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茂理先生の挑戦状<解答>

 縁熊は期待に満ちた目で魚日くんを見つめるが、彼は「えっと……」とまごついた。容赦なく注がれる縁熊の視線は、期待で満ちている。……見ているこちらが居たたまれない光景だ。引っ込みがつかず、しかし「わからない」と素直に答えられない魚日くんを救うべく俺含むクラスメートたちは改めて茂理先生の暗号に目を向ける。


『深海酔った

 液化冷やすの

 ポテチの隠し

 大気に多め』


 謎ポエムは俳句や都都逸ではないが、音読すると全部七文字。縦読みをさせるために文字数を揃えたこと、そのものはおかしくない。しかし、そのどこに「最後の文字を読ませる」というヒントがあるのだろうか? 最後……七文字目……考えていると、魚日くんが「そういえば」といきなり俺の名前を呼ぶ。


「数谷先生の時は、三四がヒント見つけたじゃん。その、お前はどう思う?」


「そうだ! さんしー、さんしーはどう思う?」


 話の矛先を向けられ、今度は縁熊の真っ直ぐな目が俺を捉えてくる。


 魚日くん、話に割り込んできたくせに困ったら俺にパスを回したな……考えつつ、俺も必死に取り繕うべく縁熊から視線を逸らす。


「あー……数谷先生の時は一応、数学っていうか算数に関わる暗号だったし……今度の茂理先生も、なんか理科系のことと関連があるんじゃない、かなー……」


 断定はせず、曖昧な解答。だが縁熊はそれで納得しないらしく、「そんなこと言ったって」と食い下がってくる。


「その、『理科系』が何のことかわからないとどうしようも……液化とか、大気とかそれらしい文言はあるけど……」


 言いながら縁熊は、改めて茂理先生の暗号を見直す。




 ――そこで縁熊は、はたと動きを止めた。




 縁熊はそこそこ成績が良く、教科書の隅に書いてあるようなレアな知識もしれっと覚えているタイプだ。それを裏付けるように、縁熊は唐突に自分の机へ向かい自分の教科書を取り出し「わかったー!」と言い放つ。


「答えは『窒素』! 窒素の原子番号は七番、だからこの文章の七番目の文字を読め、ってことなんだ!」


 教室に走る、一瞬の静寂。その後、すぐ「なんで?」「どうして?」とざわざわし始めるクラスメートたちに縁熊は得意げに解説する。


「この文章はどれも窒素の性質を表してるんだ。窒素は空気中の大半を占める気体で、ポテチみたいなスナック菓子の中には品質を守るためにパンパンに入ってる。そんな身近な気体だけど、ダイバーとかが深く海に潜りすぎると窒素酔いになることがある!」


「じゃあ、『液化冷やすの』は……?」


 縁熊と仲の良い女子の一人が、そう突っ込めば縁熊は「それは液化窒素のこと!」とはっきり言い放つ。


「液化窒素は某SF映画にも出てくる重要アイテムで、えっと、その……とにかくものすごく冷たくなる! だから『冷やすの』なんだ!」


 どうやら「液化窒素」というものの存在は知っていても、その詳細までは知らないようだ。

 だが――液化窒素がとんでもなくものを冷やすことができるのは、紛れもない事実。縁熊の推理はおそらく、正しいのだろう……だが鼻高々の縁熊に、鼻の下を伸ばしながら賞賛の言葉を送る魚日くんを見るとなんだか胸の中がモヤモヤする。




 結局、俺は素直に賛辞を述べることができず一人だけむすっとすることしかできないのだった。


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