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宇宙人(エイリアン)ってパンツ履いてんのかよ!? その4

「あなたがもたもたしてるから、ボイドたちが校舎に入ってきちゃったじゃない!?」

「はぁ? ボイド? スピリッツじゃなかったのかよ!」

「ボイドは量産型のスピリッツ! とにかく、もう時間がない! 早く変態してッ!!」

 廊下からは同級生たちの阿鼻叫喚の声が聞こえる。エミの話が多少嘘だったとして、確かにこれはマズい。あんな数の宇宙人がみんなを襲ったら、きっととんでもない数の犠牲者が出る!

「わかった、やるよ。それしかないんならッ!」

 すっと背を伸ばし、俺は胸の前で両腕を水平に重ねる。

「変ッ」

 そして、体を斜めに傾けながら、重ねた腕を左右にバッと広げた。

「体!」

 叫ぶや否や、制服の上から履いていた縞パンがまばゆい光を放ち始めた。

「な、なんだ!?」

 縞パンを包み込んだ光はぐんぐん広がって、俺の体を飲み込んでいく。やがて指や足の先を包み込み、首の途中でぴたりと止まると、

「うわっ」

 背中から四角いタンクのようなものが生え出し、その上部からガシャンと伸びた何かが俺の頭におおいかぶさる。

「前が、見えない」

 そこで動きは止まり、光は急激に弱まっていった。どうやら俺の頭をおおっているのは半透明フルフェイスのヘルメットのようで、ピンク色のそれの中から見る男子トイレは、なんだか女子トイレみたいだ。

「どうなってんだ?」

 体に視線を落とすと、エミの縞パンが体のラインのわかるぴっちりとしたスーツに変貌していた。

 白をベースに赤いラインが入ったそのスーツは、ロボットものに出てくるパイロットスーツのようだったが、背中の四角いタンクやフルフェイスヘルメットのせいで全体的には宇宙服みたいだ。

「思ってたのと違うんだけど」

 てっきり特撮ヒーローのような姿に変身して力が(みなぎ)ってくるものだと思っていたんだけどな。

「つべこべ言ってないで早く飛び降りる!」

 俺の微妙な反応をガン無視して、エミは俺をすりガラスの窓へぐいぐい押し込んでくる。

「はぁ!? 飛び降りるって、ここ二階だぞ?」

「パンツァー・スーツはあらゆる衝撃から守ってくれるわ。だから大丈夫!」

 グッと親指を立てるエミの笑顔は、それはもううさん臭いものだった。

「ホントかよ」

 エミに促されて渋々窓枠に足をかけると、

「それっ!」

「うわああぁぁーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 背中を押されて突き落とされた。うん、あとで絶対殴ろう。もう女だからとか関係ない。

「がはっ」

 真下のアスファルトに大の字になって激突してしまう。顔面も全身もしたたかに打ちつけた。

 が、

「あれ? 痛くない」

「だから言ったでしょ? って、きゃああーーーーーッッ!?」

 二階の窓から得意げに見下ろしていたエミから悲鳴が上がる。

「どうした、エミ!?」

「あなたがもたもたしてるから、ボイドたちが、入ってきちゃった、じゃない!?」

 言葉が途切れるたび窓からドカ、バキ、と凄まじい音がする。ボイドたちと戦っているようだ。

「大丈夫なのか? おーい」

 返事がない。骨や肉を叩く生々しい音が響き続けているので、大丈夫だと信じたいが。

「参ったな、これからどうしたらいいんだよ」

 グラウンドの方へ振り返ると、中央に鎮座した黒い塊からもくもくと無数の黒煙が上がっているのが見える。グラウンド中の緑色の人影はどう見ても人間じゃなさそうだ。おそらく、すべてボイドだろう。

 別に力がみなぎってくるわけでもないし、ビームが出そうな気配もない。こんなんでアイツらをどうしろって言うんだ。

「ん? おい!」

 グラウンドの手前の階段にうちの高校の制服を着た二人組の女の子が座っているのに気がついた。

「危ないぞ……ッ!?」

 まったく反応がないので、駆け寄って軽く肩に触れると、女の子は前のめりに傾いてばったりと倒れてしまう。

「おい、大丈夫か? おい!」

 慌てて体を起こそうとする。

「なんだ? この子、鉛みたいに重い」

 それでもなんとか体を起こし、顔をのぞきこむと、女の子はハイライトの消えた瞳で虚空を見つめている。

「え? ま、まさか……」

 顔の前で手のひらを振って見せても、まるで反応がない。隣に座る女の子も同じだった。

「そんな……!」

 何を言っても反応がなく、鉛のように重い体。消防士だった親父(おやじ)に聞いたことがある。人は本当に危険な状態になると、運ぶ時、普通より体が重くなるのだと言う。

 そして、何をしても反応しない、されるがままの、この女の子たちの姿はまるでーー

「生きているだけの、マネキン……」

 エミの言葉が思い返される。あれは本当だったんだ。

「……救えなかった」

 がっくりとその場に膝をつき、俺はみっともなく涙を流す。

「ごめん、ごめん……! ‥…俺の、せいだ」

 俺がエミの言葉を、すぐに信じてやらなかったばかりに。

 流れ出る涙を、スピーカーのどデカいホワイトノイズが引っ込めた。グラウンドから鳴り響くそれは、エミの声で告げる。

『そこ! あきらめるの早すぎ! わたしを誰だと思ってるの?』

「エミ、なのか? いつの間に!?」

 グラウンドを占拠したボイドたちを除雪車みたいに吹っ飛ばしながら、その声の主はやってきた。

「トラック?」

 正面に三つの拡声器を積んだその車は、段数の少ない階段を豪快に乗り上げ、アスファルトの上で右にドリフトして急停止する。

『違う。これは装甲車……スペース・パンツァーよ!』

 知識のない俺には軍隊が使ってる濃い緑色の塗装がされたトラックという印象しかないが、確かに太いバンパーで四方が固められていて、普通のトラックとは違うようだ。

『さぁ、乗って!』

 左のフロントドアが一人でに開く。のぞく運転席は無人だった。

『早くッ!』

 ポカンとしていると、エミにどやされた。いそいそと乗り込み、ドアを閉めてハンドルを握る。

「エミ? どこにいるんだ?」

 見回しても狭い車内には誰もいない。

 エミの声が返ってきたのは、ハンドル脇のスピーカーからだった。

『わたしはまだ男子トイレの中よ。でも安心して、個室で鍵をかけて籠城中だから』

「そんなんで大丈夫なのかよ?」

『長くは持たないでしょうね。だから、さっさと蹴りをつけて?』

「何に?」

『スピリッツによ。グラウンドに黒い塊が落ちてるの、見たでしょ? あれはスピリッツの宇宙船。スペース・パンツァーであれを叩けば、ボイドは機能停止するし、マネキンにされた人たちも助けられる』

「本当か?」

『本当よ』

「……わかった。それであの子たちを助けられるなら、やるよ」

 窓の外の生きたマネキンにされた二人を見つめ、俺は決意する。

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