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新しい朝

 今日がいつもとは違う日になることを知っていた。それでもわたしはいつも通りの午前七時に起床する。

隣では未だ彩音が寝息を立てている。寝癖が芸術的な爆発の仕方をしている。彩音らしい。

「おはよう、起きて」と、彩音の身体を揺らす。

「ん、あ、おはよう。沙也加」

 眠い目をこすりながら上体を起こす彼女は数時間後にデートが控えていることなど忘れていそうだ。

「今日、向後さんとデートでしょ」

「あ、そうだった」

 その一言で眠気は吹っ飛び、彩音の顔は晴れやかになった。

 やっぱり、彼女は笑っている時が一番綺麗だと思う。

「でも十四時に待ち合わせだからそんなに急がなくてもいいでしょ」

 と、彩音は二度寝に突入しようとする。

「なに言ってんの」わたしは掛け布団をはぎ取る。「午前の時間使ってメイクもばっちりに仕上げて、髪型もセットしなくちゃいけないし、向後さんとのデートで気まずくならないようにトークの話材も仕入れとかなきゃ」

「そこまでやるの?」

「デートよ、デート。どれだけ準備しても準備しすぎることなんてないわ」

「えー」

 いつもならここで眉間に三本線のしわが寄るくらいの嫌な顔をするのが彩音だった。しかしこれもまた向後さんへの想いがそうさせるのだろう。言葉とは裏腹に彩音の顔には喜びの感情が垣間見れる。

 凄いな。ものぐさがベースとなっている彩音の感性すらも変える恋って凄いな、と素直に思う。

「さ、二人も起きて起きて」

 わたしはベッドの横で寝ているトーク話材担当の美玖と、ヘアスタイル担当の遥を起こす。

「みんな、朝ご飯はパン派? ご飯派?」

「ご飯」と、さっそく寝間着を脱いで着替えだした彩音。

「パン」と、寝ぼけ眼で答える美玖。

「パン」と、半分二度寝に突入している遥。

「じゃあ、パンで」

「えー」

 その時の彩音の眉間には三本線のしわが寄っていた。


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