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5(上),初任務って何するの

読了目安:3900文字

入団してから少しの日が経った。


アネモネ「〜♬」

シンザン「もうはふへへくらはい(たすけてください)...」


口笛混じりの[アネモネ]さんの胸に顔面から抱き抱えられたまま、また彼女の自室まで後ろ向きに連行された。例の特訓(シゴき)に振り回される為だ。

......今は鼻が苦しくて息ができない。


この頃、僕の情緒(じょうちょ)はそれはもう滅茶苦茶である。


シン「......あッちょ、大鎌は反則ですってば!」

アネ「死んだら反則もクソも無いわ」


教会に参加してからと云うもの、暫くはこんな感じである。


トーチ「[シンザン]のヤツも何回また釣られてんだよ...」


ライス「愛されてるわねー」


シン「......ぁぁぁあああアアア!?!!」


また教会の最奥から入り口の外までブン投げられました。

何度もボコされたせいで顔の(ツラ)もブ厚くなってきた気がする。両方の意味で。


僕の身体(からだ)が悲鳴を上げるのを辞めて沈黙し始めたので、結局[アネモネ]さんに抱き抱えられて広間に戻されたところだった。

[ブラウン]さんが、[アネモネ]さんに声を掛けに来た。


ブラウン「アネさん」


ブラ「いま村で狼が出たと報告を受けたンで、[シンザン]を同行させても良いですか?」


遂に、来た。教会の初仕事が。たった今[アネモネ]さんにボコされたばかりなのに。


受付「おい、まだ闘うには早いんじゃないのか?」


ブラ「まだ戦闘行為には参加させねえ、見学させるだけだ。[ガイド]は気が早いな」


受付「な(ちげ)えよ?!」


ブラ「如何(どう)ですか、アネさん」


[ブラウン]さんは受付さんを無視(スルー)して[アネモネ]さんに問う。


アネ「...そうね」

アネ「許可するわ。存分に連れ回しなさい」


シン「ウワァ...」


教会内で生活していて[ブラウン]さんとは話す機会は多かったが、大体の内容は僕の方がちょっかいを出されると云った事ばかりだ。

夕食のお肉を盗られたり、それの代わりに彼が嫌いな菜類を渡されたり。あと起きたら顔に落書きもされてた。


どんな事を任されるのだろうか?


ブラ「なぁにがウワァだ、ホラ行くぞ?」


シン「嫌な予感しかしない」


ブラ「[ガイド]、お前も手伝え」


受付「(おう)。」


[ブラウン]さんに抱き抱えられて、準備部屋まで連れ去られたのであった。



------

シン「...何ですかコレは」

ブラ「ニンニクの前飾り。」


村へ向かう道すがらで腰を下ろして、間食を摂っている最中だった。首に変なものを着けられた。


たったいま僕の首に掛けられた紐の上には、所狭しとニンニクが吊るし並べられている。

非常に、臭い。


シン「前飾りって言うか首の全方向に付いてるんですけど」


ブラ「御守りは多い方が安心するだろ? ついでに良い匂いもする」


シン「ニンニク好きですけど、常時身に付けてたい人なんて存在しません」


ブラ「居るだろ? オレの目の前に」


帰ったら枕の下にニンニク(コレ)仕込んでやろうか。


受付「ニンニクは鬼や狼が嫌う代表的な植物だ。比較的入手もしやすいし、まあ中々役立つ食物だな」


受付さんは僕のこんなアホみたいな姿を見ても、ただただ真面目に解説をしてくれている。とりあえず忘れぬうちにメモしておこう。


ブラ「オマエ急いで出てきたから依頼の内容聞いてないだろ、食ってるうちに説明しとく」


今回の騒動の説明をしてくれた。


ブラ「中規模の村の近くの林道で、噛み跡のある脱ぎ捨てられた衣服が発見された」


ブラ「おそらく狼に襲われた村人の遺留品(いりゅうひん)だ。だが村内(そんない)の村民の人数が()()()()()()()事から、もう村内には狼に咬まれたその"(もと)"村人が村民に擬態()けて潜伏している事がほぼ確定してる」


ブラ「その服の所有者は未特定。泳がせておいて被害が出る前に俺らで対処する」


これが今回僕が参加する依頼の内容である。


ブラ「それと」


ブラ「村内で襲われる際の悲鳴が聞かれてないって事は、村内での被害はまだ生じていないって事だ。つまり村内に潜伏している狼は、はじめに村外にて襲われたと思われるその()()()()()だけの可能性が高い」


シン「あの、村の住人が寝てるときに襲われて咬まれたりとかは? 周りの気づかぬうちに咬まれて狼に()ってしまっている村人も居るかも」


受付「確かおまえ、こないだ鬼に襲われた時に狼の口は見たよな? 狼は人を襲う際は必ず"狼化"をするんだが、狼の口ってのは殺傷性が高いんだよ」


以前の、遭遇した農服の者らが狼に変態(へんたい)した時のことを思い出す。吊り上がって裂けた口は、凶暴で、人の(かお)の輪郭を(たも)っていなかった。


受付「つまり、本気で噛んだら咬み殺しちまう。人間が死なずに狼化するくらいの甘い噛み具合なら、大抵は悲鳴をあげるくらいの猶予はある事が多いんだ」


受付「だが、これはあくまでも推論だ。毎度の任務じゃいつも、推測から(あぶ)れた"一匹狼"が現れない事を祈るばかりだな」


狼は人に化ける。素性の見えぬ天敵を相手にするのだ、どんな危険が潜んでいるか判らない。


ブラ「狼の擬態能力は、人を躊躇(ためら)わせる。実はまだ敵が残っているのではないか、本当にこの作戦のままで上手くいくのか、なんてな」


ブラ「正直俺は、鬼なんかよりも狼の方がよっぽど恐ろしいよ」


確かに、()う思った。


ブラ「だからまあ、あまり深刻に考えるな。恐れは人を立ち止まらせるのさ」


ブラ「よし。じゃあ行こかァ」


食事を終え、僕も余った一切れの干し肉を(ふところ)に仕舞って立ち上がった。


受付「問題なのは村人を襲って狼に変えちまった野良狼(のらおおかみ)の方だな。村人の人数が変わってないあたり、襲ってからまた何処かに去ったと見るのが妥当だが...」


