2話
家をタロと共に出た悠太は特に行く宛も無くタロの導くがままに散歩していた。
通りがかった河川敷の土手では少年野球チームが声を出して練習していたし、川を挟んだ向こう側では反するように少年サッカーチームが練習試合をしていた。
「腹も減ったし帰るか、タロ!」
「ワォン!」
嬉しそうに鳴くタロを連れて家へと戻る。
幸い両親の海外出張と自分の浪人生活で昔から1年前まで仲良くしていた人たちとは縁遠くなっていたから悠太にとっては誰にも会わず帰れたのは幸いに感じられた。
そこから最初の講義が始まる日までは何事もなく太陽が昇り、沈みを繰り返してあっという間に2日が過ぎた。
目覚まし時計の音とほぼ同時に意識が覚醒した悠太は寝ぼけまなこのまま外出の準備をしてまだ明るくなりかけの景色へと出て行く。玄関先の小屋ではタロがまだ寝息を立てていた。
半年前まではまだ浪人生活の真っ只中にいて周りに気を配る余裕も無かったし、起きている間はいずれかの教科書か参考書を開いていないと不安に駆られていた。その時を思うと同じ路線、電車に乗っているはずなのに随分と気持ちに余裕があるものだと自分ながら思う。ぼんやりとそんな事を考えて歩いていると3日前にあの子(清水小春)にぶつかられた大学の校門にたどり着いた。あの時痛めた脇腹は治っていたし、今日は校門でぶつかられる事は無かった。校門を抜けると各サークルの長たちがサークル勧誘に精を出していた。
「君も青春の汗を流さないか?」
やけに大柄の体育をしています!と言っているような男に肩を掴まれたが
「そういうの間に合ってるので」
身を捻りながら交わすと校舎へと入って行った。
この織天大学は悠太にとっては高校時代の模試や、浪人生活での予備テストで何度か訪れた事が有ったので全く知らない場所 というわけでもない。
講義の教室にたどり着いてドアを開けるとそこはいつかの模試で訪れた事がある場所であった。
しかし見渡しても誰も居ない。
朝早かったので少し目を閉じていようと思い適当な席に座り科目の教材を出すと悠太は机にうつ伏せになり目を閉じるのであった。
次の3話投稿は15日0時を予定しております!
楽しんで読んでくれる人が増えてくれると信じて!
ヒロイン出るのは少し先になります。