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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
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第二ラウンド


 谷口来羅(たにぐちらら)は、有田実(ありたみのる)と向かい合う。両者の視線がぶつかり激しく火花を散らす。

 

 少し距離を置いて、来羅の後ろから皐月(さつき)は二人を見守っていた。これは来羅の戦いと、自身もつむぎの仇を討ちたいという一心を抑え拳を握り締めていた。

 

「谷口。そんなに俺にいじめられるのが好きなんか?」


 額に薄っすらと汗を浮かべた有田はほくそ笑む。


「糸井がどんな感じで死んだか……知りたい?」


(こいつ……!)


 来羅の顔は強張り、熱が身体の中心から隅々まで広がるのを感じた。今すぐにぶちのめしてやりたいという思いと、つむぎのことを少しでも知りたいという思いがせめぎ合う。


「みじめにな、泣き喚いてたわ。それはもう傑作でさ。仲間だけには手出すなって」


(…………!)


「昔あんなに威張り倒してたあいつの屈服した表情。ホンマ、最高の気分やったわ」


 馬鹿にするような薄ら笑いを浮かべた有田に向かい、来羅は走り出していた。ただがむしゃらに、目の前のクズを打ちのめすために。


「来いよ谷口! あの昼休みの続き! 第二ラウンドを! 始めよかっっっ!」


 因縁の相手との開戦のゴングが鳴る。


 肉と肉がぶつかり合う音が鳴り響く。

 互いにほとんど移動せずに、真正面から乱打戦を繰り広げる。


 両者。奇しくも同様にキックボクシングスタイル。構えも同じ。左脚を前に出し、脇を締め両腕を上げて、ガードも怠らない。


「ジャブ、ジャブ、ストレート」


 ――上半身を振ってジャブを避ける。左手でストレートの軌道をずらしたとこに、右でカウンター。


 撃ち合いを始めてすぐに来羅は異変に気付いた。


 ――不利になんのに、なんで有田は口に出して攻撃すんの……。


「左フック、右ミドル」


 次第に有田の風切り音が高くなっていく。


 ――銘力で底上げされてる私と同等。

   いや、それ以上に打ってくる……!

   パワー、スピードが段々上がってる!


「ジャブ、ボディー」


 ――宣言してから攻撃するのは、多分銘力が理由。そんで私と似た効果……。

 有田の座右の銘は……“有言実行”!


 有田の攻防速度は来羅のそれを凌駕した。

 来羅の銘力“不言実行”は、口に出さず考えを実現すると、身体能力が上昇するというもの。達成難度が高いほど上昇率も高まる。


 有田の銘力は、来羅の予想通り“有言実行”。口に出したことを実現させると身体能力が上昇していった。


 ――不実行時の能力低下を防ぐために、有田は攻撃の種類だけを言ってる。

 でも、これなら細かく条件設定してた私の方が上昇率は高いはずやのに。

 なんでこんなに押されてるん……!?


 防戦一方になってしまった来羅。

 そこに、有田の体重を乗せた重たい一撃が放たれる。


「前蹴りっ!」


 有田から汗が飛び散る。

 黒のジャージは水分を含み色を変え、髪は束感を増し、毛先に雫を蓄えていた。

 空に舞った水滴は日差しを反射してキラキラと輝く。

 

 腕をクロスにして蹴りを防いだ来羅は、その光景を見て気付いた。


 ――私よりも大量の汗……。

   有田は、最初から汗をかいてた。

   能力を上昇させた状態で戦闘を始めてたんか……!


 気付くのが遅かった。

 同じ戦闘スタイルに同系統の銘力。

 

 力と速度で優るものが勝つ。

 至極当然の展開だった。


「右ストレート」

 

 ――マズい、もうガードで精一杯っ!


 来羅は脇を締めて、ガードを上げた。

 亀のように丸まり防御に徹する構え。


 攻撃を捨てた来羅の隙を有田は見逃さない。反撃など許すはずもない。少しでもガードを緩めれば1発KOの鉄拳。容赦なく拳の弾幕を張った。


「左右のフックのラッシュッッッ!」


 来羅は有田のラッシュの前に手も足も出ない。


 ――…………!

 

 人間サンドバックと化した来羅。

 息つく暇もなく、ただじっと痛みに耐えた。


「オラオラオラオラァァァー!」


 ――あかん、このままやったら有田の能力上昇の糧にされる……!


 そのとき。

 猛打の嵐が止み。

 有田の雰囲気が変わった。


「最後に、渾身のボディーブロー……」


 鋭く振りかぶった右手。

 コンパクトに身体を捻り、体重が乗る。

 間違いなくトドメの一撃。

 

 ――来る!

   これは守らなアカン!


 悟った来羅は両腕を腹部に構え、ブロックを試みた。


 しかし、有田は来羅の想像の上をゆく。


「……と、嘘をつき……」


 有田の右手は急停止。

 来羅は完全に意表を突かれた。

 頭が真っ白になり、身体が硬直する。


 ――嘘!? フェイント……!?


 気付いたときには有田の両手が来羅の後頭部を髪ごとがっしりとホールドして離さない。


 ――アカン、振り解かれへん!


「顔面に、膝蹴りや」


 有田は大地を蹴飛ばし、右膝を思い切り振り上げた。


 来羅の頭部は有田の膝目掛け急降下する。


 重い打撃音が響く。


 有田は力を一遍も流さぬよう、最後まで来羅の頭部をロックし、衝撃が頭蓋を砕いた。


 ――ごめん、つむぎ。私やっぱり、つむぎおらななんもでき……ひん…………。


 歪んだ鼻から血を流し、来羅は前のめりに有田の足元へ倒れた。


「ここには審判も糸井もおらん。まだ終わりちゃうぞ?」


 倒れた来羅の首を狙い、有田が足を上げようとしたそのとき。


 有田は沈んだ声を聞く。


「《悲しみの雨(レイニーブルー)》 借りを返すまで空を覆え」


 灰色の雲が三人の頭上に広がっていく。

 ポツポツと雨粒が落ちた。


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