第6話 侵略開始!
そして俺が逃げ出して東京観光してから一週間が経過した。
バカみたいに山積みになっていた書類は半分以上を処理して、今は普段やっている量程度まで減らせた。
本当に地獄のような一週間だったが終われば、後は実行するのみだ。
「という事で、侵略の準備は全て終わった」
今居るのは以前の侵略アイデアを募った大会議室。
そこには集合できるだけの幹部連中を集め開始の挨拶をしていた。
「最終確認だが言語統一の準備は完了しているよな?」
「はい、技術科と魔法兵団の協力もあって準備は問題なく完了しています」
「では各国の嘘と本当の情報を比例して掲載するサイトの準備は?」
「そちらも問題なく完了しています。ハッキングにも備えて電子・魔術を使用して現代の科学力では破ることのできない防衛体制も準備しております」
「よし!ついでに攻性防御もできるようにしておけ。具体的に言うと相手がいままにやってきた違法なハッキング、その詳細を本名掲載でネットに流せるように準備も忘れるな」
「了解しました」
こんな感じで最終確認を行って不測の事態が起きないように補足を加える程度だけどな。
そうして幾つか指摘したりすれば、もう気にすることは何もない。
「では、地球侵略を開始しよう!」
叫ぶように俺が宣言すると一斉に動き出した。
最初に動くのは言語化の統一を提案したティルンが装置の起動コードを送る。すると会議室から見える一つの塔から地球に向けて魔力が放たれる。
この放たれている魔力は無害化してあるので問題ないが、何の処理もしていない魔力を地球上に向けて放ったら魔境溶かす事態になるのでやらない。
そして放たれた魔力が地球の大気圏に触れると星全体を包み込むように広がり、魔方陣を描いて発動すると地球に溶けるように消える。
これが発動したことの証拠で地球全体の言語は統一された。とは言っても別に存在していた言語が消えるとかではなく、見聞きした言葉を本人が一番理解しやすい言語に最適化する魔法だ。
だが侵略はこれだけではない。
無事に魔法が発動したのを確認すると技術スタッフ達が準備していたサイトを公開する。
内容は事前に決めてあった通り各国の嘘と本当の情報をわかりやすく解説している。誰が見るかは運しだいだが言語統一の魔法と一緒に意識の誘導も少しだけしてある。
無意識にこちらの用意した情報発信用のサイトに興味が向くようになるのだ。
もちろんこれだけだとまだ不安だから桜も用意はしてあるけどな。
他にもこまごまとした事も準備しているけど、今日はこの二つの実行が主目的だから終了だ。
「残りも準備や工作は早めに終わらせておくようにな。必要な物があれば、俺かルージュにしっかり申請するのを忘れないように注意しろよ?忘れて工作部隊の奴等みたいに仕置きされても俺はかばわないからな」
『『『『『『『『はい‼』』』』』』』』
「うん、素直でよろしい」
注意のついでに軽くくぎを刺すだけのつもりが想像以上に効果があったみたいだ。なにせリモートで参加していた者すら冷や汗を浮かべながら何度もうなずいているからな。
ちなみに目の前の者達の反応にルージュに絶妙に不機嫌になっているのを背中に感じるけど、普段の行いの結果なので無視する。
「では、今日から基本的に休みはないけど気合入れて頑張ってくれ!すでに俺は一週間は徹夜が決定してるから文句がある奴は…代わるか?」
何やら不満そうだった奴らにそう言うと全員が首を振って自分の仕事に向かっていった。どんだけ嫌なんだよ…ルージュに仕置きされると言われた時と同じような逃げ足だぞ?
