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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
25/52

借り

 

 時雨日々生(しぐれひびき)皐月(さつき)の肩を担ぎ、二人は非常階段からVIPルームへと戻った。


「帰ってきましたか」


 班長の流師善彦(ながしよしひこ)は、革の椅子に腰掛け優雅に待っていた。愛用のスキットルもないのにどこから用意したのか、大好きなコーヒーを嗜んでいる。


「皐月も負けたんか」


 開戦前は凄まじい敵意を向けてきた、"リリッカー"の(きょう)だったが、今はすっかり落ち着きを取り戻していた。


「俺もって、みんな負けたん? これから思いやられるわ」


「俺は負けてへん」


 困ったように笑う皐月に、ドスの効いた声で言葉(ことは)が反論した。


「おかえり、日々生くん」


 副班長の白南風喜己(しらはえきき)が、小っ恥ずかしそうに時雨にグータッチをしてくれた。彼女はアザだらけで激しい戦闘の跡が伺える。


「白南風さん、怪我大丈夫ですか?」


「ええ、怪我は大丈夫。強かったのよ、彼女」


 白南風がチラリとやった視線の先には、"リリッカー"のシンボルが付いたパーカーを着ている女性がいた。パーカーの下は白南風とお揃いのようだ。


「それでは、全員揃ったので話しをしてもよろしいですか?」


 コーヒーをそっと置き、流師が場の雰囲気を上手くまとめた。


「ああ、好きに聞いてくれ」


 "リリッカー"のリーダー的存在である響が流師に応じる。二人からは互いを認め合っているような雰囲気を感じた。


「そうですね。まずは自己紹介をします」


「は?」


「まずは私達のことを知ってもらった方が、話が早いと思いまして」


 そう言うと流師は、銘力や特課、そして今回の任務について彼等に話した。


「最後に一番大切なことですが、私が大阪府警特別対策課第二班班長の流師善彦。彼女が副班長の白南風喜己。彼が班員の時雨日々生です」


(これが一番大切なんや)


「なるほど、大方理解した」


 響は流師の話を黙って聞き、質問も挟まずに理解した。


(俺が数日がかりでやっと納得できたことを、この一瞬で? この人、めっちゃ賢い……)


「響、ごめん。俺なんもわからんかった」


「俺も」


「……」


 "リリッカー"の残り三名は理解が追いついていないようで、時雨は安心した。


「あとでゆっくり説明するから今は黙っとけ」


「「はーい」」


 言葉と皐月が息ぴったしに返事をし、女は言葉を発さずに親指を立て合図した。


「俺らの紹介もしとくわ、その方が話しやすい。

 俺は届山響(とどけやまきょう)。キョウって名義でトラックメイカー兼DJをやってる。響って呼んでくれたらええ」


 響はチェーンの付いた眼鏡をキリッと上げながら自己紹介をした。


「あのフードとキャップで顔半分見えへんのが渋谷言葉(しぶやことは)。コトノハって名前でラッパーしてる」


「言葉や、よろしく」


 言葉は深く腕組みをしながら言った。目元は見えないが少し照れ臭そうだ。


「あっちが谷口来羅(たにぐちらら)。ララって名義でダンサーをしてる。来羅は生まれつき話されへんから、知っといたってくれ」


 来羅は立ち上がり、白南風に握手を求めた。先の戦いで、何か二人の間に生まれたのだろう。白南風も無言で力強く来羅の手を握った。


「ほんで、こいつがレゲエDeejayの保部皐月(ほべさつき)


「俺の説明だけ薄味やない?」


 皐月は楽しそうにおどけてみせた。きっといつも彼等にいじられているのだろう。


「最後に、今ここにはおらへんけど糸井つむぎって奴がおる。つむぎがデザイン担当で、俺らのシンボルもあいつが考えてくれた。俺達"リリッカー"はこの五人で全員や」


 気のせいか、響の声はワントーン下がり部屋の空気も少し重たくなった気がした。


 "リリッカー"の自己紹介が終わり、流師が口を開いた。


「なぜ、不思議な力。つまり、銘力(めいりょく)の話が出たときに、あれほどの敵意を放っていたんですか?」


「敵意か……」


 響は下を向き、考え込むように呟いた。


「理由は俺らが潰したいと思ってる、ドラッグの販売組織の"アウェイキング"にそういう力を持った奴がおるって噂を聞いたから。そんなところに、不思議な力とシャブの話をしてきた奴らがきたからや」


「潰したい理由は?」


「アイツらに()()があるからや」


 ここで、響は何かを考え込むように黙った。他のリリッカーメンバーにもそれぞれ様々な感情が見え隠れしていた。


 少しの沈黙の後、響は一息つき、再び話し始めた。


「"アウェイキング"はシャブ専門でな。俺らはシャブの反対派として色々活動してた。その活動の成果としてあいつらの売上が大幅に下がった」


「それで、彼等から報復を受けたと」


 流師のその一言で、部屋中に殺意が充満した。戦闘前に時雨たちに向けられた敵意よりも、何倍も強い"アウェイキング"に向けられた殺意が。


「そうや。そんで、いよいよアイツらを潰さなこっちの気がすまんってことや。借りたもんはきっちり返さなあかんやろ」


「なるほど。話は大体わかりましたが、それで一体彼等に何をされたんですか?」


「俺らのクルーの……」


 まるでその先の事実を認めたくないかのように、響の口は閉ざされた。


 そして代わりに、言葉が続きを話した。


「俺の妹――糸井つむぎが殺された」


 糸井つむぎ――その名は"リリッカー"五人目のメンバーの名前と一致していた。


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