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3,教会に帰還しました。

読了目安:2700文字

あの鬼との激闘を経て、遠く長い時間が経ったようにも思える。

だが再び頭上を見上げると(そら)はまだ暗いままで、最初に見上げた月も未だそこに登っていた。


あれから、僕は再び教会に居る。


再び見た教会は最初見た時よりも黒く汚れて見えたが、きっと疲れて視界が更に(すす)くさく見えるのだろうと思って、今はただ教会の寝室で一休みしたいとばかり考えていた。



------

...教会に戻ったは良いが、まだ寝させてはくれないらしい。


教会に戻れば仮眠くらいは取れるかと思っていたが、話を聞かなければならないからと言って、教会の広間でただ待ちぼうけにされている。

周りはこんな真夜中でもあくせくと働いている。


これが魔女の日常なのか。


なんだか、これからの魔女生活が早速も心配になってきた。ちょっとだけ。


ちなみに向こうでは、教会の奥から出てきた[アネモネ]さんが、受付さん達とさっきからずっと話し合いを続けている。


受付「最近この辺りでも狼が出とりますよ、どうなってるんです」


アネモネ「ああ、最近はよく視えなくて。まあ良いじゃないですか、人員は送ったのですから」


二人は何やらよくわからない会話をしている。鬼が出たときの事だろうか。


受付「なんだお前、こんなとこまで入ってきよって、向こうで待っとれ!」


シンザン「こんなとこって、ここ最初に座ってた広間じゃないですか」

受付「いいから向こうで待っとれ!」


仕方がないので広間の端に腰を下ろした。

座り込む石床側から見上げた天井には、木製の(うち)天井と丈夫に削った支柱が覗いて見える。随分高い天井だ。


それにしても、やっと教会の魔女になってからまさか数刻で鬼と戦うことになるなんて。はたして運が良いのか悪いのか。


ふと、見覚えのある顔がこちらを覗いてきた。


?「やあ、さっきは災難だったね」


シン「あ、メガネさん......」

眼鏡の魔女「メガネさん?!」


さっき救援に来てくれた人達の中にいた魔女の一人だった。教会を出る前、顕微鏡と睨めっこしていたモジャ髪の細身の男性だ。


眼鏡の魔女「やだなぁボクキミにもそんな呼び方されてるのかい?」


シン「いえ、呼び方がわからないので」


眼鏡の魔女「あ、自己紹介してなかったね! ボクの名前は[レンズ]。よろしくネ!」


シン「よろしくお願いします、メガネさん」


メガネ「結局その呼び方のままなのかい......」


僕達は握手をすると、広間の端で立ち会った。


シン「さっきはありがとうございました」


メガネ「ああ! 良いんだよ。この地の鬼を祓うのもボク等の仕事だからネ!」


メガネ「それにあの[血魔術]の使い魔キミが翔ばしたんだって? 凄いじゃないか!」

シン「いやぁそれ程でも」


それ程でもある。

ちなみに向こうからは、受付さん達の話し合いの声が未だに聞こえてきている。


教会の魔女「しかし囲まれるまで敵に気づかないなんてなぁ、おまえ流石にアネさんの魔術へ頼りすぎじゃないか?」


受付「う、うるせぇあの時ゃ()()に忙しかったんだよ」


む、なんかウワサされてる気がする。


アネ「私はあれくらい()なせる様、皆に仕込んだ筈よ」


アネ「私が亡くなったら、次は貴方(がた)がここ一帯の面倒を見るのですよ? こんな程度で狼狽(うろた)えていてもらっては困ります」

受付「ウッ」


受付さんが落ち込んでいる。かわいそう。


アネ「では、私は瞑想に戻りますので、何かあればまた」


そう言い終えて[アネモネ]さんは教会の奥に戻った。


受付「ハァ、アネさんに怒られちまったよ」


シン「あの、受付さん大丈夫ですか?」


受付「大丈夫じゃねえよ、今すぐ裸になって川でも泳ぎてえ気分だ」


大丈夫そうだ。


受付「ま、こんなときはメシを食うに限る」


受付「無事帰って来れた事だしな、寝る前にネェちゃんに飯でも作ってもらうか」


シン「ネェちゃん? [アネモネ]さんがご飯を作るんですか?」


受付「バカヤロ! アネさんに食事作らせるなんて事してもらうわけ無いだろ!」


?「アラ、食事作らせるなんて事、だなんてヒドい言い草ね!」


壁を背にした気分を感じた。振り返ると、巨漢の人が居た。


食堂のネェちゃん「アナタが噂の新人ちゃんね!?!!!! 会いたかったわぁ♡♡♡♡♡♡」


シン「」


巨漢の人が、そこには居た。


受付「こいつが食堂のネェちゃんの[ライス]だ」


ライス「よろしくねぇ!? キャハ♡」


これまたトンデモない人が来た。


受付「ネェちゃんの作る食事は世界一美味いぞ」

ライス「そうわよぉ」


これまたトンデモない喋り方で、トンデモない巨漢だが、この人がこの教会の食事係らしい。見ると、割烹着の様なものを着ていた。


ライス「ワタシの食事はね、食べた人を世界一幸せにするのぉ」


幸せになるらしい。


ライス「アラ、信じてないわねぇ? ゴハンはねぇゴハンが美味しくなる魔法を掛けるとスッッゴク美味しく、なるのよぉ?」


そうらしい。

なんだか冗談で言ってるのか本気で言ってるのかよく判らないし、まずこの人自体が冗談みたいな人だったが、どうやら食事にはスッゴク自信があるらしい。


ライス「もうゴハンは出来てるわよぉ。オイ!!! 持ってキテ!!!!!!」


彼だかが奥に向かってそう言うと、奥から食事が運ばれてきた。確かに美味そうだ。


シン「いただきまぁす」

ウマい!!! これは祖母が作ってくれた料理以上かも知れない。非常にまろやかな味だった。受付さんが世界一美味いと言ったのも確かに納得できた。


確かにこれは何度でも食べたいし、[ライス]さんに作ってもらったご飯を食べていると、先程の戦闘で石に引っかけて失った爪がメリメリと伸び始めた。


メリメリと伸び始めた。たったいま僕が見つめている指の爪が。


どうやら、この料理はトマトだけでなくトカゲの尻尾やニガ草や芍薬など、普段絶対に料理に使わない様な材料を供物にして作られているらしい。


そして、この料理こそが[ライス]さんの[治癒(ちゆ)魔術]なのだと言う。


日夜とも大釜をこねくり回して、[ライス]さんは魔術の研究をしているらしい。[ライス]さんの使う料理の材料も、[ライス]さん自身も冗談の様なお(ひと)だったが、[ライス]さんの作る料理は本当に美味しくて愛の()もった味だった。おかげで右足の水虫も治った。


シン「[ライス]さんは食堂の番人なんですね」


ライス「アラ? 勘違いされてしまっては困るわね? こう可憐で華奢(きゃしゃ)に見えてもチャンと外でも闘えるのよ。スウウゥゥゥゥ、ドリャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」

シン「」


広間の石の床が、人が何人も入れそうなくらい(えぐ)れた。ただそんなチカラよりも、唐突に大声をあげて床を殴ったこの人自体の方が僕には非常に恐ろしかった。


ライス「ね、言ったでしょ♡」


受付「そんなわけで食堂のネェちゃんは割と戦えるぞ」


受付さんはまったく驚いていなかった。急に床を殴りだした事実にも。



教会の魔女になった初日は、そんな日だった。


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