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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
34/52

間話 幸せなら態度で示そうよ!

 

 時は遡り、来羅(らら)つむぎが共に過ごすようになって数ヶ月が経ったある日のこと。


 ***


 つむぎは私のことを来羅ちゃんから、来羅と呼ぶようになっていた。


 あの頃はつむぎとコミュニケーションをとるとき、私は小さなノートに文字を書いて会話していた。その日もそうして私の部屋で二人で話していた。


「来羅、あのな。笑わんといてくれる? 絶対に笑わんって約束してくれる?」


(約束する。どうしたん?)


 私がそうノートに書いて見せたら、彼女はどこか勇気を振り絞るように手を動かし始めた。


 親指と人差し指を顎に当て、綺麗なフェイスラインに沿って動かし満面の笑みで二本の指を合わせてみせた。


 それはとてもぎこちないものだったけど、私には伝わった。


 私が使える言語――手話で「大好き!」と。


「伝わった?」


 少し頬を赤くしたつむぎはとても愛らしかった。


 彼女のこういう思いやりが私は好きやったな……。


 私は力強く何回も頷いた。

 頷く度に涙がこぼれ落ちるほどに。


 そんな私をつむぎは優しく見守りながら、不意に明るい音色で歌い出した。勝手に身体が踊りだしてしまいそうな朗らかな音色で。


「幸せなら手を叩こう♪」


 パン、パン!


「幸せなら手を叩こう♪」


 パン、パン!


「幸せなら態度で示そうよ、ほら二人で手を叩こう♪」


 パン! パン!


 戸惑う私は、ノートに早足で書き綴る。


(急にどうしたん!?)


「あのな、うちもっと来羅と話したい。だから、これから手話の勉強する。でも、うち賢くないし、すぐにはできひんと思う。

 やから、よければ来羅が嬉しかったり、幸せやったりしたときはこれで教えて!

 私達二人だけの言葉! 

 どう? めっちゃいいやろ?」


 自慢げに私を見つめるつむぎ。


 ――ああ、ほんとにつむぎはずるいなぁ。


 一度落ち着いたはずの私の瞳から、また涙が溢れ出した。

 陽だまりのような彼女の優しさに応えるように、私は笑顔で手を二回。リズミカルに叩いた。


 パン! パン!


 言葉や気持ちは、何も声だけで伝えるものじゃない。

 表情、態度、仕草、動作。

 これからはもっと色んな、私達だけの声でつむぎに伝えよう。

 ありがとうを、嬉しいを、大好きをいっぱい伝えよう。


 つむぎとの出会いが、私の世界に音色を与えてくれたから。


 もっと、もっと伝えたかった。

 伝えなあかんかった。

 私の気持ちを伝え切るには、私達の時間はあまりにも短すぎた。


 私の大切な一音——つむぎを奪った彼等を私はきっと許せない。


 たとえつむぎがそれを望んでいなくても。


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