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宇宙人(エイリアン)ってパンツ履いてんのかよ!? その5

「どうすればいい?」

『捕まってて!』

「お、おいッ!」

 スペース・パンツァーがハンドルも回っていないのに急発進した。エミが遠隔操作しているのだろうか。しかも向かう先は煙を上げる黒い横長の宇宙船。

「ちょ、エミ! まさか、俺ごとあの宇宙船にぶつける気じゃないだろうな?」

『そのまさか! でも安心して。ただぶつけるんじゃないから。この勢いのままヒューマノイド・フォームに変形(トランスフォーム)して、パンチを浴びせてやるの』

「ヒューマノイド? トランスフォーム? なんのことだよ?」

 言っている間にもグラウンドに侵入したスペース・パンツァーはボイドを蹴散らしながらどんどん加速していく。さながらゾンビ映画だ。

『右にレバーがあるでしょ? 合図したら、それを倒して!』

「レバー? これか」

 確かに、車でいうギアレバーがあるべき位置に、黒いグリップのついた無骨なレバーがある。普通の車と違って、根元にギアを変えるための迷路のような溝がなく、前後に倒すことしかできなさそうだ。今はそれが前に倒れている。

『今よ! レバーを倒して!』

 グリップを握り込み、勢いよく後ろに倒す。

Transform(トランスフォーム)

 スピーカーから低い電子音が流れ出した。同時に、

「うっ!」

 がくん、と車体が揺れ、全身に負荷がかかる。窓から外を覗くと、地面が遠ざかっていくのがわかった。

「と、飛んでる!?」

『まさか。ジャンプしてるだけよ』

《ヒューマノイド・フォームに変形します》

「しゃ、喋った!?」 

《ナビゲーションAIのロイドです。以降よろしくお願いします、カオルマスター》

 ゴツい名前とは裏腹に、柔らかな女性の電子音声が答える。

「エミ、こっからどうすれば!?」

『あなたってばそればっかり! 前見て、前』

「前? って、うわあああぁぁぁぁーーーーーーーーーーッッ!!!!」

 フロントガラス越しに、中空から黒い宇宙船に向かって落下していくのがわかった。

「ぶ、ぶつかる!?」

『落ち着いて! ロイドの指示通りに動けば大丈夫だから!』

「ロイド!」

《マスター、現在スペース・パンツァーはヒューマノイド・フォーム、人型形態に移行しています。頭の中で、右の拳を前に突き出してください》

「そんなこと言ったって!」

『これが機体の形状です』

 カーナビの画面に人型に変形したスペース・パンツァーの3Dモデルが映し出された。体型は中肉中背と言った具合で、ところどころについた特徴的な太いバンパーが変形前の名残りを残している。

《この機体の右腕部を、拳を握りながら前方に突き出すイメージをしてください》

「イメージ、イメージ、イメージ……」

《衝突まで、5、4、3、2、》

「……イメージ!!」

 ブシューと蒸気が吹き出す音がしたかと思うと、フロントガラスの右側から巨大な鋼鉄の拳が突き出されるのが見えた。車両と同じ濃い緑色に塗装されている。

《衝突します》

「うおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」

 俺は目を閉じ、頭の中に変形したスペース・パンツァーを思い浮かべる。突き出されたその右腕で黒い宇宙船を殴り飛ばした。

 前後に揺さぶる強烈な振動。金属と金属が激しくぶつかり合う重低音がして、おそるおそる目を開ける。横長の黒い宇宙船が船体の一部を大きく凹ませ、地面とこすれて火花を散らす。その後ガシャンガシャンと二、三度弾んで、一際大きな黒い煙を上げながらグラウンドの端っこすれすれで止まった。

