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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
30/52

西仁会

 

 "リリッカー"の三名から、今は亡き糸井つむぎの話を聞き、VIPルームが静まり返っていたとき。


 突然、扉が開かれた。


 そこには二人の男がいた。


 一人は五十代ほどの長身痩せ型で、白いスーツにハットという時代遅れの装いをしていた。顔色は悪く、頬もこけている。既に張り裂けんほど膨れたポケット灰皿に、吸い殻を強引に捩じ込んでいた。


 もう一人は四十代ほど。濃紺のスーツに黒いシャツを合わせ、獣のように鋭い目をしていた。その眼差しは、目が合えば殺されると錯覚するほどの圧を放っていた。


「あの流師(ながし)家のボンが、こんなとこでまだ油売ってんのか」


 濃紺のスーツを着た男が口を開いた。


「どうしてあなた達がここに……」


 班長の流師善彦(ながしよしひこ)は額に汗をかき、困惑し、動揺を隠しきれていない。


「会長命令で色々動いてんのや」


「会長が直々に命令を……」


 流師の目は泳ぎ、息遣いが荒くなる。時雨(しぐれ)はもちろん、副班長の白南風(しらはえ)すらも、こんなに狼狽する流師の姿を見たのは初めてだった。


「ヨシさん、この人達誰?」


 白南風の言葉に『班長と呼びなさい』と、いつものように返す余裕すら今の流師にはなかった。


「彼等は西仁会(さいじんかい)若頭任田剛(とうだつよし)と直系服巻組組長服巻一本(ふくまきいっぽん)です」


 自身が置かれている現状を声に出して認識することにより、流師は少し落ち着きを取り戻したようだった。


「ヤクザがなんのようや」


 つむぎの死の悲しみに耽っていた(きょう)が、邪魔者に怒りを露わにする。そして、二人に睨みをきかせて近づこうとした。


「アホ! ボケ! カス!」


 服巻がけたたましく吠えた。会話にならないような単語の羅列だったが、声の大きさと男の圧に全員の身が震え上がる。


「あー、すまんすまん。この人、ヤニ切れたら普通に会話できひんのや。悪気はないから許したりな。ほら、これでも咥えて」


 任田は、まるでおしゃぶりでもするかのように服巻に煙草を咥えさせた。そして、幾度となく繰り返したであろう洗練され、敬意あふれる動作で火をつけた。


(きょう)君、今は堪えてくれますか。皆さんも私の後ろにいてください。あまり彼等を刺激しないように」


 流師が固唾を飲み、続けた。声にゆとりは一切感じられない。歴戦の班長であろう流師の緊張感と、対する二人のオーラに呑まれその場の皆が従順に流師の指示に従った。


「彼等次第で、我々のうち何名かは命を落とすことになりかねます」


 流師の態度からこの発言が冗談でも誇張でもないことが皆に伝わった。


「争う気はない。ええ話を持ってきたんや。お前ら"アウェイキング"について知りたないか?」


 任田が口にした言葉に一同は耳を疑った。"アウェイキング"とは、"リリッカー"の一員、糸井つむぎを殺した組織の名称だったからだ。


「どうしてあなた達が"アウェイキング"をご存知なんですか」


「こないだお前らにやられた薔薇組はな、うちの末端組織や。あんな有象無象になんで特課がでしゃばったんか調べたら、銘力者を探してることがわかった」


 薔薇組とは時雨の初任務で戦った組織であり、どうやらそこから西仁会は今回の一件を嗅ぎつけたようだ。


「そんで、オヤジからお使いを頼まれて調べたんや。俺らの方が裏のことは詳しいからな。お前らが寄り道してる間にすぐ辿り着いたわ。ドラッグを扱ってる不思議な力を持った奴らに」


「なぜそのことを私達に教えるのですか。意図が読めません」


「ほんまはな、そいつらには西仁会(うち)に入るチャンスをやろうと思ってたんやけどな。シャブなんか売ってる小物はいらんねん。雑魚を潰すのは簡単やけど、めんどくさいやろ? お前らならそいつらを見て見ぬふりできんしな」


 任田はまるで挑発するような笑みを浮かべ、流師の肩に手を乗せた。


「それに入る前に聞こえたけど、"リリッカー(そいつら)"直接やりたいんやろ? 丁度ええやん、ウィンウィンや」


「話を、聞きましょう」


 流師は任田の手を丁寧に肩から外し、話を聞くことにした。この間も流師は警戒を緩めることなく、常に臨戦体制を維持していた。


「銘力者の数はおそらく三人。居場所はこっから車を3時間走らせた和歌山の山間部。そこでちまちまとやっとるわ」


 流師は話を聞きながら鋭い視線を放っていた。それを確認した任田は煽るようにこう続けた。


「一回、自分らでも裏取れや。どうせヤクザのことなんか信用できんやろ。ほな用事は済んだから、さいなら」


 そそくさと帰る任田と服巻を誰も止めようとはしない。狩る者が見逃してくれたような感覚。流師の張り詰めた緊張の糸が緩むのを確認して、一同は一命を取り留めたのだと安堵する。


 一息つく暇もなく、言葉が動き出した。


「行くぞ」


「どちらへ?」


「あいつらが言ってた、"アウェイキング"のアジトや」


「今からですか?」


「他に何がある」


「落ち着いて、周りを見てください。あなたは戦って、怪我をしている仲間を置いていくんですか?」


「……」


「それに、さっきの情報の裏も取らないといけません。今晩は休み、裏が取れ次第一緒に向かいましょう」


「分かった。すまん」


「かまいません。せっかくです、親睦を深める意も込めて私の部屋に来てください」


「親睦を深める必要があるんか?」


 響が眼鏡越しに目をギラつかせて流師に噛みつく。彼だけはつむぎとの過去を語ろうとはしなかった。まだ、警察である特課の面々に対して懐疑心を抱いているようだった。


「すぐ動けるようになるべく一緒にいた方がいいと思います。それに、手当もできます。結果、一番迅速に"アウェイキング"を潰すことに繋がります。親睦はおまけ程度に考えてもらって構いません」


「なんでお前らも一緒に戦うことが決まってんや」


「まーまー、響も言葉も落ち着いてや。ええやんか、都合の良いように警察扱ったら。形だけ仲良くしたらええやんか。な?」


 皐月が上手く他のメンバーを言いくるめてくれたおかげで、特課二班と"リリッカー"は行動を共にすることになった。そして、一同は親睦を深めるていで特課ビルにある流師の部屋に集まることとなった。


 ***


(かしら)、べつにあんな組織、うちが潰したらよかったんちゃいまっか」


 服巻は肺に溜めた煙を吐き出しながら、任田と話していた。


「二人のときは頭なんて言わんとってください、兄貴」


「一応、剛が若頭やねんけどな」


「それでも、俺にとって兄貴は変わらず兄貴なんで。二人のときくらい、昔みたいにしたらダメですか」


「ほな、二人のときは昔みたいに話すか」


「はい、お願いします」


「ほんで、なんでうちでやらんのや」


「俺らでやる必要がないのと、今の特課(あいつら)がどんなもんか知っとこうと」


「今回の件、うちなら二、三人ってとこか」


「相性次第やと思いますけど、三人はいらんと思います。俺らなら、一人か二人で十分やと思います」


「なら、あの七人おれば十分か」


「予想外のことが起こらんかったらですけどね」


「予想外の()()か……」

 

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