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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
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狂乱


 静寂に包み込まれた戦場。

 そこへ、不吉をはらんだ2つの叫び声がこだました。音の鳴る方。そこには、紅に染まった度田(どだ)と有田の姿があった。


「きぃええええええ!!!」


「どうせ特課に捕まるなら、ここでお前ら皆殺しや!!!」


 顔面の穴という穴から血を流している度田と有田。開口すれば、言葉と共に血塊(けっかい)を吐き出した。


 二人の異変にいち早く布川が気付いた。


「あいつら、“シロガネ”を使った……?」


 布川の顔から色が抜けていく。蒼白になった表情で、すかさず声を張り上げた。


届山(とどけやま)、今すぐ逃げろ!

 シロガネは銘力を強制的に増強する!

 今のお前らじゃ、あいつら二人には勝たれへんッ!」


「……!」


 布川の剣幕と耳に飛び込んできた情報から、届山響(とどけやまきょう)の目が見開いた。

 

 そんな響の隣で横たわる布川は、仲間達へと思いを馳せていた。狂気に侵され、正気を失ってしまった仲間達へと。


  (有田、度田。もう辞めてくれ……。

  俺らの負けなんや。こんなこと、何も意味ないことに気付いてくれ……!)


 


 有田と度田の発狂に一同が呆気に取られた一瞬。ほんのわずかな時の流れの中で、有田の血濡れた口元が歪み、床を力強く蹴り飛ばし、駆けた。


 布川の願いは、二人に届かなかった。


「女の顎に、ピンポイントヒット――」


来羅(らら)を守れッ!」


 響の咆哮に、来羅の一番近くにいた皐月(さつき)の身体が咄嗟に動いた。来羅と有田の線上に立ちはだかり、大の字で構える。

 

 しかし、有田が巻き起こす風は二人を横切っていく。頬を打つ空気の流れ、その鉄臭い残り香が、呪縛のように皐月の身体を硬直させた。


 (なんや……今のあいつは…………)


 


 “リリッカー”から手出し無用、と告げられた特課の班員は、流師(ながし)白南風(しらはえ)時雨(しぐれ)に分かれて、彼等の死闘を見守っていた。しかし、もうそれどころではない、と判断した班長の流師。

 

 白南風と時雨の方へ振り向きながら、内ポケットのスキットルに手を伸ばし、流師は大声で指示を飛ばした。


「二班各員戦闘準――」


 しかし、その間に目の当たりにする。

 もう既に、有田の拳が部下に差し迫っている光景を。


 (間に合わない……!)


 有田の狙いは、白南風だった。

 

 狙われた当の本人もそれを承知した。

 

日々生(ひびき)! 下がっ――」


 白南風は戦いに巻き込まないために、部下である時雨を、庇うように自身の後方へと押し退けた。

 

 瞬間――手に力を集中。

 

 白南風は銘力を一気に全開放した。風を操る彼女の銘力ならば、能力発動と同時に嵐のような激しい旋風が空間を支配する。

 

 そのはずだった。

 

 しかし、空気が死んだ。

 風を操る彼女の周りは静かで。

 銘力は彼女の思いに応えなかった。


 (どうして! こんな大事なときにっ!

  出ろ! 吹き荒れろっ!!!)


 部下を庇うような素振りを見せなければ、あるいは、彼女が本来の力を存分に発揮できれば、結果は違ったのかもしれない。


 だが、嘲笑う有田は“有言実行”を見事にやってのける。彼の速度と体重を乗せた右の拳が風を断ち、端正に整った白南風の顔を撃ち抜いた。

 

「え? 白南風……さん…………?」


 白南風に押され尻餅をついた時雨の隣を、意識を失った白南風が弾丸のような速さで通り過ぎていく。


 (俺を庇って……?)


 白南風の身体が時雨を横切る、瞬きの間。彼女の虚になった瞳が、骨が折れ歪む顔が、軌跡を残し漂う血の流れが、スローモーションのように時雨の目に映った。


「あんな虫の息のリリッカー(ゴミ)より、まずは特課(おまえら)からや!」


 時雨の目の前に立つ有田。二人の遥か後方から白南風が落下し、地面と擦れる摩擦音が聞こえる。しかし、時雨はそれを見ることができなかった。


「お前……よくも白南風さんを……」


 地面を握りこんだせいで爪に入りこんだ土の温度は異様に冷たい。四白眼に見開いた時雨は、有田を見上げる。一矢報いようと、音もなく腰を浮かした。


 だがその時雨の挙動を、有田は良しとしなかった。


「顔面に右ミドル!」


 荒々しい宣言とは裏腹に、有田の構えは静かで、基本に沿った美しいものだった。滑らかな重心移動が可能にした骨盤の回転が、延長線上の脚をしならせる。中腰の体勢となっている時雨が、咄嗟に上げたガードの上から一撃。


 (俺のせいで……

  俺が守られたせいで…………)


 たった一度の蹴りだった。

 

 しかし、銘力を発動していない時雨にはあまりに重い一撃。

 

 時雨はわずか一手で沈んだ。

 

「しゃしゃんなや。新人の雑魚に用はない」


 倒れる時雨を背に、有田は吐き捨てた。

 彼の身体は既に次の標的。

 流師へと歩を進めていた。


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