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銘の者  作者: 笹暮崔
二章
20/52

パン パパン パ パンパンパン


「では、話し合いを」

 

「いや、殺し合いや」


 "リリッカー"の眼鏡の男の言葉が戦闘開始のコングだった。


「二人とも失敗しました。すいません!」


 時雨日々生(しぐれひびき)は、班長である流師善彦(ながしよしひこ)と副班長の白南風喜己(しらはえきき)に謝罪した。せっかく二人に託された役割を全うできず、時雨は奥歯を噛み締める。


「構いません。私が二人を相手します。白南風君と時雨君は一人ずつお願いします」


「「了解」」


 流師の指示に、白南風と時雨は勢いよく返事をして、敵を迎え撃つ。


「命の恩人と戦いたくないんです。でも、許してください」


 以前、特課ビルの前で時雨が助けた皐月(さつき)は、そう言いながら時雨にタックルをした。それは、とても命の恩人に繰り出すような威力ではなかった。かなりの力で押し込まれ、時雨はズルズルと後方に運ばれていく。


「べつにいいよ。助けたことは今も後悔してないしっ!」


 時雨はしがみつく皐月を振り払おうとしたが、なかなか動かない。


(服で気付かんかったけど、こいつガッチリした体格やなっ)


「俺の力はここじゃ使いにくいんで、一緒に外まで来てもらいます」


「俺の力……?」


 皐月は時雨を掴んだまま、勢いよく非常口を飛び出し、そのまま二人は階段から転げ落ちた。


 *** 


「あんた、さっきから一言も話してなかったね。女だからって気が引けてるの?」


「……」


「なに? 文句があるなら言ってみなさい」


 白南風は"リリッカー"の女性メンバーと相対していた。


 女は使い込まれたスニーカーにスウェットを履き、全開にしたパーカーを着ていた。パーカーの下は奇しくも白南風と同じ服だった。


「服のセンスはいいんじゃない」


「……」


 女は顔色を一切変えず、ただただ白南風を注意深く凝視していた。それは、獲物を狩るハンターのような鋭い目つきだった。


「あっそう。私もおしゃべりな女は嫌いだからそれでいいわ」


 一瞬。ほんの一瞬の出来事だった。


 白南風が髪を左手で払い、焦点が女からズレた瞬間

 ――女の左のハイキックが白南風に炸裂した。


 白南風は辛うじでそれを回避したが、それでも右のこめかみを掠め、鮮血が滴る。


 焦点こそ外しはしたが、それでも間違いなく白南風は女を視界に捉えていた。にも関わらず、不意をつく高速の蹴りを受けたことで、白南風のスイッチが切り替わる。


「そう。お望み通りやってあげる」


 白南風は拳を目線まで上げ、ゆっくりと構えた。


 ***


「おい、言葉(ことは)俺がやってもええか?」


「待て、(きょう)。じゃんけんや」


 言葉と響は、どちらが流師と戦うかを揉めていた。


「私はニ対一でも構いません」


「俺らはダサいことをしたくないだけや。お前は黙っとけ」


 会話に割り込むなと、言葉が流師をあしらった。


「ダサいこと?」


「二人で一人やるのはダサい」


 さも当たり前と響は流師の発言を一蹴する。


「紳士的ですね」


「そういうことちゃう。俺らはただカッコよく生きたいだけや」


「なるほど」


「「最初はグー、じゃんけんぽんっ」」


 かなりローテンションのじゃんけんを繰り広げた二人。じゃんけんの結果、響が流師と戦うことになった。


「言葉君もいつでも参加して構いませんよ」


 流師は邪魔にならないよう隅で座る言葉に声をかける。


「入ってきたら、しばく」


 響は言葉に警告をする。負けるなど万が一にも思っていないが、言葉に助けられたとなれば、響にとってはダサいことになるのだ。


「いいですか?」


「おん」


「では、始めましょう」


 パン パパン パ パンパンパン

 パン パパン パ パンパンパン

                 ♪


 響が手拍子を始めると、言葉も笑みを浮かべながら、真似るように手拍子をした。重たいリズムを刻み、乾いたクラップ音が室内にこだまする。不穏な雰囲気が漂い始めた。


「あんたはリアルかフェイク、どっちやろな」


 響がニヤリと呟くと、突然、流師の視界がぼやけ始めた。

 頭の中がグラングランと回る。

 まるで脳みそを直接シェイクされたように、流師の見る世界が大きく転げ出した。

 バランス感覚が失われ、流師はよろめき、膝をつく。


 ――これは、まさか……。


 響はすかさず、怯んだ流師にローキックをお見舞いする。

 ローキックといっても、今の流師の体勢では顔面直撃コースだ。


「善良な市民が、こんなにも躊躇いなく人の顔を蹴り抜くとは驚きです」


 間一髪。

 流師はなんとか両手で響の蹴りをガードすることに成功していた。

 しかし、響の蹴りの威力は凄まじく、ガードした流師の両手はジンジンと痺れた。


「俺も驚いた。これで終わりやと思ったんやけどな」


「なぜ、さっき不思議な力という言葉で過剰反応したか理解しました。あなたがその力を持っているからですね」


 流師は痺れを解くように両手をぶらぶらと振りながら、響に確認した。


「半分正解で半分不正解」


「では、今から答え合わせをしましょう」


「残念。俺は勉強が嫌いや」


 パンッ――再度、響は手を叩くと、鋭い破裂音が響く。


 ――この攻撃を無防備で喰らってはいけない。


 響が手を叩くそぶりを見るやいなや、流師は瞬時に耳を塞いだ。


「やっぱり、そういうことか」


 眼鏡をかき上げ、響は続ける。


「お前も能力者か」


「御名答。勉強が嫌いな割には賢いですね」


「能力での戦いに慣れてないと、あんなすぐに対策できひんやろ。あと、俺は勉強が嫌いなだけでアホちゃう」


「そうですか。能力があることがバレたなら、もう私の力を隠す必要もなさそうですね」


 パリィン――何かが割れる音がした。


 響と言葉の不安を駆り立てる。そんな音だった。


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