あなたと一緒にいられるのなら
そこでわたしはふと疑問に思います。
「あの……」
「ん?」
「思ったんですけど、向後善人と大垣彩音は正反対な性格で相性最悪なんですよね」
「そうだよ」
「じゃあ、さっき沙也加に見せた『評価 最高でしょう』と書かれたあのデータ表は嘘のものだったってことですか?」
「違うよ。いくらわたしでも虚偽のデータ表は作れない。あれは本当のデータ表だよ。でもあれは二人の相性を表したものじゃない」
「だったら、あれは……」
「そこは新入社員らしく自分で考えてみなよ」
「考えてって言われても」
「わたしたちの業務内容は?」
「それは、より優れた子供を産むことができる男女をカップルにすること」
「そう。でもそれはその男女のためにやってるんじゃない。あくまでも次に生まれてくる子供のため」
「ってことは――沙也加に見せたあの評価は大垣彩音と向後善人の二人の相性を示すものではなく、二人の間にできる子どもの評価だった……ってことですか」
「正解。頭のいい遥には付け合わせのニンジンをあげよう」
それはあなたが食べられないだけでしょ、と突っ込みは入れず、わたしは少し思案する。
そして――そっか、やっぱりこういう仕事か。と結論付ける。
「どう、遥」ニンジンを見つめるわたしの顔を覗き込んで美玖は、「わたしたちの仕事は次世代や未来の育成のためにある。だから二人の相性とか幸せなんてどうでもいいのよ。大事なのは次の世代。そういう仕事よ。もしも、自分のキャリアプランとそこにミスマッチがあると感じたらいつでも言って。試用期間の今なら――」
「大丈夫」美玖の言葉を遮り、わたしは言います。「わたしはやれます」
珍しく透き通るような気持ちのいいまっすぐな目をしていたと思います。それを見て美玖は「そりゃよかった」と安堵の表情を浮かべます。
正直なところをいうと、ミスマッチを感じざるを得ませんでした。
しかし、人という生き物は妥協と言い訳が得意です。一貫性もないため、時間さえあればどんな環境にでも適応できます。たとえそれが当初自分の望んでいなかった場所だとしても。
わたしはやれる。美玖と一緒にいられるのなら。