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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
40/52

やっぱりお前らか

 

 高速を降り、閑散とした山間部の一本道を走り、ついに目的地に到着した一向。緑豊かな山あいの広々とした土地に、自然とは調和しない大きな倉庫のような金属製の建造物があった。


「着きました」


 運転をしていた時雨日々生(しぐれひびき)の声を聞き、一同は黙々と車から降りた。そして、固まった身体を軽くほぐし、歩き出す。


「ぞろぞろと出てきたな。クソが」


「最後の一本道に監視カメラでもあったんでしょう」


 百人ほどだろうか。建物から大量に現れた“アウェイキング”の兵隊たち。怪訝そうな表情を浮かべ言葉(ことは)が悪態をつく。それを流師(ながし)が顔色も変えず軽く受け流した。


「構わん。雑魚に用はない」


 首をポキっと鳴らした(きょう)は大量の敵を目にしても物怖じ1つしていない。相手にも味方にも目もくれず、未だ姿を見せない者達へ狙いを定め集中していた。そして、仰々しく腕を広げ、手を叩く。


 ♪

  パン パパン パ パンパンパン

  パン パパン パ パンパンパン

                  ♪


 重いリズムに乾いたクラップ音。流師との戦闘時に響が奏でた、“リリッカー”の始まりを告げるマーチが空気を震わす。

 響を筆頭に“リリッカー”の他のメンバーも手を鳴らし始め、音圧は次第に大きくなる。


「何してんねん。景気付けや、お前らも一緒にやらんか」


 言葉が様子をうかがっていた二班の三人に声をかけた。


「お言葉に甘えましょうか」


「やりましょう」


「仕方ないわね」


 顔を見合わせた流師、時雨、白南風(しらはえ)。班長の一言で手拍子に加わる。


 ♪

  パン パパン パ パンパンパン

  パン パパン パ パンパンパン

                  ♪


 パン パパン パ パンパン――パンッ!


 最後の一際強い手拍子を皮切りに、音の衝撃が目の前の敵へと伝播する。百人の兵隊が一斉に崩れ落ちるように地面に伏した。


 意識を失った雑兵の群れを踏まないように一同は突き進む。時雨は一瞬の出来事に息を呑んだが、この程度当然と言わんばかりに、響は淡々と言葉に指示を飛ばしていた。


「皐月の銘力にあの屋根邪魔やろ。言葉頼んだ」


「任せろ」


 言葉の右手に太陽光を白く反射させ輝くリボルバーが瞬く間に現れる。そして弾倉のロックを外し、呟いた。


「建物。邪魔や吹き飛べ」


 言い終わると同時に弾丸が一発、言葉の左手に握りしめられていた。それを5つの穴が開いたシリンダーの一室に込め、右手首のスナップでシリンダーと銃身を固定した。

 左手をパーカーのポケットに詰めた状態で、右手で拳銃を構え、撃鉄を倒し、引き金を引いた瞬間。


 発砲音が山にこだまし、野鳥の群れが羽ばたいた。銃口はオレンジに一瞬きらめき、白煙が立ち込める。


 そして、大きな倉庫のような建物が裏の山まで吹き飛んだ。壁と屋根。金属で出来た骨組みを残し、外と中を区切る外郭だけを器用に分離した。


「口に出した言葉を弾丸に変え、対象物に効果を与える能力ですか?」


 言葉の銘力を目のあたりにした流師は少し険しい表情で、言葉に尋ねた。


「だいたいそんなところやな」


「なら、怪我を治したり意識を失った者の目を覚ましたりすることもできますか!」


 希望の光を眼に灯し、流師は勢いよく言葉の肩を掴み大きな声で問いかけた。


「それはできひんな。俺の力はあくまで銃。銃で人を傷つけれても、癒すことはできひん……」


 突然興奮しだした流師に困惑しつつ、言葉は申し訳なさそうに否定した。


「そうですか……」


「なんかあったんか?」


 わかりやすく肩を落と流師に、気を遣った言葉が今度は問いかけた。


「いえ、今回の作戦に役立つかと思いまして。それに、私の大切な人も言葉君と似たような力を使っていたので……」


 流師は無理に口角だけを上げたが、目に色はない。流師と言葉の話を後ろで聞いていた白南風の表情は曇っていた。


 二人の会話など気にも留めず、響が冷たく号令をかけた。


「もうそろそろや。気引き締めろ」


「「おう」」


「「了解」」


 建物の跡地に見える3つの人影へと、更に歩みを進めた。


 ***


 吹き飛ばされた建物の跡地へ近づくと、アルコールの香りが風に流れて鼻孔に広がった。金属製の柱が丸見えになり太陽光が差し込む。そこには、多種雑多な化学用品が立ち並んでいた。

