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阿吽高校教師たちの挑戦状  作者: ミント


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9/9

外園先生の挑戦状<解答>

 零れ落ちた自分の正直な感想に、はたと英単語帳をめくる手が止まる。


 まただ、この何とも言えないモヤモヤした気分。胸の中の小さなささくれ、スルーしがたい引っ掛かりのようなもの。茂理先生の暗号を解くヒントを魚日くんが口にした時、そしてそれを縁熊が「すごーい!」と素直に賞賛した時。俺は確かに、このモヤモヤを感じ取った。


 そういえば俺が縁熊に「さんしー」と呼ばれ話しかけられた時も、他の男子からは射殺すような視線を向けられたものだ。彼らはこんな気分だったのだろうか……と思えば今の俺のこの気持ちはいわゆる「ヤキモチ」と呼ばれるものなのだろうか……


 ぐるぐる考えるが、暗号と同じでなかなか答えが出ない。そうこうしている間にも皆が英単語長をめくり、そのうちの一人が「あっ!」と声を上げる。


「『群れ』を意味するイディオムで書いてある! 動物によって言い回しが違うって、ほら!」


 言い出したのは縁熊と仲がいい女子だった。同じページを見たのだろう、女子たちは次々と集まりどんどん推理を進めていく。


「『鳥の群れ』は『flock』、『ライオンの群れ』は『pride』! それで、魚の群れは……」


「『school of fish』!」


「つまり最初のカッコは『school』 ……ってコト!?」


 小さくも可愛らしい声で呟く縁熊の周りで、女子たちは騒ぎ始める。……俺たち男子は蚊帳の外状態だ。


 とはいえ、最初の[ ]がわかったのは大きな進歩だろう。問題は後半、二つ目の[ ]だ。いずれも「〃」がついているが、その代わりにヒントとなる単語は先ほどより少なく[ ]の前にある単語のみ。


 先ほどの「of」のように[ ]の前が統一されているわけではない。その代わり、三つとも同じ単語が入る。


 for dear [ ]、come to [ ]、live a [ ]。……おそらく、そう難しい単語ではない。今までの暗号の傾向を見るに、「教科書や参考書に掲載されているレベル」の知識で解ける暗号のはずだ。きっと縁熊とその友人がやっているように、単語帳を読み込んでいればきっと答えは見つかるだろう。




 だけど――気づけば俺も、必死に単語帳を調べていた。




 俺だけじゃない、魚日くんも他の男子もさりげなく英単語をチェックしている。何でもない風を装いながら、暗号を解くのに協力しようとしている。


「さんしーは何か、思いつかない?」


 唐突に話しかけられて、俺は「へ?」と間抜けな声を返す。次の瞬間、こちらを覗き込む可愛らしい縁熊の顔が目に飛び込んできた。どきり、と心臓が跳ね上がりそうになると同時に他の男子の視線を感じる……


 ……あぁ、俺も他の男子と一緒だ。


 縁熊の役に立ちたい。どうせなら彼女の関心がほしい、「すごい」と言われたい……深い事情も理由もない、ものすごく単純な下心。それを他の男に邪魔されたくない、というだけの話。特に幼馴染である俺は、無意識のうちに縁熊のことが気になっていたというだけだ。


 だから魚日くんが縁熊の関心を惹いた時はモヤっとしたし、正直いい気分はしなかった……そのことに今更気づいた俺は、それでも咄嗟に考えを巡らせる。


 今までのことを思い返すうちに、俺は数谷先生と茂理先生の暗号のことも思い出す。二人の暗号は、『ようこそ阿吽高校へ』と『楽しめ』。いずれも俺たち生徒へのメッセージを込めたものだった。だったら今回の、外園先生も同じことをやっている可能性がある。


「……『life』じゃないか?」


 ぽつりと漏らした俺の言葉に、縁熊が「life?」と首を傾げる。


「そうすれば、前の『school』と合わせて『school life』になるから単語として成立するだろ。何か、『life』のページを探してみれば出てくるんじゃないのか?」


 軽い気持ちで、だけど俺なりに考えた推論を口にすれば縁熊と仲のいい女子がぱっと英単語長をめくる。


「本当だ! 『for dear life』で『全力で』、『come to life』で『実現する』、『live a life』で『生活を送る』になるって書いてある!」


 嬉しそうにはしゃぐ女子にあてられ、縁熊もぱっと花が咲いたように笑いだす。


「やるじゃん、さんしー!」

無邪気で真っすぐなその一言に、思わず顔が赤くなる。


 他の男子の視線なんてどうでも良かった。ただ縁熊の喜ぶ顔が眩しくて……照れて、下を向くしかできない俺になおも縁熊は笑いかけてくる。




 あぁ、俺は意外とこの幼馴染のことが好きらしい。




 今更ながら、しかし認めざるを得ないその事実を俺は静かに受け止める。


 残りの暗号がどうなるかわからない。だが、縁熊がこの暗号解読に情熱を燃やしているなら俺はそれに協力した方がいいのだろう。幼馴染というリーチがあるとはいえ、縁熊を狙う男子は多いようだ。魚日くんや、他の男子に負けていられない。頑張っていいところを見せなければ。


「早速、外園先生に報告してくる!」と宣言する縁熊の心は、ひょっとしたらどんな暗号よりも手強いかもしれない。




 だが――絶対に解読して「幼馴染」という関係から脱却してやる、と俺は密かに決意するのだった。


長いこと放置していてすいません。

お読みくださりありがとうございました。

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