芸能活動休止
チュンチュンという雀のさえずりを聞いて起きられるほどの優雅さをもっていないわたしは携帯の目覚まし機能でなんとか起床した。いつもと変わらない朝、そして今日もまたあの辟易する坂道を登らなければいけないという、いつもの憂鬱な朝。しかし、その日は少し違っていた。
リビングに降りるとテレビがつけられており、ニュース番組が流れていた。いつもならわたしの興味をひかない陰鬱となるニュースがよく取り上げられているのだが今回ばかりは食い入るように見るほかない。
『人気アイドルみぽりんが芸能活動、無期限休業!』
そのテロップがわたしの度肝を抜いた。いつもなら人気アイドルが休業ごときのニュースでわたしの眉根は動くこともないが、友達である美穂が休業というのなら話は別。眠い目もさえてしまう。
『所属事務所によると学業に専念したいため、という報告でしたが……いやー、これは残念ですね』
『確かにそうですね。みぽりんは歌を出せばオリコン一位。バラエティでも活躍しているマルチなタレントでしたから、これは芸能界だけでなくお茶の間にも衝撃的なことでしょう』
今後、芸能界に復帰することはあるのか。美穂の真意も分からず、キャスターや評論家はその後も憶測で討論していた。
「このみぽりんってあんたんとこの大学だったわよね」
朝ご飯を運んできた母が尋ねてきた。
「うん」
母にはわたしと美穂が友達ということは話していない。芸能人と友達になったからって母に自慢気に話すほどわたしはミーハーではない。しかし、美穂がアイドルを辞めたその真意については訊いてみたいと思った。
出された朝ご飯を食べながらわたしはグループラインでメッセージを送る。
『美穂、どうしたの?』
その一言で充分伝わると思った。すると案の定、沙也加もそれに乗っかり、『そうだよ、美穂、大丈夫?』とメッセージが来た。すぐに美穂は既読しないかと思ったがあにはからんや美穂からの返信はすぐに来た。
『今日、大学行くからそのとき話すね❤』
語尾につけられたハートマークが疑問だったが、その疑問は美穂の話を聞いたら払拭された。