 小袋に詰められた白い粉やガラスの結晶のようなものが、白く輝くアルミの机の上にひしめき合っていた。

 待ち構えていたのは三人。白衣に身を包んだ長身の男が口を開いた。


「誰かと思えば“リリッカー”の皆さん。もう外の奴らやられたんかー、そっちのスーツの方は特課さんかなー」


 こびりつくような笑みを絶やさない白衣の男は、薄い目で流師を見た。


「なぜそれを」


「なんでやろうなー」


 本来知る由もないはずの特課の存在を知る男に流師は問いかける。だが、いい加減な返答があるのみ。堪えきれず響が二人の間に割って入った。


「全部ひっくるめて話してもらう」


「全部? なんのことかなー?」


「とぼけんな。お前らやろ、つむぎを殺したんわ」


 殺意、怒り、憎しみ、悲しみ。あらゆる負の感情を煮詰めたような響の眼差しは、メガネのレンズを挟み、鋭く白衣の男を射抜く。しかし、白衣の男はそんなことを気にもせず飄々と残りの二人に話を投げた。


「つむぎー? 誰やそれ、そんな奴知ってるかー? なー、有田(ありた)ー、度田(どだ)ー」


「知らん」


 額に汗を浮かべ、上下黒のスウェットを着たガラの悪い男――有田が興味なさげに答えた。


布川(ぬのかわ)さん。ぼくは、ぼくは糸井(いとい)つむぎなんてしらへん、しらへん」


 元は白かったのだろう。汚れで黄ばみヨレヨレになったシャツを着たホームレスのような男――度田がキョロキョロと怯えるように布川に返答した。


「糸井なんか俺らは言うてへん。全部言え、話せんくなる前にな」


「度田ー、シャブのしすぎや。バカなっとるー」


 溜息を吐き、大げさに項垂れる布川。まるで暇つぶしでもするように、有田は胡散臭くカバーを入れた。


「布川、こいつがアホなんはもとからやろ。

 そういえば、俺の中学にクソムカつく糸井つむぎって奴はおったな。俺がお前にその話したからやんな? 度田?」


 有田の話を聞き、来羅(らら)は眉を顰め、じっと有田の顔を注視する。


 瞬間。

 身体が震え出す。

 沸騰したように身体が熱い。


 記憶の底にいつまでも消えることなく留まる忌々しい人物――有田実(ありたみのる)。中学時代、来羅を彫刻刀で突き刺そうとした張本人。


「お前、来羅にちょっかい出してた奴か」


「ん? 渋谷言葉(しぶやことは)やん。

 そんで、そこの黙ってブルブルしてんのは谷口か。情けない、まだ虎の威を借りてんのか。まあ、もう渋谷も怖くないけどな」


「こいつ……!」


「言葉! もうええ。話す気ないなら力づくや。俺が布川。お前が有田。皐月と来羅が度田や」


 先走りそうになった言葉を響が御した。そして、“リリッカー”の三人に指示を飛ばす。しかし、来羅だけは頷かない。


『私が有田とやる』


 話すことができない来羅は手を動かし、決して譲ることのできない意思を明確にする。


「響、来羅なら大丈夫や」


「来羅、俺がサポートしても良い? 銘力で来羅の動きに合わせられるし、あんまり戦いの役に立つかはわからへんけど」


 来羅が頷き、瞳に闘志が宿る。

 震えは怯えからきたものではない。

 今か今かと沸る意志を、心臓が鼓舞するのを必死に抑えつけるためなのだ。


「特課の皆さんはやらんのー?」


「はい、見守らせていただきます」


「そっか、なら死体袋4つ手配してくださいねー。目障りな“リリッカー”。5人全員俺らが()れるなんて、ほんまにラッキーやなー」


 白衣の男の一言。

 引っ掛かる一同。


「5人……?」


「全員……!」


「「やっぱりお前らかっ!!!」」


 疑惑が確信に変わった瞬間。

 四人は走り出した。

 仲間の借りを返すため。

 尊厳を取り返すために。


「さあ、もういっちょボーナスタイムの始まりや〜」


 白衣を靡かせ、布川は両手を広げ不気味な笑みを一層深めたのであった。

 

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