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二人目の適合者(セカンド・パンツァー) その1

 あれから数日後の、一時間目と二時間目の間の十分休憩の時間。

 教室で田所と駄弁っていると、息を切らして駆け込んできたエミが田所の前に割り込んだ。

「ちょ、ちょっと」

 田所のぽっこりお腹を押し退け、エミは告げる。

「またスピリッツが現れたわ。来て?」

「わかった!」

 バッと立ち上がり、俺は手早く荷物をまとめて教室を出る。

「ちょ、カオル! 三時間目どうするの!?」

「早退したって言っといてくれ!」

 捨て台詞のように答え、エミに続いて廊下を走り階段を駆け降りる。

「こっちよ!」

 エミが向かったのは昇降口ではなく、教師用の玄関だった。

 出るとすぐにある駐輪場には、一台の赤い大型バイクが停められていた。

「乗って!」

「お、おう……」

 エミが運転席に豪快にまたがるものだから、薄い黄色のパンツが見えた。

「早くッ!」

「わかったよ!」

 乗り込み、エミの肩に控えめに手を回す。

「もっとしっかり捕まって!」

「あ、あぁ」

 独特のツンとした甘い刺激臭を感じながら、俺はエミの腹に腕を回してギュッと抱きついた。

「ひゅー、青春してんねぇ」

 通りがかった髭面茶髪の保険室の先生が口笛を鳴らす。校舎の裏でタバコを吸っていたようだ(保険室の先生のくせに)。

「せ、先生! 事情はあとで話すから」

「いいよ、別に。いってらー」

 相変わらず適当な人だな。でも、おかげで助かった。

「飛ばすよ!」

「わっ!?」

 アクセルを(ふか)し、裏門へ向けて急発進する。あやうく舌を噛みそうになった。

「どこに向かってるんだ?」

 ヘルメットもなしに公道を爆走しているので、大声じゃないと自分の声すら聞こえない。

「スペース・パンツァーを人気のない場所に待機させてあるの。急ぐよ!」

 アクセルを全開にしてさらに加速するバイク。今のところパトカーの巡回がないのが救いだけど、いつ追いかけ回されることになるとも知れない。

 ヒヤヒヤしながら振り落とされないよう必死でしがみついていると、案外すぐに着いた。

「公園じゃねぇか!」

「いいでしょ別に。人気ないし」

 高校の近くなので、俺も知っている公園だった。確かにこの公園は全然遊んでいる子供をみかけたことがないけど、それにしたってど真ん中に装甲車が停まっている光景は異様で悪目立ちしていた。

「さ、変態して」

 エミはスカートのポケットに手を突っ込んで、手早く縞パンを取り出す。

「……」

「何? 脱ぎたてがよかった?」

「ばっか! んなわけあるか」

 奪い取り、俺は制服のズボンの上から前回と同じ赤と白の縞パンを装着。

「変ッ、態!」

 両腕を胸の前で水平にしてから、左右に広げる。せめてこのダサすぎる変身ポーズだけでもなんとかならないんだろうか。

 ともあれ、縞パンの光に全身が包まれ、すぐに白をベースに赤いラインが入ったパイロットスーツ、パンツァー・スーツに変わる。

「乗って!」

「お前はどうするんだよ?」

「ここから無線で指示を出すわ」

 縞パンを入れていたのと逆のポケットからトランシーバーを取り出して見せた。

「わかった」

 俺は左のフロントドアからスペース・パンツァーに乗りこみ、キーを回してエンジンをかけた。内蔵されたスピーカーからエミの指示が飛ぶ。

『いきなりで悪いけど、ヒューマノイド・フォームに変形(トランスフォーム)して? 時間がないから、遠隔操作で飛んで向かってもらう』

「了解」

 エミが離れたのを確認してから、俺はグリップを握ってレバーを倒す。

Transform(トランスフォーム)

 スピーカーから流れ出す発音のいい電子音声にテンションが上がる。同時に、心の中でスイッチが入った。ガシャンガシャンとあちこちで駆動音がして、フロントガラスから見える景色が高くなっていく。

『離陸させるから、捕まって!』

 シートベルトを着用し、ハンドルにしがみつく。

《離陸まで、三秒前。3、2、1……》

 柔らかい女性の電子音声がゼロを告げ、スペース・パンツァーは機体を震わせながら離陸した。

「どういう仕組みで飛んでるんだ?」

《背中と足裏のジェット噴射を動力にしています、マスター》

「なるほど」

 宇宙人の技術な割に、意外とこの星のロボットものと同じような仕組みなんだな。

 ポーンという軽快な効果音ともに、コックピットのカーナビが光る。

《目的地が○×サッカースタジアムに設定されました。到着まで約三分です》

「サッカースタジアム? そこに今回のスピリッツがいるのか?」

『えぇ、今日も営業中だったみたい。平日だから観客席はそこまで埋まってないでしょうけど、すでに被害が出てると見て間違い無いでしょうね』

「そんな……」

『大丈夫! まだスピリッツがスタジアムにいるってことは、奪われた心は母船に転送されていないはずだから。取り返しましょう?』

「あぁ、必ず取り返す」

 もう二度と、生きているだけのマネキンとなった人たちを見たくはなかったけど、それは叶わないようだ。それでも、一生そのままにはさせない。

 覚悟を胸に空を駆ける。やがて、人工芝が植えられた大きなサッカースタジアムに到着した。

《着陸します》

 ゴール付近のフィールド上に降り立つ。観客席はまばらで、心を奪われた人たちが放心状態のまま座っている。なんとしても被害を出さないように戦わないといけない。

 反対側のゴールでは、すでに人型に変形(トランスフォーム)したスピリッツの宇宙船が待ち構えていた。

『遅いぞ、パイロット』

 両肩についた拡声器から、我の強い声が流れ出る。機体は前回戦ったノーマスよりもずんぐりむっくりとした黒いロボットで、いかにも頑丈そうだ。

『俺様はバキュラ。奪った心は、この中だ』

 ふてぶてしく名乗りながら、親指を立てて胸の辺りを指す。

『返して欲しかったら、俺様から奪って見せろ』

「クソッ、なんて奴だ……」

『挑発に乗っちゃダメ! こっちの情報を引き出す気よ』

『ふん、無視か。まぁいい、どうせお前は、心を取り返すまで帰れないんだろ? わかってんだぜ?』

「コイツ、なんでそのことを……?」

『前回奪われた心を回収しに行ったせいよ。カオルが来るのを待ち伏せしてたみたい。マズイかも』

「なんであれ、戦うしかない! 奪われた心を取り返さないと」

 スペース・パンツァーにファイティングポーズを取らせ、臨戦体制に入る。

『おっと、ノーマスみたいに簡単に倒せると思うなよ?』

 言いながらおどけるように手を広げた次の瞬間、バキュラの鎖骨の装甲が開く。中から無数の小型ミサイルが飛び出してきた。

「くっ!?」 

 とても避けられない。咄嗟に腕で俺が乗っている頭部を庇ったものの、爆煙のせいで何も見えなくなってしまった。

《左腕、右腕の装甲に軽微の損傷。シシテムに支障はありません、マスター》

「そうは言ったって!」

 煙が一向に晴れない。衝撃こそ感じないものの、両腕の表面で小さな爆発が起こり続けているのが聞こえる。バキュラがミサイルを撃ち続けているようだ。

『このままじゃ押し切られるわ! シールド展開! 続けて?』

「し、シールド展開!」

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