ブラ「警戒はしておいた方が良いさ。新入りも村人たちが知らない顔の者を見かけたら特別注意しときな」


そんな話をしているうちに、先が見えてきた。


ブラ「さあ、村が見えてきたぞ」



------

村を訪れてから中を見渡した。

訪れた村の様子は、少し静かで何だか寂れている様にも感じた。


受付「村人の様子からして、新たな被害は出てなさそうだな」


ブラ「フフ、村に着いたら狼だらけで大混乱、とかじゃなくて良かったなァ」


本当に有り得そうな事だと考えるとゾッとする話だ。


ブラ「まだ情報が全然入ってきてない。俺は村長と話をつけてくるから、新入りは[ガイド]と手分けして村人相手に聞き取り調査な」


ブラ「手掛かりを探せ」


ここで、一つの心配事が脳裏をよぎった。


シン「あの、声掛けた相手が狼だったりしませんよね...?」


ブラ「首にニンニク掛けてりゃ嫌がって狼本人は大して近寄っては来ない。それに日中かつ人目につく大通りだ。新人でもそれくらいの危険は乗り越えてこそ一人前さ」


そう、今から人に化けて潜伏している狼を、身を晒して探し当てないといけないのだ。絶対に安全な方法なんて無い。


受付「教会で渡した狼の弱点リスト、ちゃんと持ってるか?」


シン「勿論です」


ブラ「何だそんなモン書いてたのか?」


受付「コレも教育の一環だ」


鞄から布地の紙を取り出した。受付さんお手製の、狼の判別方法や弱み一覧が纏められた巻物だ。


受付「それもあくまで目安だから信頼し過ぎるなよ」


目安だとしても在るだけ有難い。


シン「でも狼と特定するのは、最終的にどの方法使うんですか?」


ブラ「急ぎの際は水を使って見分けるが、今回は使わない。狼特定の最終行程は[ガイド]に一任してある」


鬼や狼は、水に弱い。水を掛けてやれば狼がその擬態を解くと云うのは、狼の見分け方的には最も一般的なやり方である。

今回使わない理由は、水を嫌った狼が暴れ出すのを防ぐ為だろう。


狼を刺激して村内で暴走でもされたら、此方としてはたまったモノでは無い。



ブラ「じゃあ始めるぞ、行動開始。」


それから聞き取り調査を開始した。


村人達「アレ魔女か?」「あんなガキが...?」


ム、なんかウワサされてる気がする。


それから十数人ほど聞いて回って、村の女性の一人と話をしたときの事だ。


村の女房「アナタ新人さん?」


シン「なんで分かったんですか?」


村の女房「ウフフ、そりゃ、そんなもの首にぶら下げてたらねぇ」


首に大量にぶら下がっていたニンニクを(ゆび)()された。

忘れてたわ。顔から火が吹き出そうだ。


シン「ま、まあそれは置いといて、最近何か気掛かりな事とか有ったりしますか?」


女房「そりゃあ、村の近くに狼が出たなんて聞いたら、なんでも気掛かりで眠れやしないわよぉ」


女房「おかげか最近は旦那も口数がちょっと少なくてね。ご飯食べてもよく(モド)しちゃうし。きっと気丈にしてても怖いのね」


シン「そうなんですか」

シン「...ちなみに、旦那さんはイケメンなんですか?」


女房「え?」


シン「いや、その、カッコいいのかなって。顔の特徴とか。」


女房「そりゃあソウよ、あたしが選んだんだもの」


女房「べつに顔で選んだ訳じゃないんだけどネ? ほりが深いだけじゃなくて、鼻筋が中々立ってるのよねェ」


女房「...実はね。わたし、鼻筋()()()なのよ!」


話をしてから少しして、その女性と別れた。


シン「...その旦那さんを探してみるか」


彼女がはたして何フェチなのかが気になって、質問をした訳では決してなかった。只、その旦那さんの外見が知りたかった。


シン「!」

居た。立った鼻筋の男性だ。


丁度その旦那が住まいに戻る瞬間であった。その、旦那の仕草を見た。


村の旦那「......」

彼、自分の爪を噛んでる。


受け取った狼の弱点リストを再確認した。


弱点その6──狼は、爪を噛む癖が見られる事がある


リストの特徴と、同じ仕草をしてる...!


さっき彼の奥さんから聞いた話も少し気掛かりだった。

彼の、嘔吐の多さは血肉でない食事を口にしているからで、口数の減り様は正体の露呈を恐れてと考えると、疑いにも辻褄が合う。


彼の事は、潜伏狼の候補に入れた方が良いかも知れない。


少し駆け足で、村内の[ブラウン]さんに報告に戻った。


ブラ「なるほど、素性は把握した。良く気付き抜いた」

ブラ「食事をモドしたり疑う余地を残すくらいなら、そんなに手強くはないな」


[ブラウン]さんがこちらを向いて答えた。


ブラ「良し、首のニンニクを外せ。今から、狼を"訪問"するぞ」


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