクレープを分けたりして、クレープを食べ終わった。


「他に何か食べたい物ある?」


「う〜ん...」


正直、もうお腹に入らない。カツ食べて、クレープ食べてお腹いっぱいだ。食べ物以外で行くか、ゲーセンとか?


「食べたい物はないけど、ゲーセン行きたいかも」


「あ〜、UFOキャッチャー好きなの?」


「うん、まぁ、そう」


嘘だ。UFOキャッチャーなんてやったことない。あんなの俺がやったところで取れないし。でもただ、もう少し一緒にいる口実が欲しい。って、なんで俺はさっきからもっと偉二さんと一緒にいたいと思ってしまうのだろう。まさか、俺は偉二さんのことが好きなのだろうか。もう自分でも分からない。


「奏人く〜ん?」


偉二さんに名前を呼ばれ、我に返る。


「あっ、ごめん」


「何?考え事?」


「うん、そう」


「もしかして、僕のこと考えてたりして」


「うん」


「えっ」


つい口が滑ってしまい、俺は口を抑える。それを見て偉二さんはニコッと笑う。


「何?僕のことって」


「え?いや?その、勢いで頷いちゃったっていうか、なんていうか」


俺が焦ってそういうと、偉二さんは俺の目を真っ直ぐ見ていう。


『正直に言って?』


「偉二さんともっと一緒にいたいなって思って。UFOキャッチャーとかやったことないくせに、一緒にいる口実にして、ゲーセン行きたいって言った」


言うつもりなんてなかったのに、まるで操られたかのように俺の口からスルスルと言葉が出た。


「僕の家にゲームとかあるけど、来る?」


偉二さんは優しい笑顔でそういった。俺はこくりと頷いた。

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