見届け完了。あとはお若いお二人で、
遥のカリスマ美容師さながらのヘアメイクを終え、口元のメイクを完璧に仕上げた彩音は、自分で選んだおしゃれな服を身にまとい、そのままガールズコレクションのランウェイを歩かせても問題ない域にまで達した。そこに美玖のトーク術も付帯するならバラエティで引っ張りだこだろう。
向後さんとの待ち合わせは十四時。場所は宇宙化科学博物館前にある地球儀のオブジェ。
そして時刻は現在、十三時五十分。
わたしは地球儀の前で静謐に待っている彩音を少し離れた草の陰からじっと見ている。ここまでおぜん立てしてあげたんだ。せめて向後さんとの待ち合わせまではしっかり見届けておきたい。
美玖と遥はというと、わたしと一緒に草陰に隠れているのだが、彩音のことなどどうでもいいかのように、地球儀のオブジェを指さして何やら話している。この二人にとっては六大陸ある地球儀は物珍しかったりするのだろうか。
五分後、待ち人は来た。
気合を入れ過ぎていなカジュアルな服装に、嫌味ったらしく毛先を遊んでいないナチュラルな髪型、先に来ていた女子を待たせていることを申し訳なさそうに思っている表情という、待ち合わせでの第一印象の演出を完璧に仕上げた向後さんはやってきた。
その姿を視界にとらえた彩音は自然に顔がほころぶ。
もしかすれば、彩音の向後さんへの思いは、彩音の頭の中で作り上げられた向後さんの理想像への想いなのではないかという考えがあった。そのため、実際に向後さんに会ってしまえばその想いは幻想だったと自覚してしまい、好きという感情は勘違いだったと思ってしまう懸念もあったのだが、あの顔を見た限りそれはなさそうだ。
ここからでは二人の会話は聞き取れないが、
「待った?」
「ううん、いま来たところ」
「今日、なんだかきれいだね。あ、いつもきれいなんだけどさ。今日は一段と」
「え、ありがとう」
そして見つめ合う二人。なんてシナリオが書けるくらいのやり取りはできていそうだ。
二人は二、三会話をしたところで、宇宙科学博物館の中に入っていった。
向後さんに付き従う彩音の紅潮した頬がすべてを物語ってくれている。
これなら後のこともスムーズにいきそうだ。
「さて、」草陰から立ち上がり伸びをする美玖。「わたしたちにできることはやったし、あとは向後頼みだね。どっかでだべって朗報でも待つか」
美玖は仕事をやり切ったような爽快感に浸る。実際に彼女にとっては彩音の恋の応援など仕事でしかないことは重々承知している。
「ねぇ、美玖」
「ん?」
「ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
わたしの真剣な顔つきに美玖はにやりとする。
「話が長くなりそうだね。女子がだべるとき、この世界ではどこぞのおしゃれなコーヒー店にしけこむのが主流みたいだけど、わたしらの世界では街が見下ろせる高台だと相場は決まっている」
美玖のその言葉を聞いて、遥はすぐさまスマホで『街の見える丘公園』と検索した。