第12話 地球の逸脱者
地獄の1日を終えて数日後、ようやくひと段落して書類の山が普段程度まで落ち着いた。書類の内容は保護民の専用の区画を用意した事で発生した予算・人員・資材・食料etcに関するものばかりだった。
すでに用意してはいたが想定のよりも人数が多そうで、予定を繰り上げたこともあって準備が完了していなかったのだ。なので急遽の予算などの決裁が必要と成った結果あの書類地獄という事だな。
「今後は急な予定変更は絶対にしないでおこう」
今回の件でさすがに身に染みたので二度と予定外の期間繰り上げはしないと誓った。たぶん、一か月くらいで忘れる可能性高いけどね。
そんなことはいったん横に置いておいて、現状の確認だ。
手元にあるのは決裁書類に交じって渡された保護区の現在の状態と最終的な予想図などだ。
現在の保護区は規模にして数万人規模の小さな街くらいの施設になっている。イメージとしては複合施設が近いか、範囲は大規模な球戯場ほどの幅の高層ビルのような感じだな。
保護した者達の居住空間は下層で部屋は広いところで3LDKのアパートのような設計で、ある程度は保護した者の意見を聞いて変更可能だ。
中層からは飲食や生活必需品に娯楽品などを扱う店舗が並んでいる。
ここで一応言っておくなら保護民達には最初の2ヵ月は月面都市で使える通貨を渡し、2か月後に働きたいかを聞き希望者には仕事内容に合わせた給料で生活するように変えていく予定だ。
ちなみに働くことを希望しなかった者はボランティア活動を定期的に依頼する予定になっているそうだ。この辺はルージュに任せているから俺はよく知らない。
あとは未成年者、特に学生の者達には俺達の方から地球基準で最高の教育を施すことになっている。俺も頭はよくなかったから何人からか最初の頃に色々教えてもらったが、おかげで今では下手な人間よりは頭はよくなっている…はずだ。
ちょっと性格の問題もあってバカな事ばかりしている自覚はあるけどね。
そして保護区の最後の上層には本格的な娯楽施設だ。
地球で放映されている映画を違法だけど勝手に放映している映画館、なんとか地球の景品を再現した(技術力の問題で地球よりも高品質な景品ばかりになっている)ゲームセンター、室内アミューズメント・プール施設に屋上遊園地などだ。
正直に言って俺も行きたいレベルの施設ばかりだ。
もっとも俺達が遊べるような施設は向こうの世界にある。
規模も数倍だから羨むことではないんだろうけど、目の前に楽しそうな視察あると生きたくなるのは仕方ないようね。
なんてことはどうでもよく、一先ず保護民ようの区画整備は現段階では大きく問題はないようだ。
それでも必要数などが増える可能性が高いための増設である。
建築も概ね終わっているし、説明のための映像も何とか撮り終わった。
たぶん今回の件で一番大変だったのは撮影だったな。
台本を覚えるのが何よりも本当に大変で、正直に言ってしまうと今も頭が少し重いような感じがしている。と言うか、実際にちょっと知恵熱が出た。
でも、それだけ苦労しただけは合ってルージュからも珍しく満点評価を貰った。なんで立場が上の俺の方が評価を下されているのかは謎だけどな。
「ふぅ……それで保護民はどのくらい連れてこれてるんだ?」
「現状は50%以上、いっきに人が消えても大騒ぎになるからね。一つの国に関する情報をサイトで大規模公開して大小さまざまな混乱を起こして、その日の夜などに連れてくるようにしてるわ」
「ならいいか、いずれはバレるだろうけど別に困らないしな」
「えぇ、特に地位の高い人物もいないようだし大丈夫なはずよ。もし発覚しても見つけようが地球には存在しないわけだし」
「確かにその通りだな。じゃ~別にいいか」
もし集団失踪が発覚しても連れて行った奴等の姿は全ての映像に映らないように魔法を掛けてあるし、最終的には怪奇現象や陰謀論が世間には蔓延して終わるだろう。と言うかそう誘導する予定だ。
失踪とは言っても何名かだけで、他は空き手紙や旅行に行ったように見えるようにしたりなど細工する事になっている。
映像は改変、変身能力者によるアリバイ作り、逆にしっかりと車などの事故に見せかけたりetc偽装の方法だけでも十分に数は用意しているしね。
とは言っても、人間にも馬鹿にできない者はいる。
「少し前にハッキング仕掛けてきて第1層を突破した者はどうした?」
「その者だったら確保済みよ。念のために自宅の機械類は破壊、数カ月に渡って連絡を取った相手のコンピューターも同じく内蔵データの全てを破壊。地球の現存技術では修復は不可能ってことよ」
「ならいい、確保した奴には俺が後日合う。それまでは最下級の客人対応で監視は厳に、機械類には念のため一切触らせるな」
「わかったわ」
そう言ってルージュは関係各所に瞬時に指示を出す。
今回の相手は経歴的にはなんて事のない人間で世界的なハッカーとして活動していた者だっようだ。正直に言ってしまえば一般人だった俺は知らなかったけど、それなりに有名だったらしい。
実際に地球の一般的なハッカーでは絶対に突破できないと言われていたシステムを、囮用の物とは言っても1つ突破して見せただけでも異常と言ってよかった。
しかし今回の相手は囮と見破ったうえで、逆に囮のシステムを利用して大元のシステムにまでたどり着いたのだ。
これは異常程度で済ませる事はできなかった。
そして調べていくと一つの結論に至った。
