この世界はわたしのことを好きじゃなかったみたいで
わたしには好きなものが多い。
ラスト十五分あなたは涙が止まらない、という触れ込みのある映画が好き。
ファッションにかこつけて露出を多めにしてくれる服が好き。
全ての毛を処理し終えた後のつるつるな肌が好き。
どんな動物にも、さん付けする純粋無垢な女の子も好き。
酢豚に入っているパイナップルが好き。
どんな役にもなりきれるカメレオン女優が好き。
通勤電車でお年寄りに席を譲る若者が好き。
若い子の気を引きたいがために少しおしゃれに気を遣うおじさんが好き。
ものを落とさないよう配慮する為のチャック付きのポケットが好き。
太りすぎて狸みたいになっているころころした犬が好き。
芸名だけで一笑いさせてくれる芸人が好き。
中が狭くなっても個室を多く設けてくれているトイレが好き。
すぐさまサラダを取り分けてくれる、自分の立ち場をわきまえている女子が好き。
レモンをかける派の人とかけない派の人がいる時にから揚げをあえて頼まない男子が好き。
十分に紫外線を遮断してくれるサンバイザーとそれを使いこなすマダムが好き。
車を停める時、時間がかかってでも駐車場にちゃんと入れようとする新米ドライバーが好き。
新しいものをすぐに手に入れようとする流行りに敏感な人が好き。
新作旧作問わず、すべて百円まで値下げしてくれているレンタルビデオ店が好き。
すっぴんになっても目鼻立ちがはっきりしているインフルエンサーが好き。
雲が好き。どんな風にも流される、どんな形にもなれる雲が好き。憧れる。
みんな好き。すべてが好き。目につくものも聞こえてくるものも、感じるもののすべてが好き。世界が好き。それを好きなわたしが好きで、そしてわたしは恋愛が好き。
だったのに、この世界はわたしを好きじゃなかったみたいで。




