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彼の気持ちと俺の気持ち

人がいないところ。穴場ってやつだろうか。衛二さんの方を見ると、寂しそうな目で俺を見ていた。そんな偉二さんを見て一緒に見るべきだと、そう思った。


「わかった。」


俺がそう答えると、衛二さんは俺の腕を掴んでニコッと笑う。


「こっち」


衛二さんに連れられて、俺は祭りの会場を抜け出した。歩いてるうちに花火も上がり始めたが、建物に隠れて全然見えない。街の中を歩き、とあるマンションの前で止まる。


「ここ。」


「ここは?」


「僕の家だよ。ベランダから見たらよく見えると思うよ。」

衛二さんは僕の腕を掴んだまま、マンションの中へ入っていく。衛二さんの部屋は5階で、花火を見るには充分の高さだった。

部屋に入ると、ベランダのカーテンから花火の光が漏れてチカチカしていた。衛二さんはベランダの方へ歩いていき、カーテンを開ける。

カーテンを開けると、花火が見えて、とても綺麗だった。

俺の足は自然とベランダの方へ向かっていた。衛二さんはベランダのドアを開け、外に出た。俺も続いてベランダに出る。


「...きれ〜」


「綺麗だね」


衛二さんを見ると、俺を見てニコニコしている。それにしても顔がいいな。花火に照らされてなんだか余計にかっこいい気がする。俺は花火に視線を戻す。

しばらく見ていたが、横から視線を感じ、横を見ると、衛二さんが俺を見ていた。俺は2度見しつつ質問する。


「何見てんの」


「奏人くんを見てるんだよ」


「それは分かってるけど...何か用があるんじゃないの?」


「いや?別にないけど」


「じゃあなんで俺見てんの。俺じゃなくて花火見なよ」


「だって、僕は花火より奏人くんを見たいから」


衛二さんは優しい目でそう言った。


「あっそ...」


俺はなんだか恥ずかしくて、話題を変える。


「そんな事より、こんなとこで俺と花火見てていいの?」


「え?なんで?」


「...好きな人、いるんでしょ。祭りもそうだけど、誘えなかったの?」


「誘えたよ」


「でも、今俺といるってことは断られたの?」


「いや?」


この人は何を言ってるんだ。意味がわからない。


「...あ〜、ドタキャン?」


「違うよ。今一緒に居てくれてるよ」


「は?」


今一緒にいる人。そんなの俺しかいないじゃないか。一瞬疑問に思ったものの、俺はある考えに定着した。


「あ〜...好きな人ってそういう事」


「そういう事って?」


「衛二さん、好きな人なんて言い方したら誰でも好きな女の人がいるって勘違いするよ?」


「好きな女の人なんていないよ。僕が好きなのは奏人くんだけだよ?」


またそれだ。この人はどれだけ俺の事が好きなんだ。


「はいはい。俺の事大好きなのは充分伝わったからもう言わなくていいよ?」


「奏人くんは僕のこと好き?」


「好きだよ。衛二さんといると楽しいし!最高の友達ができたよ」


俺がそう答えると衛二さんはふふっと笑う。


「何?嬉しくて笑ったの?」


「違うよ、奏人くんが可愛くて笑ったんだよ」


「...今の俺のどこが可愛いかったんだよ」


「だって、奏人くんがすごく鈍感だから」


「鈍感?なにが?」


疑問に思い衛二さんを見ると、ふいにキスをされた。


「僕はこういう意味で奏人くんが好きだよ」


俺は突然の出来事に驚き、言葉が出なくなる。そんな俺の目を衛二さんは真っ直ぐ見て言う。


「...だからね、奏人くんも僕のこと好きになってくれたら嬉しいな」


ニコッと笑ったあと、衛二さんはあくびをした。


「...あれ、おかしいな...あっ、そっか、さっきの...」


「さ、さっき?」


「ごめんごめん、なんでもないよ。僕、ちょっと寝るね」


「えっ」


この状況で寝るのか。まだ俺は理解が追いついてないのに。衛二さんは部屋に入りベットに寝転がった。

俺も何となく部屋に入る。衛二さんはそんな俺をチラッと見て言う。


「...ゆっくりしてて。多分、10分か15分くらいだと思うから」


「あっ、うん。わかった」


俺がそう答えると衛二さんは寝息を寝息を立てた。もう寝たのか。俺は机の前に置かれた座布団の上に座り考える。衛二さんは俺の事が恋愛的な意味で好き。そして衛二さんは俺に好きになって欲しいと言っていた。それはつまり、友達ではなく恋人になりたいということ。俺は衛二さんと友達以上の関係になるなんて考えられなかった。なんだかこのまま一緒にいるのは気まづいな。そう思って俺は衛二さんの部屋を出た。


「...メールくらい、しとかないと」


俺は携帯を取りだし、衛二さんに『ごめんなさい。今日はもう帰ります』とメールし、家に帰った。しばらくして『わかった。びっくりさせちゃってごめんね』と返ってきた。俺は返信をしないまま、次の日を迎えた。