人間には歴史上の偉人のように極端な天才的な存在、そんな者達が現れる時代がある。決まって歴史が変わるようなときに起こる世界の免疫反応とも言える何かで生まれる者。
俺達は『逸脱者』と呼ぶ事にした。
しかし調べると言うほど逸脱した者が現れてはいなかった。
ゆえに世界の免疫反応なのではないかと考えたのだ『もし今回の逸脱者が現れた原因が俺達だったら?』とな。
それならもしかしたら生まれた、あるいは成ったばかりなのではないか?と言う仮定ができた。
すると逸脱者と言うには微妙な者が居る理由に説明もつくからだ。
ただ今に至るまで、この話の結論は出ていない。
この事を専門に調べたいという者達でチームを作って調べさせてはいるが、結論が出るのは何十年後になるのかは知らない。
「さて~どうやって調べるかな?」
「ひとまずは地球レベルでの最高難易度のシステムを破らせてみれば?それの後に私たちの方で難易度調整したシステムを段階的に挑戦させて、現段階の実力を調べればいいのよ」
「まぁ、それが一番か。なんか面白い方法あればそれがよかったんだけどな~」
「なんでも面白いかどうかで決めようとするのはやめてと言ってるでしょう。それで何度も大変なことになったんだから」
あきれ果てたような表情を浮かべて話すルージュを見ながら、昔にやらかした事の数々を思い出したが…なかった事にした。
「ははは…そんなことは知らん!」
「は?」
「あ、すんません。もちろん覚えていますし、気を付けます」
なかったことにできなかった。
あのまま続けたら地獄を見るのが幻視できたし、大人しく引き下がる。
そのままくだらない話を挟みながら書類を処理していくと一つの書類に目が留まった。
「ふ~ん、逸脱者リストか…」
「それはまだ未確定情報だけどね。調べられた範囲で怪しい者達をピックアップしただけで、本格的な調査は後日大規模に行う予定になっているようね」
「そこまでして調べようとしていたのか…」
ニヤリと笑みを浮かべてルージュが渡してきた書類には調査に参加する人数などが書かれていたのだが、そこには保護民を連れてくるための人員の倍近い人数が書かれていた。
これに少し呆れてしまったが選ばれた逸脱者候補のリストは結構面白かった。
「へぇ~科学者に軍人とかは理解できるけど、漫画家に小説家…漫才師までいるのか~これどういう理由で選ばれてるんだ?」
「えっと、少し待ってちょうだい……あった。漫画家や小説家などは見た人間への強すぎる影響力、そして作り出した話の内容の幾つかが今後の世界を表しているような物だったことが理由ね。漫才師もネタの内容なんかだけれど、地球の言葉を覚えていない者に音だけを聞かせて見ると何名かが地球の言語を片言でも発する事が出来るようになった…っていう報告があったから選ばれたようね」
「それは……普通に地球でも騒ぎにならないか?」
話を聞いて俺が一番に気になったのはそこだった。
どう考えても未来の出来事を書いたような話、人に片言とは言え言語を覚えさせる事ができるとか大騒ぎどころじゃないだろう。
なんて思っていたがルージュの楽しそうな表情を見る限りだと違うらしい。
「ふふふっ!その懸念はもっともだけれど心配無用よ。未来を描くとは言っても数日後とかではなく、数年後の世界を描いているのよ。予知能力系の者達に確認させたから間違いないわ」
「だとすると確かに問題ないのか…なら言語の方は?」
「そっちも大きな問題にはなりえないわね。どうやら聞き手の基本知能の高さによるところが大きいみたいで、まぁ~ようするに秀才くらいに頭が良くないと効果が無いのよ」
「なるほど、それなら大抵の人間には効果が無いな」
「はい、他にも何名か確認しているようだけど地球で大きく話題になっている者はいないようね。しいて言えば科学者や格闘家にスポーツ選手などは目立ってはいますね」
「そいつらは仕方ないな。むしろ目立たなかったら驚きだ」
資料にも俺達が下見を始めてからの数年、その間に逸脱者は現れだしたようだ。証拠として、ここ数年でスポーツ界では世界新記録を更新する者が数名続々と現れ、科学界も何年も解決の見えなかった問題に大きな進展が怒っている。
これを見るにやっぱり世界の遺物への免疫反応の可能性は高いだろう。
「とは言っても、大した脅威にはならないか」
「現状は完全に面白びっくり人間ですからね」
それが俺達の共通認識だった。
確かに人間としては偉人とも呼ばれるほどの傑物達かもしれないが、俺達はそんなものは当の昔に通り過ぎた。踏み潰し、叩き折って、あるいは従えて世界を1つ支配したのだ。
一度は乗り越えたことを、再度やるだけの事だしな。
しかも当時とは違って俺達は途方もなく成長して進化している。
今更、成長途中の者達に負ける事はありえない。
「でも、見てる分には面白いな」
「そうなのよね。いまも大きな大会やってって休憩時間は大盛り上がりよ?」
スポーツって1人でも突出した奴がいると極端に面白くなる。
今の地球ではまさにそんな状況になっているから俺達から見ても最高に面白かった。おかげでルージュも言っていたように俺も仕事の休憩時間には楽しませてもらっている。
「さて、仕事続けるかぁ~」
でも今は休憩時間ではないので書類を処理する事に集中するとしよう。
思いっきりルージュが見ているしな。ニコニコしていても怖いって、ある意味凄いよな?