「やった、のか……?」

『まだ油断しちゃダメ! スピリッツの宇宙船はーー』

 その続きをかき消すように、黒い宇宙船が大きな音を立てて白煙を吐いた。 

 直後、宇宙船の一部がガシャンと二つの黒い塊となって地面に落ちた。

 いや、違う。あれはーー

「まさか……」

 宇宙船の本体がグンと持ち上がる。落ちたかに見えた二つの黒い塊が、それを支えているようだ。

「……あれは、脚!?」

 その通り、と言わんばかりに横長の宇宙船はガシャガシャとルービックキューブのようにあちこちを捻ったり回転させたりして、上に向かって伸びていく。

 やがてそれは、人型のロボになった。

「あの宇宙船も変形できるのかよ!?」

『そういうこと!』

 体格は俺の乗るスペース・パンツァーと同じか一回り大きいくらいで、黒い光沢を帯びていた。

『それと、敵の正体がわかったからロイドに送るわ。その機体を動かしているスピリッツの名前はノーマスよ!』

「ノーマス? 強いのか?」

『下っぱってところかな? でも(あなど)っちゃダメ! 実力は向こうのほうが上だから』

 作戦を立てるまで待ってくれるはずもなく、ノーマスの機体が動き出した。一歩、また一歩と地面を蹴り、じわじわと加速しながら向かってくる。

『接近戦に持ち込む気みたい! カオル、早く逃げて!』

「いや、ダメだ。このまま迎え撃つ!」

『はぁ!? 何言ってるの?』

「グラウンドは逃げ回れるほど広くない。下手にグラウンドを出て、心を奪われた人たちや校舎が襲われたらマズい!」

『だからってーーーー』

「ーーーー大丈夫だ。殴り合いの喧嘩なら、中学のとき散々してきた!」

 ノーマスとの距離はすでに100メートルを切っているだろう。俺はあえてスペース・パンツァーを走らせ、真っ正面から立ち向かう。両者の距離はあっという間にゼロに迫った。

 ノーマスが左の腰を落とすのをスローモーションのように察知する。左の拳でアッパーを決める気だ!

 俺はスペース・パンツァーの右腕をくの字に曲げ、アッパーのためにガラ空きになった脇腹に 右フックを決めた。

 激しい振動。ノーマスの機体がぐらりと左によろけた。すかさず無防備な腹部に左の拳を叩き込む。

 威力は抜群で、ノーマスの腹部の装甲が大きく凹んで損傷した。右フックを決めた脇腹も装甲の一部が取れ、剥き出しになった導線が火花を散らしている。

 このまま押し切れる! そう思ったのも束の間、ノーマスは地面を蹴ってのけぞった分の距離を一気に埋め、全体重を乗せた右ストレートをお見舞いしてきた。

「ぐぅっ!?」

 コックピットが大きく揺れ、警報が鳴り響く。

《右胸、腹部の装甲に中程度の損傷。運動能力に支障はありません》

 ロイドが平坦な声で被害状況をアナウンスしてくれる。

『ちょっと、なんで避けないの!?』

「避けられるわけないだろ!? 中学生のときの殴り合いじゃ、いちいち避けたりしなかったんだよ!」

『そんなんじゃ機体が持たない!』

「黙っててくれ!」

 言い合いをしている間にも、ノーマスは密着した状態で小さなパンチをいくつも打ってきていた。

「くそっ!」

 俺は凹ませた腹部を左足で蹴って押し、強引に引き離すと、できた間合いを利用して右腕を振りかぶり、ノーマスの左肩へ拳を振り下ろす。

「しまった!?」

 中学のときならいざ知らず、相手は機械だ。肩への打撃をまったく意に返さず、再び体重を乗せた右ストレートをかましてきた。

「同じ手を二度喰らうかよ!」

 スペース・パンツァーの体をひねってその攻撃を受け流しつつ、カウンター気味の左ストレートで応戦する。拳はノーマスの頭部に命中。上半身を大きくのけぞらせるノーマス。

「喰らえ!」

 右足で足払いをしてやると、ただでさえバランスを崩しかけていた機体はあっけなく転倒。ノーマスは後頭部を強く地面に打ち付けた。

 後ろに跳んで距離を取り、俺はロイドに呼びかける。

「ビームかミサイル!」

《両肩のミサイル四基を射出します》

 フロントガラスの両端から、バシュッとロケット花火のように飛んでいくミサイルが見えた。四基のミサイルはまっすぐノーマスの機体へ目がけて飛翔。左肩、右足の付け根、腹、頭にそれぞれ命中して小爆発を引き起こす。

「とどめだああぁぁーーーーーーーーーッッ!!!!」

 地を蹴って駆け出し、スペース・パンツァーの右腕を脇で引き絞ると、俺はお返しとばかりに全体重を乗せた右ストレートをノーマスに叩き込む。

 数メートル後方へ吹き飛ぶノーマス。全身から火花と電撃を走らせたかと思うと、内側から爆散した。

「勝った……ッ!」

 爆炎がフロントガラスを包み込み、巻き起こった風がコックピットを小さく揺らす。

《敵機、撃破》

『嘘!? ホントに勝っちゃった……』

「しゃああああぁぁーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 俺はスペース・パンツァーにガッツポーズを取らせ、コックピットの中で勝鬨(かちどき)を上げた。

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