表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銘の者  作者: 笹暮崔
一章
12/52

あの人と同じ言葉

 

 一班班長の油田金時(あぶらだかねとき)の突撃を合図に薔薇組との戦闘の火蓋が切られた。


 油田と二班副班長の白南風喜己(しらはえきき)の二人は迷うことなく、次々にヤクザ達を倒していく。怒涛の攻撃はまさに圧巻の光景だった。


 時雨日々生(しぐれひびき)も負けじと警棒で応戦する。二人ほどとまではいかないが、時雨も一人一人確実に数を減らしていった。


 人数は圧倒的に時雨達が劣っていたが、戦力ではこちらに軍配が上がった。時雨たち優勢で戦いは順調に進んでいた。


 しかし、敵の組長の一声で、戦況は一変する。


「こいつら尋常やない。かまわん、撃ってまえ!」


 号令を聞き、組員たちは一斉に銃を抜いた。弾丸の雨が三人に降り注ぐ。次々に工場の薄い鉄板の壁に風穴が開いていき、三人は厳しい状況へと追い込まれた。


「二人とも集合!」


 油田が工場に転がっていた分厚い鉄板を盾にし、時雨と白南風を呼びよせた。一時凌ぎにはなりそうなものの、長い時間を耐え抜けそうにはない。


「アハハ! キキちゃんは相変わらず、さすがやな! カエルくんもなかなかいけるやん!」


「でも、これどうするんですか?」


 危機的状況に時雨は二人に起死回生の作戦を求めた。しかし、油田から授けられた策は、時雨にとって実行不可能なものだった。


「そりゃ決まってるやろ! カエルくんの初陣や! 花を持たせたる! 銘力使って挽回してくれ!」


「あの……」


「なんや、カエルくん?」


「僕、雨が降ってないと力を使えないんです……」


「今日の天気は?」


「晴れです……」


「カンカンでりやな!」


「……」


「どないしよか? 八方塞がりや! アハハ!」


(アハハって……でも、これは俺が銘力を自在に使えへんのがあかんよな……)


「油田さんの銘力で、どうにかできないですか?」


「俺の? それは無理やな!」


「どうしてですか?」


「俺の力を使うには、金が必要やねん。金さえあればあんな奴ら瞬殺なんやけどな!」


「つまり……」


「あのアタッシュケースがないと、なんともならん!」


「俺に任せろって言ってたじゃないですか!」


「どないしよか? アハハ!」


 油田の奔放さに困り果てた時雨であったが、白南風は油田の銘力の制限について知っていたのだろう。彼女は銃弾が飛び交うこの状況でも落ち着き払っていた。


「白南風さんは?」


 平然としていた白南風だったが、時雨の質問で表情が曇った。


「私も……今は、力が使えないわ……」


「なんやそれ! キキちゃん、そんな銘力やったっけ!」


「……」


(白南風さんにもなんか制約があんのか。今はそんなこと聞いてる暇はない。なんとか切り抜けな)


「お二人とも銃は?」


「持ってない」


「持ってないな!」


 聞けば聞くほど状況は深刻さを増すばかり。


 切羽詰まった状態で時雨は現状を打開する策を閃いた。

 しかしそれは、あまりにも危険な作戦だった。


「撃て撃て! あいつら三人まとめて蜂の巣にしてまえ」


 三人が作戦を立てている間も、鳴り止むことなく銃声が響く。轟音の中、組員が近づいてきている気配を感じた。

 時は一刻を争う。


(武装した大人数を相手に、こっちは飛び道具なし。逃げ場もない。切り抜けるには……やっぱり、もうこれしかない……!)


「案があるんですけど、いいですか?」


「なんやカエルくん、案あるならはよ言いや!」


「案ってなに?」


「僕がこのまま突撃して、アタッシュケースを奪います」


「「…………!」」


「日々生くん、正気? これは訓練じゃない。拳銃を甘く見過ぎ。死ぬわよ?」


 白南風の動揺が時雨にも伝わった。だが、不思議と時雨は普段以上に冷静である。二人を守るためならなんでもする所存だ。


「甘く見てるつもりはありません。現状を打破するには油田さんの銘力に頼るしかないと思います」


「頼るって……日々生くんは油田さんの銘力も知らないでしょ?」


「知りません。でも、お金さえ取り返せば勝てるんですよね?」


 タイムリミットが迫る現状で、油田の銘力の詳細を聞いている時間などありはしない。難を逃れるには、一刻も早く行動に移さなければならないのだ。


「勝てる。造作もなくな」


「なら、行きます」


「待って。それなら……私が行く。その方が取り返せる可能性も高いわ」


「いえ、僕に行かせてください」


「どうして! まだ会ったばかりの私達を庇ってるつもり!?」


 クールな白南風が声を荒げる。確かに彼女に任せた方が成功確率は高まるのかもしれない。それでも、時雨には譲れないものがあった。特課に所属すると決めたときに、命を賭ける覚悟を決めたときに、彼に宿った信念が彼女を死地に送ることを許さない。


「自分以外の誰かが傷つくなんて、僕は耐えられません。誰かが傷つくくらいなら、僕が傷つく方がいい」


「なんで、日々生くんが……あの人と同じ言葉を…………」


 白南風の目は泳いでいた。俯き、何か思いを馳せている様子だが、気にはしていられない。


「カエルくんの覚悟はわかった。でも、ほんまにいけるか? 三人で同時に行ってもええんちゃうか」


「いえ、油田さんに弾が当たったら、完全に銘力を使えない僕達ではそれこそ勝てないと思います」


「分かった。日々生、任せたで」


 油田のまっすぐで、真剣な眼差。

 仲間に命運を託す覚悟を、時雨は受け取った。


「任されました。それでは、行きます!」


「待って!」


 銃声すらも掻き消すような大声で、白南風が時雨のスーツの裾を掴み、引き留める。


「白南風さん、僕の考えは変わりません。完全に囲まれる前に僕が行かないと!」


「誰が……誰が、完全に銘力が使えないって言ったのよ」


「でも、白南風さんも銘力が使えないって」


「できる。私なら、できる……!」


 白南風はまるで自分に言い聞かせるように呟いた。

 仲間を守る。

 言葉を交わさずとも、彼女の瞳から覚悟が伝わった。


「待って! 白南風さん!」


 銃弾吹き荒れる中、白南風は立ち上がった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