第13話 急を知らせる世界
そして保護民の確保を始めて1か月ほど経つとようやく80%の保護を終わらせることができた。中には地球での生活などを大切にして戻ることを強く希望する者も居たが、多くは行方不明になっていた家族との再会を喜んでいた。
あとは稀にファンタジーな現状にひたすら興奮している者も居て、割と混とんとした様相をきたしていた。
戻ることを希望する者には悪いけど戻すことはできない。記憶を消すこともできなくはないが、なにかの切っ掛けで記憶が戻る可能性がある。
そんな状態で一度でも俺達に接触した者を簡単に開放はできない。更に言うならすでに行方不明扱いになって捜索願を出されている者も居るので、解放したとしても元の生活に戻れるか正直に言って保証ができない。
その事を丁寧に説明して怒る者も多く居たが何を言われようが俺達にもどうしようもない事はある。という事で、ちょ~っと裏技を使って納得してもらった。
なんて感じで忙しく過ごしていた時の事だった。
「「ッ⁉」」
「今のはなんだ⁉」
「わからないわよっ!」
なにか得体の知れない力のような物が体を通りぬける感覚に寒気を感じて俺とルージュは混乱する。最初は何者かの攻撃とも思ったが最奥に設置されている執務室に何か攻撃を仕掛ける、しかも気が付かれずになんてことはできるはずがない。
なにせ俺だって簡単にはできないんだから。
それに寒気は感じたが特にこれと言った異変は何も起こっていない。
「体に異常は?」
「なにもないわ」
「思考も問題なし、魂への干渉の形跡も……ないか…いったい何だったんだ?」
お互いに何も影響がないのを確認しても以上は見当たらなかった。念のために精神や魂まで調べたが何の干渉もうけてはいない。
だが確実に何かの力が通り抜けたのだけは間違いがない。
「なにか起こっているな…早急に全体へと連絡!異変が起こっていないかの確認を急がせろ」
「すでにやっているわ。今のところは何も報告は上がっていないようよ」
「そうか………だったら俺達への干渉手はないという事かっ!」
そう言った瞬間に一番めんどうで、一番可能性の高そうな考えに至る。
正直に言ってしまえば外れてくれる方が嬉しいとは思うけれど、万が一に起こっていれば今までのようにのんびりとしていられなくなる可能性が高い。
ゆえに確認しないわけにはいかない。
「今すぐ、地球の全人類の様子を確認しろ。保護している者も、捕虜にした逸脱者候補も含めて全員‼」
「?……っそういうことね。わかった、急がせるわ」
最初は俺の指示に対して首をかしげていたルージュだったが、さすがと言うべきか数秒と経たずに指示の意図に気が付いて各所へと連絡を始める。
ほどなくして地球上のネット環境すらも使って全人類の情報がリアルタイムで集められた。結果としてわかったことは…想定していた『最悪』と呼べるものだった。
「現在の人類は肉体の時間が完全に停止。あらゆる干渉が不可能になっているようね」
「あぁ…しかも魂だけでなにか特別な処置を受けているようだな」
「それが分かるって、相も変わらず化物ね」
「はいはい、そんなことはいいから厳戒態勢の指示を出してくれ」
世界1つを征服した時にさんざん言われてきたのだから、今更ちょっと化物と言われようが何も感じないのだ。なので動揺することなく次の指示を出せた。
もし本当に得体の知れない何かが干渉しているなら出来うる限りの備えをしておくべきだと知っている。
過去に世界征服が半分を超え始めた頃、向こうの世界でも起こったのだ。
その後から人間の抵抗は強くなって一時は3割近い領土を奪い返された。
もっとも対処さえできれば巻き返すのは難しくなく、更に数年を掛けて世界を征服した後に巻き返された理由を研究した。
結果は『わからない』ってことだった。
でも、逸脱者の出現などの世界の免疫反応と言う仮説は立てる事はできた。
そして今回の異変…間違いなく世界には大なり小なり意思を持っている可能性が高い。いまだ正体は掴めないし、直接的な干渉の排除は方法が確立できていない。
だが干渉を受けた人類に対しての対処方法なら百通りはある。
問題は干渉の度合いだ。
「今回はどの程度の干渉だと思う?」
「全体的な身体能力の強化、特殊能力の追加といったところかしらね」
「そんなところが妥当か…極端な能力は少ないとは思うけど念のために万全以上を目指せ」
「了解よ。全体に伝えるわ」
ここで否定ではなく了承してくれるところがルージュの優秀さの表れだな。
変に常識に囚われる者、自分達の力に自信を持つ者などは否定から入って俺を説得しようと自分の考えを力説してくるのだ。
今回のなような一度は乗り切る事の出来たもの事だと特にな。
