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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
33/52

チーム

 

 怒りに身を任せ、私は力を振いました。


 家全体が大きく揺れ、次々に水道管が破裂し、洪水が起きたように大量の水が暴れ出す。

 しかし、全ての水は統率されたように一箇所に集まった。

 止まることのない水流は、瞬く間に家を大破し、二人の頭上を塞ぐほどの大きな龍となった。


「これほどとは。ようやった、善彦」


 それが、最初で最後の父からの褒め言葉でした。


 彼は満足そうな顔で赤い龍と共に、なす術なく大河に飲み込まれていったのです。


 その後、私は冷たくなった母を抱え、警察に駆け込みました。そこで矢峰(やみね)課長と出会い、私は特課に身を置くことになりました。


 特課は西仁会若頭を殺した銘力者を受け入れたことにより、それまでなんとか関係を保っていた二つの組織に、修復しようのない亀裂を入れてしまったのです。


 ***


 流師の過去を聞き、沈黙を破ったのは時雨(しぐれ)だった。


「班長、あまり自分を攻めないでください。関係が壊れたなら、直せばいいじゃないですか。無くなったのなら、また作ればいいじゃないですか」


「日々生くんの言う通り。ヨシさんが一人で抱え込むことじゃない。班長であろうと、班員のことは二班みんなで背負うべき」


 白南風(しらはえ)も時雨の後に続いた。


「時雨君、白南風君……」


「この件が落ち着いたら、みんなで一緒に謝りにでも行きましょうよ。

 元々、弱きを助ける存在だったんなら、ちゃんと事情を説明すれば納得してくれるかもしれません。

 そうでなくても、このまま何もしないのは班長らしくないですよ」


「そうかもしれません。ありがとうございます。二人とも」


「ヨシさんがちょっとでも元気出たみたいでよかった」


「ですね!」


「白南風君、ヨシさんではなく……班長です」


「了解、はんちょう」


 本調子とまではいかないものの、ようやく流師と白南風のいつものやり取りを聞け、時雨は胸を撫で下ろした。


「"リリッカー"の皆さんもすいません。ダラダラと話をしてしまって」


「聞いたのは俺や、気にするな。それより、辛いことを思い出させて悪かった」


 (きょう)は表情こそ変わらなかったが、声のトーンが少し下がっていた。彼自身も大切な人を失い、そのことを思い出すと胸が裂かれるような気持ちになる。流師と自分を重ねているようだった。


「いえいえ、それはお互い様です。気にしないでください」


「そうか、ありがとう」


 この雰囲気に耐えかねたのか。単に気になっただけなのか。流師は響との戦闘で聞いた手拍子について尋ねた。


「そういえば、戦いのときのあの手拍子は何か意味があるんですか? とても心地のいいリズムでしたが」


「ああ、あれか。あれは俺ら"リリッカー"が結成して、このマークが完成したときに来羅(らら)が嬉しくて手を叩いたのがきっかけや」


 "リリッカー"で揃えたパーカーの背面に描かれたロゴを指差し、過去を懐かしむように言葉(ことは)が言った。


「来羅とつむぎは嬉しいとき、幸せなときにパン! パン! って手を叩くねん。幸せなら手を叩きましょうって曲あるやん? あれあれ」


 皐月(さつき)の声は明るく、自慢げに語る。


「パン! パン! だけやとシンプルすぎるから、(キョウ)がカッコよく変えてくれたんや。といっても、俺らが好きな曲からのサンプリングやな」


 言葉がわかりやすく捕捉してくれた。響はトラックメイカーをしている。音を作ることに関してはプロフェッショナルなのだ。


「そうなんですね。ところで、皆さんはどうやって"リリッカー"を組まれたんですか」


「全部、つむぎのおかげや。つむぎがせっかくやから俺らでクルーを作ろって提案して……ほんでできたんや」


 言葉が寂しそうに答える。それを見た流師は質問の選択を間違えてしまったと少し後悔した。


「あいつが俺らを繋いで居場所を作ってくれた。俺らの家族で俺らの恩人。そんな奴があんな殺され方していいわけない」


 響の言葉に室内に再び悲しみが滲み出した。


「警察は、シャブのオーバードーズで狂ったつむぎがバイクの事故で死んだ言うてたんやけど。

 でも、そんなわけないねん。

 シャブなんか使うわけないし、そもそもつむぎはバイクの免許は持ってたけど、いつも響か言葉の後ろ専門やってんもん」


 いつも明るい皐月もつむぎのことになると辛そうに話す。抑揚の端々にはやるせなさと怒りが潜んでいる。


「だから、殺しだと?」


「そうや。なんでか詳しいことは分からんけどな。それを知るために、借りを返すために、俺らは行くんや」


 組んでいた手を強く握り締めなおして、響は続けた。


「改めてちゃんと言っとく。お前らとは手を組む。

 警察は嫌いやけど、お前らは普通の警察じゃない。

 手を組むくらいはしてもいい。ほっといても首突っ込むんやろうしな。

 でもな、俺らの手でやらせてくれ。ついてくるのは構わんけどな」


「分かりました。よほどのことがない限り私たちは手を出しません」


「頼んだわ」


 その後、各々が会話を楽しみ、会はお開きとなった。時雨の部屋に皐月、白南風の部屋に来羅が泊まり、響と言葉は流師の部屋で過ごすことになった。


 翌日、任田からの情報の裏が取れた。その日は皆、療養し決戦の日に備えた。


 そして、朝を迎える。


 借りを返す日が訪れた。

 

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