副班長
これは、時雨日々生が特課第二班班長の流師と出会う数ヶ月前の二班の物語。
***
「鹿児島の海上自衛隊基地が某国の工作員二名に襲撃されました。幸い、施設等に大きな損害はありませんでしたが、一部情報が漏洩した恐れがあります」
班長である流師善彦は、自身の班員に向かい任務の詳細について語り出した。
「私達に話が回ってきたということは、銘力者なんですね」
顎のあたりで整えられた優美なショートカット姿の白南風喜己は、やりごたえのありそうな任務に心躍らせていた。
「ええ、おそらく。少ししか映像はありませんが、こちらを見る限り銘力者だと思われます」
「これは……反射系の銘力かな?」
副班長の黒石白は、肩甲骨辺りまで伸びた黒髪を結いながら、映像を確認し敵の銘力を考察していた。
「私もそう思います。この背の高い彼の力は、少し気になるところはありますが、反射系あるいはカウンター系のように見えます」
「もう一人の方は、映像からでは分かりませんね」
「現場の隊員によると皆一同に、体調が急に悪くなった、身体がいつものように動かなかったと証言しています」
「なら、もう一人は弱体化系の力かな?」
「そうみたい」
「調べによると長身の彼がカン・ゾー、もう一人がパラ・ウィタ。
今回の敵は二人。私と黒石君・白南風君ペアの2チームに分けます。
全員カウンター系とは相性が優れないと思いますし、弱体化には数的有利を取る方が良いと思うので、私がゾーを二人はウィタをお願いします」
「「了解」」
「ただし、銘力の予想はしても断定して戦わないように注意しましょう」
「それで、彼らの居場所は分かっているんですか?」
「ええ、鹿児島で彼等の国に関する情報を探っていたようなのですが、一部失敗した痕跡がありました。そして、その情報が長崎の佐世保基地で入手できるところまで、彼等は突き止めたようです」
「なら、私達が向かう先は……」
「佐世保ってことになるのかな」
「白姉、気合い入ってる。久々に大きい任務だから?」
「まーね、いつもデカい山は一班に持ってかれちゃうから、腕がなるかな」
「二人ともあまりはしゃがないように。敵は手練れです。気を引き締めていきましょう」
「ヨシさんはもう少し気楽にした方がいいかな」
「黒石君、何度も言わせないでください……」
「班長ね、分かってるよ」
「それでは、向かいましょうか」
三人は準備を整え、佐世保基地に急行した。
***
三人は佐世保基地で待機し、周辺の監視カメラをくまなくチェックしていた。数日もせずにゾーとウィタは姿を現した。
「二人とも、そこで止まってください。私達はこういうものです。詳しく話をお聞きしたいので、御同行願います」
流師は警察手帳を見せ、ゾーとウィタの足を止めた。
「普通の警察じゃないだろ。俺達をたった三人で止めにきたんだ。あんたらも俺達と同じ銘力者だな」
長身の男、ゾーが驚く様子もなく話す。
「話が早いわ、とっととやりましょ」
「こらこら、白南風君。あなたの相手は違うでしょう」
白南風はキッと、ウィタを睨む。
「二対三ですか」
「いいえ、違います」
地面を割り、巨大な水流が現れた。水でできた大きな龍は流師とゾーを飲み込み、離れたところへ連れ去っていく。
「これはまた、派手な力ですね」
取り残されたウィタは懐から眼鏡を取り出しながら、平然とした態度で言う。圧倒的物量の水流を見てもまるで焦っていない。
「仲間が心配じゃないのかな」
「あれくらいなら問題ないです」
眼鏡を拭き終え装着すると、ウィタは黒石と白南風をまじまじと見つめる。
「日本はとても良い国です。私にもこんな綺麗な女性たちをアテンドしてくれるのですから」
「お礼はいいから、おとなしく捕まってくれる?」
「それはできません。仕事です。あなた方こそ、おとなしく帰ってはくれませんか。日本に我が国のことを知らないでいて欲しい。それだけなのです」
「それはちょっと無理なお願いかな」
「そうですか。残念です。私にとって暴力は最終手段です。できることなら使いたくないのですが、仕方がない」
「暴力を振るえば、私達に勝てるって?」
「奇妙なことをお聞きしますね。寺の孤児院で育った私共は、物心つく前には厳しい修行をしていました。洗脳とも言える代物です。私が過去を振り返り、洗脳だと言えるのは稀有なことかもしれません」
「まだ続くかな? その変な話?」
ウィタの長話に退屈したように両手を腰に当て、急かすように黒石は言った。
「良いではないですか。時間が惜しいのは私で、あなた方は焦ることはないのです。機嫌よく私の話を聞いていても何も問題はないかと。特別に私の銘力も教えて差し上げるので、聞いていてください」
「ずいぶんサービスしてくれるのね」
「大方、私の力も察しているのでしょう?」
「そうかもね」
「手短にしてよ?」
相手から手の内を明かしてくれるのなら、それを断る理由は二人にはなく。ウィタの話を聞くことにした。
「私のいた寺は、軍部と深い繋がりがありました。孤児を育てるふりをして、国にとって都合の良い軍人を作り上げていたのです。
その洗脳のようや修行の過程で、私共のような銘力者が生まれるのも、これまた道理。何事も深く信じ疑わないのですから。
そして、私は修行の過程で"他力本願"という銘力を授かりました」
「他力本願?」
「ええ、ここでは本来とは違う意味で使われています。他人任せという具合でしょうか」
「その力についても聞かせてくれるのかな」
「いいでしょう。私の力は、人のコンディションを左右し、有利にことを運ばせていただきます」
「やっぱり、弱体化能力なのね」
ウィタの話を長々と聞いた二人は、事前調べで一通り予想していたことを聞いただけで、少し後悔する。だが、予想が確証になっただけ儲けものと思うことにした。
一通り話し終え満足したのか、ウィタは薄く笑い黒石と白南風に問いかける。
「それでは始めますか? 帰りますか?」
「あなたがおとなしく捕まる以外、戦うしかない……かな」
「そうですか。なんと愚かな。ですが、安心してください。私は不殺を心がけています」
ウィタは手の平を胸の前で合わせて、何かに祈るように思い耽ける。
「奇遇ね、私達も殺しを趣味にしてない」
「心がけるのは結構だけど、私達相手にずいぶん余裕な態度過ぎるかな」
「大人になってからたかだか数年訓練した小娘二人を、幼子の頃から修行をしてきた私が苦戦するはずもなく……ただ無情なだけです」
ウィタは合わせていた手を解き、いつでもかかってこいと言わんばかりに腕を広げた。
黒石が白南風にアイコンタクトを取る。
戦闘開始の合図だ。




