第8話 次の段階へ
ちょっと趣味の悪いBGMのおかげで無駄に捗った書類の処理を終え、特にやる事のなくなった俺は地球へと来ていた。
今回はちゃんとルージュに一言伝えているし、仕事も終わっているので怒られる事はないので安心して楽しめる。
という事で、今日は世界の観光地を適当に転移で回っているのだけれど…古い遺跡とか城なんか見てもあんま楽しくなかったわ。なにせ向こうの世界で長年生きてきて、その間に飽きたりしながら世界各国の城を再現した建物で生活していた時期があったからな。
昔の自分の家を見ているようで、ある意味新鮮だったけど観光としては微妙だった。
そして現在俺が何処に居るのかと言うと東京の一番高そうなビルの屋上で街を見下ろしていた。
「……昔に見た構図を試してみたけど、これ自分じゃかっこいいのか見れないから楽しくないな」
正直に言って暇だった。
仕事は向こうの世界に居る間に長年繰り返していた事で、その間にたいていのトラブルも経験してしまって対処法が確立できてしまった。予測不能な事はあっても対処ができる。
しかも俺が不在でも問題がないほど完璧にだ。
地球侵略には新たな刺激を求めてと言う側面もあったから、次までの待ち時間が退屈で仕方がない。
「はぁ……どっかに隕石でも落とすか…いや、ダメだな。うん、短絡的な事はダメ」
暇すぎてアホなことまで考えだしてしまってるな。
自分の事ながら物騒な事を簡単に考えるようになってしまっている。
そのことは地球に戻ってからより強く自覚するようになってきていた。
いつでも思い出せるほど向こうの世界は暴力が支配していた。今では別の秩序を築くことに成功しているけど、だからと言って暴力を完全に解消したわけではない。
種族によってはいまだ代表を決める方法に決闘を採用している。
やめさせようかとも考えたが、古来からの方法を急に変えても反発が強すぎるという事で諦めたのだ。ただ使える人材が減っても困るので死人が出ないよう、回復魔法や蘇生魔法の使用者を決闘開催時には派遣するようにしているけどな。
「あぁ~いつの時代も人間はのんきだねぇ~ちょっとは誘導してるけど、強制的に落ち着くような強力な誘導はしてないんだけどな」
なんて言いながら少し体を乗り出して下を覗けば人々は日常を送っている。
少し調べれば自分達の国を支える者達が行った不正を知ることができるようになって、世界中の言語が統一されてしまってもたった一月でここまで落ち着くものかね。
戦争とかは困るから抑制はしているけど、別に強制力はないというのに落ち着くまでが早いわ。
「まぁ、国によっては暴動になってるみたいだけど…結局は自業自得だし知ったこっちゃないな!」
報告の中に大規模な暴動・デモ活動なんてのもあれば、酷いところだと内乱にまで発展し掛けている所もあった。だから、やっぱり誘導だけが原因ではないんだろうな。
不正が大したものではなかったとか、すでに首になっていたり世間は動き続けている。それでも日常を生きる人々にとっては自分の日常が大きく変わるまでは動かないという事だろう。
「やっぱり国単位じゃなくて、会社とか学校とかの秘密も暴露しても面白かったかな。幾つか巻き込まれてるけど」
なんとなくネットを開けば『○○社の社長が○○議員に裏金を渡したことを認め、辞職を発表!』など不正に加担していた多くの会社が巻き込まれるようにして株価を暴落、社長は交代させられていた。
ただ不正をしていても替えの効かないほどのカリスマと手腕を持っている者は何とか生き残っていた。
「バカと天才は紙一重ってのは良い言葉だよな。世間的に見ればバカな行い、でも時と場合においては必要な愚行も存在するってな。まぁ…結局は愚かなの行いってことには変わりないから、発覚した場合の対処が自力で出来る習って言う話何だけだね~」
こんなことを言っているが個人的にはバレて不味い事は最初からしなければいいと思っている。単純にリスクとリターンのつり合いが取れていないし、今後一生隠し事を抱えて生きないといけないとか怠いだろ?って思っているからね。
なんて、ぼーっと考えていたら屋上のドアが開こうとしているのに気が付いた。
「移動するか」
誰かが入ってくる前に転移して移動する。
向かうのは別の無人の高層マンションの屋上だ。
なんで高いところばかりなの?とか聞かれると困るけど、単純に高いところから見下ろす景色ってなんかきれいだし好きなんだよ。
