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銘の者  作者: 笹暮崔
一章
14/52

副班長

 

 これは、時雨日々生(しぐれひびき)が特課第二班班長の流師と出会う数ヶ月前の二班の物語。


 ***


「鹿児島の海上自衛隊基地が某国の工作員二名に襲撃されました。幸い、施設等に大きな損害はありませんでしたが、一部情報が漏洩した恐れがあります」


 班長である流師善彦(ながしよしひこ)は、自身の班員に向かい任務の詳細について語り出した。


「私達に話が回ってきたということは、銘力者なんですね」


 顎のあたりで整えられた優美なショートカット姿の白南風喜己(しらはえきき)は、やりごたえのありそうな任務に心躍らせていた。


「ええ、おそらく。少ししか映像はありませんが、こちらを見る限り銘力者だと思われます」


「これは……反射系の銘力かな?」


 副班長の黒石白(くろいしはく)は、肩甲骨辺りまで伸びた黒髪を結いながら、映像を確認し敵の銘力を考察していた。


「私もそう思います。この背の高い彼の力は、少し気になるところはありますが、反射系あるいはカウンター系のように見えます」


「もう一人の方は、映像からでは分かりませんね」


「現場の隊員によると皆一同に、体調が急に悪くなった、身体がいつものように動かなかったと証言しています」


「なら、もう一人は弱体化系の力かな?」


「そうみたい」


「調べによると長身の彼がカン・ゾー、もう一人がパラ・ウィタ。

 今回の敵は二人。私と黒石君・白南風君ペアの2チームに分けます。

 全員カウンター系とは相性が優れないと思いますし、弱体化には数的有利を取る方が良いと思うので、私がゾーを二人はウィタをお願いします」


「「了解」」


「ただし、銘力の予想はしても断定して戦わないように注意しましょう」


「それで、彼らの居場所は分かっているんですか?」


「ええ、鹿児島で彼等の国に関する情報を探っていたようなのですが、一部失敗した痕跡がありました。そして、その情報が長崎の佐世保基地で入手できるところまで、彼等は突き止めたようです」


「なら、私達が向かう先は……」


「佐世保ってことになるのかな」


白姉(はくねえ)、気合い入ってる。久々に大きい任務だから?」


「まーね、いつもデカい山は一班に持ってかれちゃうから、腕がなるかな」


「二人ともあまりはしゃがないように。敵は手練れです。気を引き締めていきましょう」


「ヨシさんはもう少し気楽にした方がいいかな」


「黒石君、何度も言わせないでください……」


「班長ね、分かってるよ」


「それでは、向かいましょうか」


 三人は準備を整え、佐世保基地に急行した。


 ***


 三人は佐世保基地で待機し、周辺の監視カメラをくまなくチェックしていた。数日もせずにゾーとウィタは姿を現した。


「二人とも、そこで止まってください。私達はこういうものです。詳しく話をお聞きしたいので、御同行願います」


 流師は警察手帳を見せ、ゾーとウィタの足を止めた。


「普通の警察じゃないだろ。俺達をたった三人で止めにきたんだ。あんたらも俺達と同じ銘力者だな」


 長身の男、ゾーが驚く様子もなく話す。


「話が早いわ、とっととやりましょ」


「こらこら、白南風君。あなたの相手は違うでしょう」


 白南風はキッと、ウィタを睨む。


「二対三ですか」


「いいえ、違います」


 地面を割り、巨大な水流が現れた。水でできた大きな龍は流師とゾーを飲み込み、離れたところへ連れ去っていく。


「これはまた、派手な力ですね」


 取り残されたウィタは懐から眼鏡を取り出しながら、平然とした態度で言う。圧倒的物量の水流を見てもまるで焦っていない。


「仲間が心配じゃないのかな」


「あれくらいなら問題ないです」


 眼鏡を拭き終え装着すると、ウィタは黒石と白南風をまじまじと見つめる。


「日本はとても良い国です。私にもこんな綺麗な女性たちをアテンドしてくれるのですから」


「お礼はいいから、おとなしく捕まってくれる?」


「それはできません。仕事です。あなた方こそ、おとなしく帰ってはくれませんか。日本に我が国のことを知らないでいて欲しい。それだけなのです」


「それはちょっと無理なお願いかな」


「そうですか。残念です。私にとって暴力は最終手段です。できることなら使いたくないのですが、仕方がない」


「暴力を振るえば、私達に勝てるって?」


「奇妙なことをお聞きしますね。寺の孤児院で育った私共は、物心つく前には厳しい修行をしていました。洗脳とも言える代物です。私が過去を振り返り、洗脳だと言えるのは稀有なことかもしれません」


「まだ続くかな? その変な話?」


 ウィタの長話に退屈したように両手を腰に当て、急かすように黒石は言った。


「良いではないですか。時間が惜しいのは私で、あなた方は焦ることはないのです。機嫌よく私の話を聞いていても何も問題はないかと。特別に私の銘力も教えて差し上げるので、聞いていてください」 


「ずいぶんサービスしてくれるのね」


「大方、私の力も察しているのでしょう?」


「そうかもね」


「手短にしてよ?」


 相手から手の内を明かしてくれるのなら、それを断る理由は二人にはなく。ウィタの話を聞くことにした。


「私のいた寺は、軍部と深い繋がりがありました。孤児を育てるふりをして、国にとって都合の良い軍人を作り上げていたのです。

 その洗脳のようや修行の過程で、私共のような銘力者が生まれるのも、これまた道理。何事も深く信じ疑わないのですから。

 そして、私は修行の過程で"他力本願"という銘力を授かりました」


「他力本願?」


「ええ、ここでは本来とは違う意味で使われています。他人任せという具合でしょうか」


「その力についても聞かせてくれるのかな」


「いいでしょう。私の力は、人のコンディションを左右し、有利にことを運ばせていただきます」


「やっぱり、弱体化能力なのね」


 ウィタの話を長々と聞いた二人は、事前調べで一通り予想していたことを聞いただけで、少し後悔する。だが、予想が確証になっただけ儲けものと思うことにした。


 一通り話し終え満足したのか、ウィタは薄く笑い黒石と白南風に問いかける。


「それでは始めますか? 帰りますか?」


「あなたがおとなしく捕まる以外、戦うしかない……かな」


「そうですか。なんと愚かな。ですが、安心してください。私は不殺を心がけています」


 ウィタは手の平を胸の前で合わせて、何かに祈るように思い耽ける。


「奇遇ね、私達も殺しを趣味にしてない」


「心がけるのは結構だけど、私達相手にずいぶん余裕な態度過ぎるかな」


「大人になってからたかだか数年訓練した小娘二人を、幼子の頃から修行をしてきた私が苦戦するはずもなく……ただ無情なだけです」


 ウィタは合わせていた手を解き、いつでもかかってこいと言わんばかりに腕を広げた。


 黒石が白南風にアイコンタクトを取る。


 戦闘開始の合図だ。

 

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