数谷先生の挑戦状
「ほい、これが俺からの暗号」
学校教師としてはやや高齢の、数谷先生は面倒くさそうに俺と縁熊へ「暗号」が書かれたプリントを渡す。俺と縁熊は互いに、その内容を確認する。
『40、3、10、15、1、3、50、10、3、10、3、29』
「……えっと、その、これが暗号ですか?」
「そう、はっきり言っておくとこれは挨拶代わりの暗号だ。解き方がわかれば小学一年生でも読めるレベルだぞ」
あっけらかんと話す数谷先生に、俺は食って掛かる。
「いや、こんな数字だけの暗号いきなり出されてもわかるわけないですよ!」
「これでも他の先生たちには『簡単すぎる』ってブーイング受けたんだぞ。だから、小学『一年生』でも読める」
面倒くさそうにそういうと数谷先生は「正解わかったら早く教えろよ」と言い放った。
「教員同士で話し合ったが、今年は俺がトップバッターだからな。俺の暗号が解けなかったら、他の先生たちの暗号に挑戦することはできないから。だから、まぁ、頑張れ」
しっしっ、と犬でも追い払うように手で俺たちを押しのける数谷先生。そんな彼に、今度は見た目だけは可愛い縁熊がやや上目づかいで話しかけてくる。
「そういわれましても……特に数列やn進法みたいなパターンも見られないし、これだけじゃお手上げです。もうちょっと……もうちょっとだけ何か、ヒントをくれませんか……?」
涙目でうるうる、話しかける縁熊に数谷先生はちょっと戸惑ったような様子を見せる。
縁熊は才色兼備、普段の学校成績はいいので大概の教師には気に入られている。もっとも、本人は「これは秘儀・『美少女の涙よ!』と豪語していたが……そんな縁熊にちょっと心を動かされそうになったのか、数谷はこんなことを言い出す。
「そうは言われても、な……これはパターンさえわかれば小学一年生でもわかるし、しいて言えば『1』が最小で『50』が最大、ってことかな。……まぁ、これ以上は言わない。他の教員たちにはだいたい、『これじゃ簡単すぎますよ』とまで言われたぐらいの暗号なんだし……クラスで団結して、あれこれ考えてみれば誰か気づくことができるだろ」
それだけ言うと数谷先生は回転椅子をくるりと回し、完全に「俺は仕事に戻ったから話しかけないでくれ」というオーラをびんびんに放ってくる。
それ以上、俺も縁熊も何も言えず……結局俺は、何の法則性があるかもわからない数字を「暗号」としてクラスに持ち帰ることとなったのだった。