さ次の日、俺はいつも通りカフェで働く。そして、いつもの時間に衛二さんが来た。少しぎこちなくなりながらも席に案内する。水とおしぼりを持っていくと、衛二さんに話しかけられた。


「奏人くん、昨日はごめんね。気まづいかもしれないけど、いつも通り接してくれると嬉しいな」


「あっ、うん。わかった。注文はいつものでいい?」


「うん。よろしく」


「了解。少々お待ちください」


俺はその場を離れながら考える。わかったとは言ったけど、正直いつも通りって訳にはいかない。なんか変に意識しちゃうし。だから、なるべくいつも通り接した。そしてお会計が終わった後、衛二さんは言った。


「昨日のお詫びと言ってはなんだけど、何か奢らせてくれない?今日の夜、食事に行かない?」


「あー...ごめん、今日はちょっと用事があって」


本当は用事なんてなかった。ただ今は、衛二さんと2人で会うのはなんだか気が引けるから。


「そっか...じゃあ、明日はどうかな?」


明日か。多分、明日も会う気にはなれないと思う。なんとなくだけど。というか、しばらく2人で会うのをやめようか。そう思って、俺は衛二さんに言う。


「衛二さん、その...俺、まだ頭の整理ができてなくて...」


そこで口をつぐむ俺を、衛二さんは優しく見守ってくれる。それに甘えて、俺は勇気を出して言う。


「その...整理ができるまで、二人で会うのはやめたくて...」


少し俯き気味でそう言うと、衛二さんは少し悲しそうな顔をしてからニコッと笑った。


「そっか。そうだよね、ごめんね。それじゃあ、また」


そして衛二さんは、店を出ていった。

次の日、いつもの時間になっても衛二さんは来なかった。次の日も、その次の日も。俺は二人で会うのはやめたいって言っただけで、店に来て欲しくない訳ではなかったのに。衛二さんのこない日々は、なんだか退屈に思えた。でもそれは、衛二さんの事が好きだからとかではなく、仲の良かった常連客が来なくなってしまったからだと思う。

そんなある日、家族で晩御飯を食べていると、母が話しかけてきた。


「奏人、何かあったの?」


「えっ?なんで?」


「なんだか最近、元気がない気がして」


「俺も思ってた。悩み事があるなら、父さん達が聞いてやるから、な?」


さすが、親の勘は鋭いな。2人の好意は嬉しかったが、衛二さんに告白されたなんて当然言える訳もなく、俺は黙り込んでしまった。


「...もしかして、衛二くんと何かあったの?あの子最近来てないじゃない」


「たしかにそうだな...もしかして喧嘩か?」


「あぁ...うん、まぁ、喧嘩ではないんだけど、ちょっと色々あって...」


「あらそうなの?でも、元気がなくなるくらいなんだから、仲直りしたいんじゃない?」


「...まぁ、そうなのかも」


仲直り...どうなのだろう。でも最近は衛二さんの事ばかり考えてしまう。例え仕事中であっても。


「1度、ちゃんと話し合ってみたらどうだ?父さんも友達と喧嘩したことあるけど、ちゃんと話し合ったら仲直り出来たぞ」


「...そうだね」


話し合いか。俺の場合は向き合うってことだろうか。衛二さんと向き合う。自分の気持ちを確かめるためにもそれがいいと思う。


「父さん、母さんありがとう。俺、ちゃんと衛二さんと向き合ってみる」


俺の言葉を聞いた父さんと母さんはニコッと笑った。

俺は残りの晩御飯をサッとたべ、自分の部屋へ駆け込んだ。携帯を取りだし、衛二さんに電話する。3コールほど鳴ってから、電話が繋がった。


「もしもし」


「あ、もしもし、衛二さん。ちょっと話したいことがあって。今時間あるかな?」


「...うん。大丈夫だよ」


なんだか不安そうな声だった。好きな人に突き放されたのだから、当たり前なのかもしれない。俺は少し、申し訳なくなる。


「その...ちゃんとご飯食べてる?」


俺は何を聞いてるんだろう。親じゃないんだから。そう思ったけど、衛二さんがふふっと笑って安心する。


「ちゃんと食べてるよ。何?奏人くん。僕のこと心配してくれてるの?嬉しいな」


「うん、まぁ、心配だったけど...その、この前はごめんね」


「奏人くんが謝ることじゃないよ。困らせちゃったのは僕の方だし。ほんとごめんね」


「ううん。いいの。それでね、俺、あれから色々考えたんだけどね、衛二さんへの気持ちがまだよく分からないんだ。だからその...」


そこで俺は言葉を詰まらせる。衛二さんと友達になった日。あの日の衛二さんに言われたことを、今度は俺が言う番なんだ。


「「俺と...デートしてくれませんか?」」

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