第3話 侵略会議!《後編》
「それで再度注意しておくが、武力を用いたり一方的な虐殺や人類を全滅させかねない作戦は禁止だ。そんな誰でも思いつく方法を使用しても楽しくないし、何より地球では俺達の体感より時間が経っていないようだからな。家族や友人がまだ死んでいない奴も多いだろうし迂闊な事はしないように」
また空気を読まずにエルリスのように物騒な対応をされると困るので、念のために改めてクギを刺す意味で全体に注意した。それを聞いた大半の奴等は見当がついていたようだがエルリスや似たような事を考えていた奴等は知り合いが居る可能性を考えていなかったようで、全員そろって気まずそうに視線を逸らしていた。
それでも彼らが考えられなかったのも無理はない。向こうの世界は生き残る事すら難しく、余計な事を気にしていて生きられるような場所ではなかった。
そして何よりも俺達は向こうの世界で何百年と言う時間を生きている。時間が地球と同じでないと分かっていても、地球の知り合いはもはや死んだものと考えて過ごして来た者がほとんどだろうからな。
「それでは今ノワール様の言ったように武力や虐殺に繋がる作戦以外で、なにか案のある方は挙手をお願います」
話がひと段落したのを見計らってルージュが会議を再開してくれた。本当にこう言う事に関しては彼女は超有能だ。
そんな事を思いながら俺も誰が手を挙げているのか確認すると5人ほどが手を挙げていた。もちろん今手を挙げているのは俺の忠告で目を逸らさなかった者達だ。
進行はルージュがやっているが基本的な決定権は俺にあるので、挙手している奴らの中から選ばないといけないのだが
「それじゃ第二戦闘隊:隊長【ティルン】から時計回りに発表してみようか」
「はっ!」
俺が指名すると俺から見て右奥の方に座っていた魔王軍の制服である黒と赤の武骨な軍服を身に纏った細身の男が立ち上がった。顔は髭は生えていないが口元から八重歯が見えて目は赤い、ようするに目の前の男の種族は吸血鬼なのだ。
ついでに言えば戦闘隊は全部で20隊ほどあって本格的な外への侵攻は1~5の戦闘隊が担当している。
「では僭越ながら私から意見を出させていただきます」
「あぁ…うん、よろしく」
この無駄に畏まった態度ばかりでティルンは少し話し難い。まず言い回しが難しすぎて俺みたいにそこそこの頭しか持たない奴には何を言いたいのか伝わらない時がある。
おかげで俺以外の奴から苦手意識を持たれているようで、現にこの会議室の半数は微妙そうな表情をしていた。
正直、魔王軍を名乗るだけあって俺達は自由人が多いので畏まった真面目な言葉遣いや態度は苦手にしている奴らが多いのだ。
なんてことを俺が考えている間にも姿勢を正したティルンは自分の考えた作戦を説明する。
「まず地球上は未だに戦争状態との事でした。なので地球上に存在する言語を統一してしまうのはどうでしょう?」
「言語の統一?」
「はい、一見意味はないように思われるでしょう。しかし言葉が通じなければ意思疎通にも手間がかかり、翻訳されるうちに誤解が生まれることも多く積み重なれば争いの種にもなる。ならばその小さな種を潰してしまおうと言う事です」
「なるほどな」
正直なところ頷いては見たが言いたい事はわかったがやはり効果があるとは思えない。科学技術も発展している地球には翻訳機などの誤訳の少ない装置も存在するし、なんなら通訳という仕事を専門にしている者達もいるのだ。
言語は確かに価値はあるものだが統一したところで言う程の効果が得られるかが疑問になる。
「話は分かったが、具体的にそれの何が侵略になるんだ?」
一番の問題は今回の議題はあくまでも『侵略方法』なので、それに繋がらない事を話していても時間の無駄になってしまう。
だから具体的に何が侵略となるのかを確認した。
