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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
38/52

間話 縁の下の力持ち その3

 

 言葉(ことは)は首を捻り音の在処を確認し、何が起きたか理解した。


 ――クソじじい、また壁を蹴り破りやがった!


 言葉の視線の先。

 飛び散る重厚なコンクリートの破片の中、木製の小刀を手にした(えにし)が言葉に背後から襲いかかる。


 縁が小刀を振り抜く寸前。

 言葉は目の前の壁に向け引鉄(ひきがね)を引く。何度目かの壁を破る破壊音が反響した。


 ――数発。対象をクソジジイにしてなくて正解やった。やっぱあんた、只者じゃないわ。


 言葉は開けた穴めがけ前転をし管理人室に入室した。

 縁の刃は粉塵を巻き上げ空を斬る。


 言葉は捉えた。

 前転の最中。

 後頭部から首が床に接地したとき。

 先刻まで自身が立っていた場所に、まさに今、虚空を引き裂いた縁がいることを。

 この好機。

 逃す男ではない。


 ――こんな俺を気にかけてくれて嬉しかったで。ありがとう。ほな、またな。


 そして、言葉は縁に向かい最後の弾丸を放つ。

 放たれた最後の言弾(ことだま)は、風を切り真っ直ぐに縁の胸元へ駆ける。


 しかし。

 誘い込まれたのは、縁。

 否。言葉であった。


「言葉君はホンマに優しい男やな」


 待ち構えていたぞと、縁はほうれい線を一層深くした。そして、言葉が最後を託した弾丸は、まるで吸い込まれるように縁が胸元で構えた小刀へ着弾した。


 言葉が込めた想いは、音もなく空気に消える。虚しく、そして儚く散っていった。


 言葉は歯を食いしばったのち、力を抜くように笑った。


「なんでお見通しやねん」


「5発目。弾切れや」


 現実を告げるように、縁は冷たく言い放つ。大の字になった言葉へ、縁の鉄拳が振り落とされた。


 ――クソが……。喧嘩で負けたんはいつぶりや。


 無数の古い傷跡と皺を携えた拳を視界いっぱいに捉え、言葉の記憶は途絶えた。


 ***


「凄い音でしたけど大丈夫ですか? て、えぇ!?」


「また派手にやりましたね、縁さん」


 縁が言葉に鉄拳制裁を下してすぐに、流師(ながし)時雨(しぐれ)が駆けつけた。

 縁は息一つ切らさずに笑顔で二人を迎えた。


「おー! 二人とも丁度ええとこに来たわ!」


「言葉さん、大丈夫ですかこれ……」


 真っ赤な手形を顔の中心にこさえた言葉を見て、時雨は心配そうに駆け寄った。


「気絶してるだけや。大丈夫、大丈夫」


「ありがとうございます。お手数おかけしました」


「こんくらい構わんよ! 後進育成も仕事のうちやな」


 流師と縁は意識を失っている言葉を気にもせず飄々と話し始めた。


「彼はどうでしたか?」


 流師の質問に白くなった無精ひげをさすりながら縁は答えた。


「悪くない。ただ心許ない。根が優しんやろうな。言葉選びと射撃箇所が甘い。近距離なら刃物の方が強いからしっかりと距離を取ることと、弾丸の数に工夫がいる。どうしてもリロードの隙が大きすぎるわ」


「ありがとうございます。伝えておきます」


 二人の会話が一区切りしたのを確認して時雨が口を開いた。


「あ、あの……」


「どうした、日々生くん?」


 言葉を選びながら恐る恐る話す時雨に、縁はあっけらかんと話す。


「この管理人室と隣接している、武器がいっぱい並んである部屋はなんですか……」


「そこは、万が一の部屋やで。管理人室の物陰から入れるようになってんねん。今回もそこに忍びこんでこの小刀を調達して、壁を蹴破って後ろから襲たった! 度肝抜いた言葉君の顔みんなに見せたかったわ!」


「蹴破る!? この分厚い壁をですか!」


「せやで、ほらこのたくましい脚でな。これのせいで現役引退したけど、パワーだけは増したわ!」


 縁はそう言うとズボンの裾を捲った。そこには鈍く輝く金属製の義足が装着されており、縁が自慢げに叩くとカンカンと高音を響かせた。


「ほんじゃ、言葉くんのことは頼んだで」


「「はい、ありがとうございました」」


 身体を張った大先輩に礼を伝え。気絶した言葉を担ぎ二人は部屋に帰った。


 一人になり縁は改めてエントランスホールを見渡した。


「にしても、この壊した内装。経費で落ちるんかな……」


 ボロボロになった室内に苦い笑みを浮かべる縁であった。


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