次の任務へ
時雨の初任務から数日後のこと。特課のオフィスで二班の会議が行われていた。相変わらず他の班はいない。課長も今は自室で休んでいるようだ。
「二人ともこれを見てくれますか」
そう言って、班長の流師善彦は、副班長の白南風喜己と班員の時雨日々生に、映像を見せた。
「これは、薔薇組の工場ですか?」
そこには先日の任務で薔薇組と戦った、工場周辺が映し出されていた。
「これが何か? 特に不審な点はないように感じます」
そう言った白南風は、先の任務以降、態度が少し柔らかくなったような気がする。
「映像を進めます」
流師は映像を早送りし、ある場面で停止させた。
「この傘は……確か初訓練のときに僕が助けた、ドレッドヘアーの人が使っていたものです!」
そこには、銘力を使えないと時雨が悩んでいたときに助けた――赤い薔薇の傘が写っていた。
特徴的な傘なので、偶然他の人がという可能性も低い。
「そうです。少し気になりませんか」
「ヨシさんの勘ってやつ?」
「白南風君、はんちょ……」
「班長。わかっています」
(お互いやれやれって表情するなら、毎度のことやから、どっちか折れればいいのに……)
「先日から調査している銘力者についてですが、この人物を探ろうと思います」
「他に何か情報はないんですか?」
「あれから更に調べたところ、調査対象はどうやらドラッグを取り扱っている人物のようです」
「ドラッグね……」
白南風は怪訝そうな顔で呟いた。
「そして、この傘の人物の行方を調べたところ、とあるチームに所属していることが判明しました」
「チームですか?」
「はい。難波、心斎橋のクラブを拠点とする"リリッカー"という音楽チームのようです」
「ジャンルは?」
「白南風君の好きな、ヒップホップとレゲエのようです」
「白南風さん、そっち系の音楽が好きなんですか?」
「何、悪い?」
「い、いえ」
(やっぱり、まだ所々冷たいな……)
「とにかく、早くこの一件を片付けたいので、少々強引ですが、本人達に会いに行こうと思います」
「待って、この格好でですか?」
時雨たち特課のメンバーは、黒い専用スーツを着用して普段活動している。白南風にはその格好のまま出発することが気になるらしい。
「何か問題でもあるんですか?」
「はぁ、二人ともセンスなさすぎ。こんな真っ黒のスーツでクラブ行ってどうするの」
「え、クラブに行くんですか?」
「彼等の所在が分かるのは、拠点としているクラブなので」
「ビジネスマンにも見えないし、絶対に場違い。すぐ怪しまれるのが関の山。郷に入れば郷に従えよ。いいから私に任せて」
そう言うと白南風は、流師と時雨を連れ、街へと繰り出した。
***
「ヨシさんには、これとこれで。日々生くんにはこっちかな」
白南風に選んでもらった服を着て、流師と時雨は試着室から出てきた。
「本当にこれであってますか……」
白南風に渡された服を着た時雨は、普段着慣れない格好で居心地が悪かった。ダボっとしたジーンズに、白のロンTの上に、オーバーサイズの半袖シャツ。そして、ツバが真っ直ぐのキャップを後ろ向きに被っていた。
「似合ってるかはさておき、浮くことはない」
興味がなさそうに、少し冷たく白南風は言い放った。
「こういった服は初めて着ましたが、案外悪くありませんね」
何故かにこやかな流師は、カーキー色のカーゴパンツに、タンクトップの上から黒い革ジャンを着ていた。目の錯覚だろうか、彼の周りに煌びやかなランウェイが見える。
(この人は何着ても似合うやんけ、これが素材の違いかよ……)
「さすが、ヨシさん。イケてる」
(班長と俺とのリアクションに差ありすぎやろ!)
「白南風君のコーディネートのおかげです。白南風君もクールですよ」
白南風はくるりと一回転して自身のコーデを見せ、少しおどけみせた。彼女は袖のない白のクロップドトップスに黒のカーゴパンツを腰履きし、そこからブランドロゴの入ったゴムを覗かせていた。引き締まったウエストがより一層彼女を華やかにみせた。
「日々生くん」
「はいっ!」
「あまりジロジロ見てると、吹き飛ばすよ?」
「はい……」
「普段は真面目なのに、時雨君も男の子ですね」
どうやら、時雨は無意識に鼻の下を伸ばしていたようだ。流師の楽しそうな笑顔が余計に胸に突き刺さる。居心地の悪さが余計に増した。
「それでは、"リリッカー"がいるクラブへ向かいましょう」
「「はい」」
そうして、準備を済ませた三人は目的地へと向かった。夜も暗さを増し、クラブが賑わう頃合になっていた。




