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銘の者  作者: 笹暮崔
一章
11/52

実戦

 

 一班班長の油田金時(あぶらだかねとき)と、二班副班長の白南風喜己(しらはえきき)の三人で初任務をこなしている時雨日々生(しぐれひびき)


 とある商店街で大金の入った油田のアタッシュケースが奪われ、犯人を追いかけていた。そうこうしているうちに、人通りの少ない路地へと誘い込まれてしまった。


「やるつもりね」


「囲まれまちゃいましたよ……」


 複数人に囲まれても平然としている白南風、油田と対照的に、初任務の時雨は人数差に戸惑っていた。


 前方に三人、後方に二人。不良達に囲まれてしまったのだ。足止めをくらった三人を尻目に、アタッシュケースを持った男は路地の裏に消えていってしまった。


「二人に後ろは任せるで。いけるよな?」


「私達が前の三人でも構いませんよ」


「まーまー、ここは先輩に任せなさいな。どっちが早く倒し終わるか勝負やな!」


 油田はブンブンと肩を回し、ゆっくりと前方の三人に歩み寄っていった。


「日々生くん、私達もやるわよ。初めての実戦だけど、ヨシさんと比べたら大したことないから、気張り過ぎないで」


「はい、ありがとうございます」


 時雨は腰のベルトから警棒を取り出し、強く握りしめる。

 カチッという音と共に特殊スチールの棒は伸びた。

 初めての実戦。これは決して訓練などではない。

 高まる緊張の中、時雨は腹を括った。


 ――大丈夫。訓練の成果をここで出す。


 右手に警棒を持ち、左手はやや前に。

 相手との距離を正確に測る。

 足は肩幅に広げて、半身に。

 班長の流師善彦(ながしよしひこ)に習った戦闘法は、この数ヶ月で時雨の身体にすっかり染み付いていた。


 時雨が構え終わると同時に、相対していた不良が殴りかかってきた。


 ――なんや……これ……。


 不良の右の大振りは、時雨に軽くいなされる。

 時雨は少し間合いを取り、慎重に相手の様子を窺った。


 ――遅すぎる。いや、班長が早過ぎるんや。一般人はこれくらいが普通なんか。いける。俺でも十分やれる!


 訓練の成果は如実に現れていた。

 銘力が発動していなくても十分に身体が動く。

 敵を前に恐れなど抱かなかった。

 努力が自信へと、昇華する。


 時雨は素早いステップで敵に近寄り、相手の右ストレートを自身の左手で受け止める。

 すかさず、警棒を不良の首と肩の付け根目掛けて振り下ろした。


 ――手応え、アリ……!


 不良の拳を掴んでいた左手に重さを感じた。

 敵は糸が切れた人形のように、ぐったりと冷たいアスファルトの上に崩れ落ちていた。


「白南風さん! 僕、できました!」


 時雨は一人で不良を倒せた喜びを、まるで子犬のようハイテンションで報告する。だが、興奮は瞬時に冷め切ってしまう。


(あ……)


「当然よ、なんのための訓練だったの」


「カエルくんがベベ! もっと(はよ)してくれな」


 時雨が振り返ると、白南風と油田はすでに一仕事終えていた。退屈そうな様子を見る限り、とっくのとうに二人は敵を片していたのだろう。


(それなりに俺も早く終わったと思ってんけどな……)


「こいつらの中に銘力者はおらんかったし、アッシュケースも見失ってもうたわ」


「あなた達、盗んだお金をどこにやったの?」


 白南風が不良の一人に、もの凄い剣幕で問いかける。目だけで人を殺せる。いや、既に殺したと言われても信用してしまうと、横から見ていた時雨もその威圧感に思わず肝が冷えた。


 (白南風さんには逆らわないでおこう……)


「薔薇組に収めにいった」


(なんやそれ、幼稚園かよ)


「ん〜、次はヤーさんか」


 どうやら、薔薇組というのは幼稚園のクラス名などではなく、ヤクザの組名のようだ。


「油田さん、そこに本命がいると考えているんですか?」


「どうやろな、行ってみなわからん。せやけど、あのお金取り返さんかったら、俺が怒られてまうからな。行くしかないわ!」


「余計な仕事を……」


 ため息を吐く白南風とは反して、時雨は実戦で敵を倒せた喜びを改めて噛み締めた。そして、一向は次の目的地へと向かうのであった。


 ***


 倒した不良達から薔薇組の居場所を聞いた三人は、目的地に到着していた。そこは、町外れの使われなくなった工場だった。あたりに人影は無く、どんよりとした雰囲気が纏わりつくようで気味が悪い。どこから香るのだろうか、嗅いだことのない科学的な匂いが鼻腔を突き刺してくる。


「ここからどうしますか?」


 外からでは中の様子がわからなかったので、時雨は二人にこれからの作戦を確認した。


「安心したまえカエルくん。全部、俺に任せい」


 油田はそう言うと、おもむろに工場の扉へと近づいた。錆びついているのだろうか、重い鉄の扉がギィギィと音を立てゆっくりと開かれた。


「頼もう! こちらに迷子のアタッシュケースが届いてるはずなんですけど、いませんか? その子、うちの子なんで返してください!」


(まじか、この人……)


 薬品の香りが立ち込める室内には、派手な柄シャツを着た男達がいた。彼等はさっきまでの不良とは明らかに雰囲気が違う。一目で本職の方々だと分かった。


 貫禄のある組長らしき人物が、一番奥で油田のアタッシュケースを大事そうに抱えていた。


「なんや、いかつい園長先生やな」


「ああ? なんやお前ら? ここがどこか分かって来たんか?」


「外道の託児所」


(油田さんも幼稚園みたいやと思ってたんや。

 え、? ちょ、待って……!)


 先手必勝とばかりに油田が飛び出していく。油田の無計画な突撃に、時雨は深く考えるのを辞めることにした。


 油田の突撃を合図に、薔薇組との戦闘の火蓋が切られた。

 

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