「確かに疑問に思うでしょう。ですが言語を統一すると言う事は意思疎通が容易になると言う事、いままでは他国の情報は政府や報道機関を通して伝えられたものしかなかった。しかし言語が統一されてしまえば一般人であろうとも容易に他国の情報を正しく手に入れられるようになる」
「っ!そういうことか。それなら確かに今までも正しい情報を伝えていた国は問題ないだろうが、少しでも自分達に都合のいいように他国の情報を改竄していた国は混乱するだろうな。そして後に起こるのは『自分達に伝えられていた情報の何が嘘で、何が本当なのか?』と言う過去の事にまで遡っての粗探しが始まると…人間はいつだって空気に流されるからな~」
まだ地球に居た頃の事を思い出しながらしみじみと俺はそう言った。過去の学校に通っていた頃の歴史の授業でも過去の大きな事件、その大半は小さな火種から燃え広がって大事件へと発展していた。
「はい、そう言う事です。嘘も方便とは言いますが、隠していた情報に少しでも重要な物が混じっていればどうなるか。一つでも嘘が入っていれば一度は全てを疑ってしまうのが人間です。そして疑う相手や情報の規模が大きい程社会は騒ぎ、その騒ぎに乗じる者達も増えていき騒動は果てしなく大きくなっていく!」
「それは確かに大ごとになるだろうな。で?これは侵略の話だから混乱に乗じるような何か案はあるのか?」
まぁある程度俺も納得したが今回の議題は何処まで言っても変わらないので、『侵略』に該当する事でなければ聞いたところで意味がない。と言う訳でティルンに先の作戦の流れを確認したんだが…こいつ何も考えて無かったな。
「……えっと、混乱させることが侵略と言う事にはなりませんか?」
「言いたい事はわかるけどな。ただ混乱させるだけならテロリストみたいになっちまうだろ?俺達がやるのはあくまで【侵略】なんだよ。ただ破壊して、ただ混乱させるだけなら目の前の物を片っ端から壊し続けるだけでも可能だからな」
「確かにその通りですね。では、どうすれば侵略となるかですね…ならば混乱しているところに嘘と正確な情報を分かりやすく纏めて地球で強制的に配信するのはいかがでしょう。いくら調べやすくなるとは言っても個人では限界もあるでしょうし、機密の情報などにもなれば知る事は一般人には不可能。正確な情報が出回っても地位のある者達がそろって否定し続ければ大抵の者は流されてしまう可能性も大いにありますので」
俺の少し大雑把な感じの意見を聞いてティルンは考え抜いてこんな提案をしてくれた。
この説明を聞いていた他の会議参加者達の何人かも賛成なのか大きく頷いていた。そんな周囲の状況を確認しながら俺も今の話も含めて今回の案についての最終的な決定を導き出した。
「そうだな…まず結論としてなんだかんだ言っても言語の統一は面白そうだし実行する。後は嘘と本当の情報を纏めたサイトの開設は認めるが、電波ジャックなどではなくて言語統一時に頭の中にサイトを開きたくなるような催眠作用を追加で施す程度にして置こう。効力はちょっとした暗示程度しかできないが、強制的にやるよりも自主的に開いたという事実の方が重要だからな」
「それはどういうことですか?」
「簡単な話だが、強制的に違法な手段まで使って見せられた情報を信用しようと思える者は少ない。一時はもたらせた情報から混乱はするだろうけど、評論家とかがニュースで『犯罪者の言葉は信用できない!』とでも言えば大半の世論はそっちに流れるだろうからな」
「なるほど、そう言う可能性を少しでも排除すると言う事ですか。さすがは魔王様!!」
ただの主観と言うより独断でいろいろ決めただけなんだが何故か感動されてる。そんな凄いこと言ってないのにこんな反応されると居心地が死ぬほど悪い。
チラッと助けを求めるようにルージュに視線を向けると楽しそうな笑顔で返された。こいつ困ってる俺を見て楽しんでやがるな⁉お願いですからこの状況どうにかしてください‼