そんな奴等の相手に時間なんて使いたくない。と言うか、緊急時に相手をしていられるような余裕なんて存在しないんだ。
「ひとまずできる事はやったか?いや、俺の方でもやっておいた方がいいか…」
「なに、貴方も何かやるの?」
「あぁ…さすがに今回は俺も動いた方がいいだろ。もしもが起こった時のリスクが高すぎるからな」
「…それもそうね。周囲に被害が出ないようにだけは気を付けるのよ」
「わかってるって」
最初は俺が直接動くことに微妙な表情を浮かべてルージュだったけど、状況を考えてか最終的には納得して頷いて見せた。最後の小言は調子に乗ってやりすぎないようにっていう事だろう。
本当に久々に力を使うから加減をミスる可能性もあるからな。
そして月面都市の外、完全な宇宙空間に出た俺は宝石のように美しい地球の全体が見える位置まで来た。月面都市と地球に片手ずつ向ける。
『覆うは天蓋、隠すは天幕、祖は全てを包み悠久の安寧をもたらすもの』
普段は詠唱はしないのだが今回は完全詠唱の方がいいと判断して唱える。
『何者も触れられず、見えず、聞こえぬ。故の平穏』
徐々に体を流れる魔力が両手に集中して二方向に星と見間違うほど巨大な魔方陣が形成される。
『ここは偽りの楽園!』
【偽天の園】
詠唱終了と同時に両の掌を合わせる。
すると手に集中していた魔力が一斉に周囲へと広がり、左右の魔方陣へと吸収されていった。
膨大な魔力を吸収した魔方陣は地球と月を包み込むように形を変え、完全に覆うと一際強い光を放ち…収まると地球と月の表面には無数の幾何学模様が浮かび上がって薄い膜ができあがっていた。
「よし!久々に使ったにしてはなかなかのできだな」
あまり使う機会も少ない魔法だったけど無事に完全展開する事ができて満足だ。
今回、使用したのは【偽天の園】と言う攻性防御結界だ。
名前にあるように偽の天の楽園を魔法的に構築。内部に在る生物・無機物を問わずに絶対保護を付与、更に干渉してきた相手に魂へ死なない程度の傷を与える衝撃を放つようになっている。
ちなみに内部に居る限り人間は肉体・精神・魂の全てを保護され、いかなる干渉も受ける事はない。例えば今回のような超常の何かであろうと干渉をほぼ0まで抑える事が出来る。
「ま、本当なら干渉を受ける前に展開するべきだったんだけどな」
後悔しても仕方のない事だとはわかっているが少し考えてしまう。
確かに【偽天の園】は完全な干渉遮断を可能にするが、すでに受けてしまっている干渉を無効化できるほどの効果はない。
なの、今回のようにすでに時を停止されラインの繋がってしまっている人類への干渉を完全に防ぐことはできなくなっていた。
もちろんラインを断ち切る事もできなくはないんだけど、それをやってしまうと繋がっていた人間側にも何かしら影響が出る可能性がある。
よくて1~2ヵ月ほどの昏倒、悪ければ精神崩壊で死ぬ。
さすがに自分達のリスク回避のために地球人類の半数近くが死ぬ可能性を許容はできないだろう?という事で、これ以上の干渉を防ぐことを最優先に魔法を選択した。
この魔法には他にも効果があったりするんだけど発動する事はないだろう。
「さ~て、追加で何重か結界張っておくかな」
地球の意志だか何かは知らないけど世界の全生物の時間を停止できる存在、そんなものを相手にするのなら油断も慢心もする余裕などない。
という事で【偽天の園】を追加で3度、他の大規模結界もついでに2つ追加で発動して地球と月を覆った。ここまで守りを固めれば俺でも干渉する事が出いるようになるのは数日は掛かる。
もし結界に何かの力が干渉しようとすれば発動者の俺は瞬時に察知できる。
他にも細々とした細工を無数に施してあるし、最大限の出来る事はやった…はずだ。
「なんか…こう…うざい感じがするんでよな~」
何故か安心できない不自然さを常に感じている。
それが理由で結界を張った後も戻ることなく宇宙空間を揺蕩っているのだ。周囲を探索してはいるが何かを見つける事が出来ていない。
でも、本当に危機感とは違うがこの場所を離れてはいけない気がし続けている。
「という事でしばらく、この場で待機する」
『どう言う理由かは分からないけど理解したわ。念のために待機していた方がいいでしょうね。例外として今回だけは仕事を終わらせておいてあげるから、貴方は最大限警戒し続けて』
「うい~」
さすがに今の状況だと慎重になる必要がある事をルージュも理解しているからか、珍しく俺の話をすんなりと受け入れてくれた。なによりも仕事すら変わりに終わらせてくれるというのだから、本当に油断できない状況だと認識しているのだろう。
「さぁ…なにが起きるのかな?」
長い年月の中でも遭遇する機会の少ない出来事に心を躍らせながら俺は変化の時を待つ。




