1(上),新米魔女、教会へゆく。
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---辺境の教会付近にて
?「ここが、教会だよな...」
?「......?」
?「 あれ、受付に誰もいない...。すみませーん、......誰かいないのかな」
僕が白練の教会を訪れると、お堂正面の両脇に建て付けられた塔台らが、僕を見下ろしている様だった。
その教会内に入って最初に奥へ声をかけると、一人、男の人が奥の通路から出てきた。
ガタイの良いおじさんだった。
受付「なんだ、今は非番なんだが......、ん? お前見ない顔だな。教会に何か用か」
?「最近、この付近でも狼がよく出ると聞いたんだ、自分も教会に参加出来ないかな?」
受付「お前ここの教会に参加したいのか? 狼狩りをやりたいようだが」
どうやら、この筋肉質のおじさんがこの教会の受付番らしい。
彼はたたじっとこちらを見つめている。
受付「狼と言っても新参者にはかなり危険だぞ。それにお前、見たところ魔術を使えるようには見えないが...、誰から教会の紹介を受けた?」
?「えっと...、人からの紹介は無いんだけど、魔術なら少しは使える。教会に参加すれば狩りの募集を受けられると人づてに聞いたんだ、人手が欲しいと聞いた」
受付「確かに狼狩りには人手がたりてないがな...、いちおう名前を聞いておこうか」
?「[シンザン]です、宜しく」
受付「まだ加入が決まったわけじゃない、まあ期待しないで待っとけ」
そう言うと男の人は再び奥に戻って行った。
やはり、ここが教会の建物のようだ。教会に参加すれば、狩りの依頼の受注や魔術の研究ができるらしい。人づてに聞いた話によれば、教会に参加すれば狩りに報酬が付くとも聞いた。
堂内の受付場の前で暫く待っていたのだが、数刻が経っても人が戻ってくる気配はない。
シンザン「おぉい、まだ参加できるか判らないのかぁ?」
辺境の教会と言っても、流石教会だけあって建物のつくりは大きかった。
教会入り口も装飾などは質素であったが、内装を覗くと見てとれる強固な骨組みが、なんだか威圧的な雰囲気さえ感じさせる。受付場から繋がる石床の廊下も、教会入り口からは先が見えないほどに長く入り組んでいた。
僕が廊下の先へ声をかけてから少しして、奥から先程の受付さんが一人の女性を連れて僕の前に現れた。
印象に残る暗い朱色の長髪と長身と、瞳だった。
彼女もこの教会の人なのだろうか。
?「 ああ、彼がさっき言っていた子ですか? ......。」
受付「ええ、ただ魔術が使えるとは言っていますが、どう見ても狩りに参加したことがある様には見えませんよ」
?「まあ良いんじゃないですか?」
何やら二人が話し合っている。自分が狩りに参加できるか不安になってきた。
シン「あの、僕は狩りに参加できないんですか?」
...なんだか不安になって少しかしこまってしまった。
受付「君はたぶん狼狩りはこれが初めてだろう。わざわざここまで来てくれた訳だしこんな事を言いたくないが、やはりまだ参加するには拙すぎる」
?「良いじゃない、この教会に男手は多い方がいい。それに彼は狩りを熱望していますよ、そうですね?」
受付「アネさん...」
どうやら彼女はこの教会のお偉い方のようだ。受付さんは反対しているが、この人はどうやら自分を好意的に見てくれているようだ。
アネ「ここに来たからには、貴方も魔女を名乗っているのですね?」
シン「そうなんだ、魔術には少し自信がある」
アネ「...フフ」
教会には魔女がいる。
魔女は狩りには不可欠な存在だ。魔術を扱える魔女がいなければ、狩りには大変な労力が要るだろう。
そんな魔女達が集まり立ち上げた組織を、"教会"と言う。
教会は魔女達を集めて魔術を後続へ教え、狩りを行う。教会と呼ぶ訳はそこから来ているようだった。
近年は狼被害の件数なども増えてから、教会の手による狩りの需要も増している、らしい。自分もそんな教会に参加したい者の一人だ。
アネ「どんな者でも狩りに参加しなければ立派な魔女とは呼べない、狩りに参加してこそ人間は初めて魔女を名乗れるものです。」
アネ「狼狩りが出来るのならいずれは鬼狩りにも参加してもらいますよ、鬼狩りには見返りも多い...」
どうやら教会への一時的な参加を認めてもらえたようだった。良かった、これで僕も本当に魔女を名乗れるようになるんだとか、そんな事ばかりを考えていた。
すぐ後に激闘を繰り広げる事になるなんてこの時は考えすらもなかった。
アネ「名前を伝えておきます、私は[アネモネ]。」
受付「おれは、[ガイド]だ」
シン「[シンザン]です、よろしくお願いします!!」
ほっと胸を撫で下ろして背にした夜宙を見上げると、見下ろす月は艶やかに輝いて、雲が静かにその下を通り過ぎてゆくのが見える。
教会の魔女となった、初の日の事だ。
思えば良くここまで来たものだ。