プロローグ
わたしには好きな人がいます。その好きな人はわたしのことが好きです。
性格が合わないからとか、生まれが違うからとか、同性だからとか。そんな稚拙な理由でわたしを遠ざけたりはしません。
周りに人気があるからとか、わたしのことを好きだからとか。そんな理由で好きというわけでもありません。
たとえあなたが社会から悪い人と評されていようが、他人の人生を食い物にしてお金を稼いでいようがそんなことは関係なく。
わたしが好きな人はあなただけなんです。
好きな人がいるというだけでわたしの世界は華やかになりました。クソだと思っていたこの世界を好きになれた。あなたがいるこの世界を好きになれた。
あなたはわたしの人生です。
あなたと一緒に居れるのなら他人の幸せなどどうでもいいことなのです。
わたしには嫌いなものが多い。
全米が泣いたという煽りを入れる映画が嫌い。
ファッションだと言い張って露出の多い服を着る人妻が嫌い。
全部処理できたと思った直後に見つけてしまった枝毛が嫌い。
相手がいなくなった瞬間に悪口を言い出すぶりっ子女が嫌い。
お菓子の袋に申し訳なさそうに入っている場違いなピーナッツが嫌い。
映画の役作りと言い張り、日によって性格を変える舞台女優が嫌い。
満員電車にリュックを背負って入ってくる奴が嫌い。
若い子の気を引きたいがために無理やりに入れてくるオヤジギャグが嫌い。
首元にある無駄に大きい服のタグが嫌い。
チワワのくせにコーギーくらいの大きさになっているイヌが嫌い。
耳目を引きたいがために斬新な芸名を付けている芸人が嫌い。
狭いくせに内側に開くトイレのドアが嫌い。
野菜を取り分ける時に箸の持ち手の方を使って取り分ける女子が嫌い。
誰の許可もなく、から揚げにレモンをかける男子が嫌い。
紫外線を気にしすぎてどこぞの宗教にはまった民族の風貌になっているマダムが嫌い。
バックミラーを使わずに車をバックさせて乗り上げてしまうペーパードライバーが嫌い。
新発売の携帯電話を買うために何時間もかけて並ぶ暇人が嫌い。
バーコードシールのせいで映画のあらすじが読めなくなっているレンタルDVDが嫌い。
周りにかわいいと言われたいがためにすっぴん写真をSNSにあげる芸能人でもない女が嫌い。
ゴキブリが嫌い。論理的な理由もなく害獣だと見定めてすぐに殺す人間も嫌い。
みんな嫌い。すべてが嫌い。目につくものも聞こえてくるものも、感じるもののすべてが嫌い。世界が嫌い。それを嫌いなわたしが嫌いで、そしてわたしは恋愛が嫌い。