「よほど嫌なようですね。まぁ、私も宰相と言う立場でもなければこの量の仕事はやりたくないですからね」
「気持ちはよくわかる。俺だって魔王になんてなったから、本当に仕方なくやっているだけだからな」
「「はぁ……」」
俺とルージュはそろって溜息を洩らした。
なにせ動き回っている奴等とは違って俺とルージュは、この後は執務室に籠って書類の山との格闘が待っている。
侵略作戦を開始した以上は経過報告の確認、実行予定の他の作戦の準備の許可を出したりと…新たにやる事が多くなっていた。
それに加えて向こうの世界の税収や考案中の法律の整備、重罪犯の扱いやら…正直もう一つ世界を征服するって考えを絶賛後悔中だよ。
「あとで混乱している地球でも見て気分を紛らわせましょう」
「…そんなこと言うから性格が悪いって言われるんだぞ?」
「別に気にしませんよ。なにより、性格が悪いは私には誉め言葉ですから」
「あぁ~そう…」
普段やられているから軽くやり返せるかとは思って見たが、むしろ楽しそうに笑みを浮かべられては徒労もいいところ。と言うか、後で仕事を多めに渡されそうで怖いから早めに引くに限る。
そうして侵略を開始した俺達だったが…想定外はいつだって起きるという事を忘れていたのだ。
簡単に言えば故郷である地球人類の適応能力を甘く見ていた。
言語統一と暴露サイトの公開を始めて一週間ほどは騒がれたのだが、世間は混乱とまではいかずよくあるお騒がせニュース程度の話になっていた。
ただ言語統一だけは大きく騒ぎになっていたが、わからない言語がなくなってよかったというのが一般人の感想だった。
しかし言語学の専門家や各国上層部は現象の理由解明に奔走していた。
なによりも公開されている暴露サイトをどうにかしようと必死だったが、ハッキングは全て防ぐことには成功している。
ただハッキングがあまりにもしつこかったようで、担当していた者達がストレスの発散もかねてやりすぎていることが判明してしまったのだ。
いや、気持ちは理解できるんだが当初の予定通り違法なハッキングの履歴の詳細を公開までは良いんだけど、何故か予定にない指示を出した上役のプライベート秘密まで流出させてしまっていた。
横領や不倫などが少し可愛く思えるような内容も公開してしていた。
さすがにやりすぎだと注意もしたがストレスが限界に近くて、感情的になっている奴らに道徳よりも休みの方が重要だった。
という事で急遽、向こうの世界から追加の人員を送ってもらって無理のないローテーションを組んだ。おかげで今はやりすぎる事もなく過労寸前の者も出さずに済んでいる。
このやりすぎが原因で地球の権力者たちから恨みを買って執拗にサイバー攻撃が続いているが、魔法すら使えない者達が魔法と電子の両方で防衛しているシステムをどうこうするのは不可能だろう。
最初の開発の段階では俺も手を貸していたんだけど、正直に言って今のレベルになると俺でも魔法部分だけならいけるけど電子部分は無理だ。
他にも元々プログラミングとかに詳しかった転生者に見せると『電子的なところだけならスパコン使えばいけなくはないと思います。でも、既存のハッキング方法では魔法的な防衛システムに作用することができないので不可能。破るには両方のスキルが必要になりますね!』っと楽しそうに笑顔で言われた。
そんな彼は今ではシステム開発局の局長を務め電子的な防御も超常的高みになっていたりする。
つまりは地球の既存の技術では俺達の場所の特定はもちろん、サイトの運営停止すら不可能になっている。
そうするために日本の金で計算すると約40兆円ほどの資材を使って地球のネットに接続できる機械を用意している…本当に無駄にならずに済んでよかった。
だが本当に想定外だったのは民間人の動きだった。
基本的にはどの国でも娯楽程度に考えて大きく騒ぐ者は少ない傾向なのは変わらないのはいい。そうなるように出す情報は過激にならないように小さな不正を中心に、過激な物は特定の記事を最後まで読み評価を付けた者のみが閲覧できるようになっている。
ゆえに発見は遅れて大きな騒ぎになるのは時間が掛かる…はずだった。
噂として広げたりはしないように思考誘導も仕掛けていたのに人の好奇心は俺たちの想像を超えていたのだ。
想定以上の人数が過激な国家の秘密に関する情報に触れてまい、中に報道関係者がいたのが致命的だった。掲載場所を広めないようにはしていても、さすがに見た内容を伝えてないようにする暗示は仕掛けていなかった。
その結果が全世界的なデモ行動が起こった。
まだ先進国は大規模デモと言う程度でなんとか収まっていたが、それ以外の国では暴動と言ってもいい有様になっていた。
国も鎮圧に本気で軍を動かし状況はより複雑になって収集が付くかすらわからないありさまだった。
「…なんでこうなった?」
「さぁ~?私達が思っていたよりも内容が酷かったとかでしょうか…」
「あぁ……やっぱり感覚ズレてたか~」
地球の状況を確認しながらルージュと話していて、自分が失念していた事を思い出す。
いくら見た目が変わっていなくても俺達は殺伐とした世界で数百年以上は生きている。対して地球は約20年ほど…つまりは精神性や価値観と言ったものが根本的に違っているのだ。
わかってはいたが、やはり自覚してはいても意識して行動には反映されてなかった…と言った感じだな。
「はぁ…しかたない。今回の騒動が収まるまで待ってたらきりがないし8~10の国が落ち着いてきたら、次の作戦開始ってことにしよう。ついでに今のうちに見落としが無いか細かく確認するように指示を出しておくか」
「わかりました。では準備中の作戦の関係各所へ伝えておきます」
「よろしく~俺も後処理用の準備しとくか…メンドイけど…」
また地球に遊びに行けるのはいつになるんだろうな?と、考えながら目の前の書類を淡々と処理することに集中するのだった。
余談として言っておくと過激な内容の掲載個所は、内容を再度精査してから少しずつ掲載する方式に変えたところ、段階的に公開したためか衝撃も少なかったようで暴動のようなデモは格段に減る結果をだした。
最初からこうしておけばよかった――――‼




