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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
31/52

 

 特課ビルの流師善彦(ながしよしひこ)の部屋に訪れることになった一向。ビルのワンフロアは二班の三名で部屋分けされていた。フロア面積を10として、班長5、副班長3、班員2の比率で分けられていた。


 班員である時雨日々生(しぐれひびき)の部屋と比べ流師の部屋は広く、モデルルームのように整っていた。廊下から見えた和室には、流師の座右の銘である"上善は水の如し"と書かれた掛け軸が見えた。室内には薄っすらと豆の薫りが漂っている。


 一同がゆとりを持って集まれる広さのリビングにて、話し合いが始まった。




任田(とうだ)からの情報の裏取りですが、明日の夜には終わると思います。なので、実行は明後日にしましょう。皆さん、その頃には動けそうですか?」


 戦闘をしなかった言葉(ことば)以外が各々頷いた。"リリッカー"と二班との戦いは、命を狙うものではなかったが手傷を負い、本調子で"アウェイキング"の元へ向かうにはしばしの休息が必要であった。


「では、その手筈でお願いします」


「一ついいか」


 "リリッカー"の(きょう)が何かを探るように口を開いた。


「なんでしょう?」


流師(おまえ)西仁会(さいじんかい)と知り合いやったんか? 顔馴染みみたいに話してたけど」


「……」


 流師が珍しく口籠る。室内に疑念の色が濃くなっていた。


「すいません。そもそも西仁会ってなんなんですか?」


「日々生、そんなんもしらんの?」


「恥ずかしながら……」


 時雨の間抜けな質問と皐月(さつき)の朗らかな口調に少し部屋の雰囲気が緩んだ。二人の会話はすっかり気の合う友人のそれだった。


「西仁会ってのは、西日本を統べる日本最大の極道組織。ここまでが世間一般で知られる西仁会よ」


「そんな凄い組織なんですね」


 副班長の白南風(しらはえ)が部下の尻を拭くように、凛とした態度でごく一般的な補足をしてくれた。


「待て。世間一般で知られるってどうゆうことや」


「ヨシさん、話してもいい?」


「いえ、私からお話します。先ほどの(きょう)くんの質問も全て」


 流師は重い口を開け、語り出した。西仁会とは何か、流師と西仁会の繋がりとは、そして流師の過去を。


「私の父は極道でした」


 ***


 西仁会は戦後、日本を裏から支えた影の立役者です。終戦直後の荒れたこの国に彼等が一定の秩序を生み出しました。


 政府も警察も十分に機能していない中、彼等が治安を守り、略奪や混乱から市民を守っていました。

 ときには闇市を仕切り、食料や衣類など生活に必要な物資を分配し、貧しい者達にも生きる道を示した。

 弱者救済。それが、西仁会の始まりでした。


 月日が経ち西仁会の勢力が拡大していった頃、GHQの指導のもと順調に再興の道を歩み始めた日本でしたが、公にはされていないある通達があったのです。


 それは、銘力者による銘力者に対する機関の構築。今の特別対策課を作ることです。日本はこのとき初めて、国家レベルで銘力というものの存在を認知することになりました。


 そこで特課のトップにと白羽の矢が立ったのが、西仁会初代会長の獅堂息吹(しどういぶき)でした。彼はアメリカが欲するほどの銘力の使い手で、国内最高峰の銘力者だったのです。


 彼自身正義感が強く、自国のためになるならばと西仁会会長の座を捨て、銘力を使える自身の子分を連れ、特課総監になったのです。現在、特課総監は警察庁長官のポストと合併していますがね。


 大幅に戦力を失った西仁会でしたが、なんとかその後も衰えることなく成長し、日本極道界のトップとなりました。


 初代は途中で抜けたにしても、彼の功績や人徳は厚く、組に残された者も銘力に関することを喧伝するようなことはありませんでした。

 むしろ、創設間もない特課の援助もしてくれていたようで、良好ともいえる関係を長年築いていました。


 その関係に亀裂を入れたのが私です。


 私は父である、当時の西仁会若頭流師水善(ながしすいぜん)を殺したのです。


 西仁会若頭流師水善といえば、当時の極道は皆一様に一目置く存在でした。そして、彼もまた素晴らしい銘力の使い手だったと聞いています。




 私は幼少期から父に厳しく育てられました。


 いつも木刀を片手に、父は事あるごとに私を叩きつけていました。掛け軸と日本刀が置かれた和室で指導を受け、許しが出るまで正座をさせられる日々。


 母がいるときは母が必死に私を守ってくれましたが、そんなことはお構いなし。母諸共、朝まで殴り続けられることも多々ありました。


 母はいつも豆の香りを漂わせるほどの珈琲好きで、父に殴られた後に、二人で過ごす束の間の休息が私に与えられた唯一の至福の時間でした。そのひとときのおかげで日々の虐待に耐えることができたのです。


 母の愛だけが私の生きる希望でした。私が愛する母が父を愛していたから、私も共に彼を愛そうと努めたのです。


 家族には最低な男でしたが、父は極道からはとても評価が良かったようで、いつも子分や舎弟に好かれていました。

 彼等がいる前では私や母に手を出すことはなく、かっこいい父でいてくれたので、私も彼等に好感を寄せ、慕っていました。




 悲劇は突然訪れました。


 父が不貞を働いたのです。


 私達に手をあげるような男でしたが、母以外の女性とは関係を持ってこなかった父でした。それが突然、他所で女を作ったのです。


 それを知った母の中で、何かが音を立て壊れていきました。


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