とすがるように見続けると小さく俺くらいしか気が付かない程小さく溜息を吐き出すとルージュはまとめに入った。
「では言語の共通化、それに加えて秘密裏な裏情報掲載サイトの開設は決定したものとします。この計画を踏まえて他に侵略案のある方は順に所属を告げてから話してください」
上手く纏めてルージュが次の作戦の立案を求めると先程手を挙げていた奴らが、最初に言った通り時計の順に立ち上がって各々の考えた侵略案を発表していった。もちろん全員が使える案を言えるわけではなく中には『植物に自己意思を持たせ、自然のありがたさを実感させる!』などと言う者も居たが、自然の植物は強化してしまうと人間では対処できない怪物に進化する可能性が高すぎるので却下された。
と言うか昔に向こうの世界で実際に植物に意思を持たせて強化したマッドサイエンティストが一人いたのだ。
そいつは植物の持つ可能性を研究する学者だったのだが、植物は意思を持つと理不尽に感謝もなく自分達を狩る人類に怒りを持ってしまった。しかし最初は火を使える人類が圧倒していたのだが、地中の根までを完全に駆除する事ができていなかった。
地中に残った根は一度の敗北から学び信じられない速度で自己進化を開始したのだ。
これが植物に意思。つまりは『学習する力』を与えることで起こってしまっ悲劇だった。人間が災害から学んで対処方法を編み出すように、植物も同じく人間に対しての対処法を編み出していったのだ。
その結果として植物は土や水だけではなく生物を捕食吸収できるようになり、炎への体勢を身に着け、自身の蔦を編み込み強度を増して刃物すら通用しないまでに進化してしまい都市が2つ滅ぼされた。
さすがに事態がまず過ぎて俺や今の魔王軍の幹部などが総出して劣化や腐食などの耐性を獲得されていない力で滅ぼした。種子が残っていても厄介だったので周囲100キロを更地にしてしまったが、おかげで二度と復活するような事はなかった。
その変わりに1年以上の期間魔法を交代制で使用続けてようやく土地の生命力は回復した…んだけど、ちょっと力入れすぎて今そこはビル並みの巨大植物の生い茂る大自然地帯になっている。
なんて関係ない事を思い出させられたりしたが話し合いは最終的には纏まって、大まかな侵略方法は決まったので今日は解散とした。
いや、正直あんなキャラの濃い奴らと顔を合わせ続けるのは2時間が限界なんだよ。
だから俺は用意されていた専用の執務室に戻ると座り心地のいい執務椅子に座った訳だが、何故かついて来たルージュがいい笑顔で現実と言う名の地獄を突き付けて来た。
ドン!
「では、時間が出来たことですしこちらの書類の処理をしてください」
「え…」
本当に重そうな音と共に置かれた書類は軽く見上げるほどの山になっていて、呆然としている間にも書類の山は3つ追加されていた。
しかもよく見ると更に追加でまだ取り出そうとするので慌てた。
「ちょっとまて!なんだこの書類の量⁉」
「なんだって…決まっているではないですか。先程決まった侵略計画に必要な予算や資材の申請書類、こちらに送られてきている臣民の税金などに関する書類、現在も行われている月面開発の進行状況の報告書などなどに加えて、あちらの世界の政務の書類も纏めてありますので一週間以内に処理してください。少なくとも急ぎの物は3日以内にお願いしますね」
「この量を…一週間で…」
「理解していなかったようなので言わせてもらいますけど、世界1つ支配して他の世界にも手を付ければ仕事は増えますからね?」
「あ……」
完全に仕事の事など忘れ去っていた俺はルージュの一言で本当の意味での地獄はこれからだと理解させられ、もはや何か言う気力も出なかったので目の前の仕事に集中する事にした。というか作戦を決めても決済とか済ませないと実行できないし、やるしかない!と自分に言い聞かせて必死に目の前の書類地獄に挑むのだった。