そして今回は誰か来てもいいように自分自身に隠蔽魔法で周囲から認識できないようにする。ちなみに隠蔽魔法は防犯カメラやサーモグラフィなんかにも映らなくなるように調整したものだ。
向こうの世界でも防犯カメラなどは作ったのだが、代わりに秘密裏に不正などを調査するのが難しくなってしまうのでは?と言う話が出て、そのために地球出身者を中心に改良したのが軍事機密魔法に指定した隠蔽魔法だ。
つまりは魔法技術を持たない地球人にはどうしようもないってことだな。
「はぁ~ココア美味しい…」
さすがに冬ではないけど夜中の高層ビルの上は肌寒いので温かいココアを自販機で買ってきた。自販機とか便利な物が自分で用意しなくてもある世界って本当に最高だ。
「次はだれの案をやるべきかな…ちょっと、ここまで空気が変わらないとなると…もうちょっと刺激強めの方がいいかな?」
最初はただの気分転換のつもりだったけど直に今の地球を見ると考えさせられる。
「いくら一般人とは言え、危機感が足りない」
周囲を見て魔力などで探査しても混乱はほとんどない、人々の口から洩れるのは用意した暴露サイトを見ながら政治家などへの呆れ・怒り・笑いなど完全に話の種程度にしか思っていないありさまだ。
言語が勉強していなくても理解できて、喋れば相手に通じる。
原理も目的不明の情報発信サイトが開設されて国の上層部が混乱している。
そんな原因も何もかもが不明の現状で後押しはしているとはいえ、この現状はダメだ。日本だけではない、元々先進国と言われてきた国々では特に一般人の適応と混乱の収まりが早かった。
他の紛争地帯とかは貧困層とかはそれどころじゃないって感じだしな。
「ただ観光に来ただけ…で、済ます予定だったんだけどね~」
この現状を見ると気が変わってくるというものだろう。
数十年数百年と争いや混乱を乗り越え発展してきた人類ではあるけど、だからと言って道に対して好奇心どころか恐怖すら感じない。
さすがに呆れてしまう。
「だから、さらなる変化を…そして恐怖を」
明確な脅威が無ければ実感できないというのなら直面しないといけない状況にまで追い込もう。
今のままでは征服する理由が本当になくなってしまう。
だから、征服するだけの『価値』を生みだす!そうすれば異世界侵略に反対していた連中も納得するだろうし、俺達にとって本当の利益と成る。
「ルージュ、聞こえているか?」
『はい、聞こえているわ』
「計画を変更、第2フェーズから第4フェーズまでを早める」
決意を持って俺は通信で目的を伝える。今回の件だけではなく作戦を始めて3日目暗いから考えていた事だ。……正直、待っているのに飽きたっていうのも2~3割ほどは入っているけどな。
そんなことバレたら説教食らうのが眼に見えてるから、あくまでも真剣に自分の意識も7割の方に向けて話す。これが誤魔化す秘訣だ。
『っ…了解したわ。けど、かなりの被害が出るわよ。いいのね?』
いい感じに誤魔化されているルージュから念押しの確認が入る。
まぁ…言いたいことはわかる。確かに次のフェーズに移れば間違いなく大規模な被害が出ると予測された。
しかも死者すら出るだろうという事は事前に知っていた。
だからこそ全員の友人知人が生きている現状ではやらないで済まそうと思っていた。でも、なら対処は簡単だ。
「問題ない。俺達の知人友人、家族や恋人へ数日中に接触して保護しろ。事情の説明は後でまとめて、後に個別で親しい者と合わせて混乱を最小限に抑えるように動け。万が一も考えて集めた場所に精神安定魔方陣を用意しておけ」
侵略を進めれば確実に被害が出ると言われてから考えていた対処法を話す。
かなり強引な手ではあるが、確実に安全を確保するにはこれしかないって結論になった。
そんな俺の説明を聞いてルージュは少し考えていた。
『……わかった。覚悟は決まっているみたいだし、直ちに準備にはいるわ』
「よろしく」
短く答えて通信を終えた。
これでもう引き返せなくなったことを自覚すると少し憂鬱な気分になってくるけど、一度決めたんだからすでに覚悟を決めている。
「はぁ~これで変わると良いけどねぇ」
停滞せずに変化に適応して新たな世界を築くことができると少しの期待を抱きながら、もうちょっとだけ地球観光してから月面都市へと帰る事にした。




