5話 訓練開始
時雨日々生が、特課こと大阪府警特別対策課所属になって数日後のことだった。
時雨は訓練を始めるため特課ビルに来いと、班長の流師善彦から連絡を受けた。
時雨はエントランスに入ると管理人室に向かい、管理人と挨拶を交わした。
「お疲れ様です! 改めまして、特課第二班に配属されました、時雨日々生です。今日から訓練を始めます。これからよろしくお願いします!」
「お! 時雨君! 今日から訓練か、精が出るな! あんまり無理したらあかんで! 訓練場は地下3階にあるわ。行ってらっしゃい!」
「はい! ありがとうございます! 行ってきます!」
時雨は昇降機に乗り、地下3階訓練場へと移動した。
そこはスポーツの試合ができそうなほど広く、天井も高くなっていた。
(久しぶりにバレーボールしたいなあ)
辺りを見渡すと、室内は無機質なグレーの壁に囲まれ、奥には人を模した訓練用の人形が用意されていた。
「お待たせしました」
エレベーターから班長の流師が降りてきた。流師は相変わらず黒のスーツがよく似合っていた。
流師の後ろには、黒のスーツを着た若い女性がいた。彼女の髪は顎の辺りで綺麗に切り揃えられ、表情は硬く、目はキリッとしていた。身長は女性の中では高く、170センチほどはありそうだ。とっつきにくそうな印象を彼女から受けた。
「流師さん、今日から訓練よろしくお願いします。そちらの方は?」
「顔合わせだけでもしてもらおうと思いまして、パトロール前に呼びました。彼女が私達二班の副班長です」
「特課第二班副班長の白南風喜己。よろしく」
白南風は見た目の印象通りクールに話す女性だった。
「初めまして、時雨日々生です。精一杯頑張りますのでこれからよろしくお願いします」
「ヨシさん、顔合わせは済んだから私はパトロール行きますね」
かなりドライな白南風の態度に時雨は少し困惑したが、これから親しくなればいいと自分に言い聞かせる。
「わかりました。ですが、白南風君。何回も言いますが、私のことは班長と呼びなさい。あと、夕方から雨の予報なので傘も忘れないように」
白南風はコクリと頷く。
「時雨君、銘力の訓練はサボっちゃダメよ」
二人の表情が一瞬曇ったのが、なぜか印象的だった。
「意外と優しい方ですね」
「はい。白南風君は少し冷たくみえますが優しい人です。今後、彼女と行動することもありますのでよろしくお願いします」
「班で常に行動するわけではないんですか?」
「事案の規模によって様々です。時雨君が単独で行動することは当分ないので安心してください」
「あの、僕が流師さんと二人で行動することも多いんでしょうか」
「何か不満でも?」
(この微笑み方は、圧力をかけられている……!)
「いえ! ありません!」
流師の機嫌を損ねてはこれからの訓練でシゴかれかねない。時雨は流師に気持ちのいい返事をした。
「よろしい。それと、私のことは班長と呼んでください」
「はい! 流師班長!」
「流師班長ではなく、班長です!」
流師は再び時雨に圧迫感のある微笑を向ける。
(なんのこだわりなんや……)
「はい、班長!」
時雨がおとなしく折れると、流師から感じられた無言の圧はなくなった。
「よろしい。それでは早速訓練を始めます」
こうして時雨の初訓練が始まるのであった。