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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
44/52

バカにしか通じない作戦

 

 銃口が光り、銃声が響いた。

 言葉は己に弾を放った。

 『俺を後方へ飛ばせ』と銘力を込めた弾丸  を。

 言葉の身体は瞬時に後方へ飛び、度田の攻撃を避けた。


「それ。5発目、最後やん。なんや、結局僕にグサグサされたいんや。かわいよよよ!」


 度田は「もう弾はない」と油断し、隙だらけの突きを繰り出していた。

 狂気にまみれた笑顔で。


 だが、慢心が敗北を招く。


 刃は届かない。

 しかし、弾丸は届く距離。


 それは、言葉の間合いだった。


「お前がバカでほんまによかったわ」


 青く冷たい瞳が度田を貫く。

 言葉は度田に銃口を向け、撃鉄を倒した。


 度田の瞳孔が収縮し、息を呑む。


「お前が込めた弾は5発。

 6発目はないやろ!」


「Surprise,motherfucker――

 《Inevitable(必然的)Shot(一撃)》」


 爆ぜた銃声が鼓膜を突き刺し。

 度田の視界にオレンジの閃光が煌めいた。

 着弾箇所に痛みは感じない。

 凄まじい衝撃も感じない。


 しかし、言葉が弾丸に吹き込んだ言霊が度田の身体を支配する。度田は膝を折り、そのまま地面に崩れ落ちた。荒い呼吸だけが残り、ピクリとも動かない。




 言葉は銃口を下げ、荒い呼吸を整えながら、床に沈む狂人を見下ろした。


 ――(きょう)の作戦のおかげやな。

 でも、マッチアップの誘導は驚いた。来羅の性格を上手いことつかいよって。

 ほんで、4発目の偽装はヒヤヒヤしたわ……。


 ***


「なるほど。管理人のおっちゃんに負けて、今後の戦いの相談か。珍しいな、言葉」


「ああ。すまん、こんな決戦直前に」


「ええよ。でもお前、5発弾丸を作るときはスピードローダー出せるようになったんやろ?」


「やけど、そんなけやったら弾数、連射速度の問題が解決せんから」


「それはもうしゃーないやろ。流師が言うてた。銘力は成長するって。

 実際、お前もおっちゃんとの戦闘で成長したわけやし、今後に期待や。

 明日は今の状態でどうにかするしかない」


「せやな……」


「戦い方の工夫でどうにかするしかないやろな」


「戦い方の工夫?」


「せや。敵の銘力と性格はわからん。せやけど、拠点とする建物の構造は事前情報で知れた」


「……?」


「まー、最後まで話聞け。相手の傾向によっては、お前の勝ちパターンに誘導して嵌めることも不可能じゃないってことや」


「それを……教えてくれ……」


「お前が頭下げるとは、よっぽどやな」


「今回だけは、絶対に負けられへん」


「顔上げろ。恥ずべきことじゃない。仲間の為やろ。ダサいことなんかなにもない」


「響……」


 響は腕を組み、鋭い眼光で言葉を見据えた。


「ええか、よう聞け。前提として、相手の性格も銘力もわからん状態での作戦や。うまくいく可能性は高くないし、付け焼き刃の戦略。臨機応変に動け」


「わかった」


「まず、戦う環境や。屋根と壁だけ吹き飛ばして、柱となる部分は取り残せ」


「なんでや?」


「銃持った奴を相手にしたとき、他に何もなければ、普通柱を盾にするやろ。動きを誘導すんねん」


「なるほど……」


「お前との間に柱がなくなれば、相手は腹括って攻めてくる。そこを狙え」


「そんだけ!?」


「アホ。そんだけなら無理や。そこから、相手に残弾数を誤認させろ」


「…………」


「拳銃を手にした奴が目の前に居って、破裂音がしたら、銃声と勘違いする奴も多いやろ。ましてや戦闘中。銃口が光ったり、煙が上がってないことに気付ける奴は多くない。後ろに逃げるフリしながら爆竹でも鳴らせ」


 言葉は固唾を呑み、頷いた。


「最後に、油断させろ。

 もうお前に弾はないって状態で無防備に攻撃を仕掛けてきたバカにトドメ。これでしまいや」


「響。お前天才かよ」


「アホか。こんなん作戦でもなんでもない。相手がよっぽど頭悪い単細胞やないと通じひん。

 ま、そこは俺が戦う前に一番嵌めやすそうな奴とお前が戦う流れを作る。近接戦闘しかできひんバカがおることを祈っとけ」


「わかった。ありがとう」


「最後に、これが一番大事や。

 何があっても、冷静さを欠くな」


「そんなことわかってる」


「いいや、お前はわかってない。つむぎがどんなけ侮辱されても冷静に行動すると誓え」


「……!」


 言葉の拳が震えた。


「これができんかったら、相手が誰であっても無理や。ちゃんと覚悟決めろ。全ては勝つためや」


「……わかった」


 ***


 言葉は倒れた度田に腰掛け、落ちていたナイフを握りしめる。真っ赤な自身の鮮血を拭き取り、刃にこびりつく黒ずんだ染みを見つめた。


 ――こんなクズの血と混ざりたくない……よな。これでええよな、つむぎ……。


 言葉はそっと地面にナイフを突き立てた。

 

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