茂理先生の挑戦状<推理>
ベルマーク切り取り作業をぶつくさ文句を言いながら――一部の手先が器用な女子は、好きなキャラのコラボパッケージがあったのか喜んだが――終了させると、数谷先生から次の暗号への挑戦権があることを告げられた。
「次は理科担当の茂理先生の暗号……というわけで、早速受け取ってきた暗号がこちら!」
言いながら縁熊がばんっ、と黒板に一枚のプリントを貼り付ける。
『深海酔った
液化冷やすの
ポテチの隠し
大気に多め』
「……何これ、ポエム?」
「それにしたってよくわからないだろ……」
「なんでいきなりポテチ出てくるんだ……?」
ざわざわしだすクラスメートをよそに、縁熊は「むむむ」と名探偵みたいな仕草をしながら黒板の暗号を前にブツブツ言い始める。
「なんか、縦読みとかじゃないかな……でもこれ、何番目を選べばいいのか……それとも、何か法則性がある……?」
そう零し続ける縁熊の横に男子生徒の一人がさりげなく割り込み、彼女の美貌をチラチラと横目でにしながら問題の暗号を音読してみる。縁熊の真似だろうか? そう考えながら、彼の動向を窺っていたらハッと何かを閃いたような顔をする。頭に光の筋が差したような、ピカーンッ! という効果音が付いたような明るい表情で彼は「縁熊さん!」と声を上げた。
「これ、音読すると全部七文字になってるんだ! つまり全部ひらがなにしてから七×四のマスに当てはめたら、何かわかるかもしれない!」
「えっ、ホント!?」
言いながら、彼――魚日くんは、ひらがなに再翻訳したそれをチョークで黒板に書き始める。
『しんかいよった』
『えきかひやすの』
『ぽてちのかくし』
『たいきにおおめ』
「……あっ! 一番左、縦読みで『楽しめ』になる! これ暗号の答えじゃない!?」
魚日くんすごい!
明るい声で、眩しい笑顔を浮かべながら魚日くんを褒め称える縁熊。その賛辞を素直に受け取り、頬を染めている魚日くんは満更でもないような顔をしている……
……何だろう、ちょっとムッとするものがある。
嫉妬か? この暗号ゲームにそこまでのめり込んだつもりはないが、数谷先生の暗号を解いたのは俺だ。自分自身でも知らぬ間に、「次の暗号も解いてやる!」と意気込んでいたのか……と考えていたら縁熊が「でも」と切り出す。
「――プリントの隅に、書いてある。『答えがわかっても、なぜその文字列になるのかまで答えられなければ正解扱いしないとする』……だって。これって「、『なんで一番最後の文字を縦読みするかまで推理しなきゃならない』ってこと?」