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宇宙人(エイリアン)ってパンツ履いてんのかよ!? その3

「安心して? 田所くんにはちょっと眠ってもらってるだけだから」

 言いながら、エミはぴょんとウサギのように跳んで俺の目の前に立つ。今朝と同じ、独特の甘ったるい刺激臭のような香りがした。いいにおいだけど、嗅ぎ続けているとクラクラしてくる。

「ところで、おんなじのをあなたにもかけたんだけど、全然効いてないね?」

 きょとんとした表情で大げさに首をかしげるエミ。やっぱり仕草がぶりっ子みたいだ。

「……」

「聞こえてますかぁ? おーい!」

 エミは目の前で大きく手を振る。無反応を決め込んでいると、横に回って耳元で囁いてきた。

「もしもーし」

 くすぐったくて思わず、びくりと震えてしまう。

「なんだよ?」

 観念して振り返ろうとするとエミの大きな胸がムニュッと右腕に当たってしまい、慌てて飛び退いた。

「……わ、悪い」

 手を握ったときよりももっとやわらかくて、あたたかかった。……って、何を考えてんだ俺は!

「んん? 何が?」

 まったく気に留めた様子がない。

 そして、

「……何もしてこない、んだな?」

 田所が眠らされたとわかったときはそれこそ命の危険すら感じたけど、ここまでの一連のやりとりですぐに俺をどうにかしようとしているんじゃないことはわかる。

「わかってくれた? わたしはあなたたちの敵じゃないって」

「いや、まだなんとなくしか」

「おっかしーいなぁ。この星のだいとーりょー? っていうお偉いさんに、この前味方ですって言っておいたんだけど。伝わってないみたいね」

 何の話だ、マジで。

「それよか、わたしの髪の毛、何色に見える?」

 耳の下の髪をふぁさっと無造作につかんで見せてくる。

「……緑、だろ」

 おそるおそる答えると、エミはおぉっと短くうなる。

「やっぱりそうだ。カオルにはわたしの催眠が効かないみたいね」

 ビビビ、と言いながら両手を拳銃の形にして向けてくる。美少女じゃなかったら、ただの変人だ。

「ってことは、わたしの目もオレンジに見えてるんだ?」

「あ、あぁ」

「ふーん」

 意味ありげに笑い、エミは背を向けてすりガラスをぱたんと閉めた。

「聞いて。そんなカオルに大事な話があるの」

「なんだよ?」

 振り返ったエミの表情は、真剣そのものだった。

「この星に危機が迫ってるの」

 エミがそう告げた、直後だった。

「な、なんだ? 地震!?」

 突然、校舎が大きく揺れた。同時にグラウンドの方から轟音が轟く。すりガラスの窓にひびが入った。

「もしかして!」

 血相を変えたエミがひびの入った窓を開け放つと、グラウンドの中央から無数の黒煙が上がっているのが見えた。

「なんだ、あの煙ッ」

「そんな……まだ説明できてないのにッ!」

「知ってるのか? エミ」

「やつらよ。スピリッツが攻めてきたんだわ」

「スピリッツ?」

「説明はあと! お願い、力を貸して!!」

「そんなこと言ったって。ちょ、何してんだよ、こんなときに!?」

 エミは突然制服のスカートの中に手を突っ込んだかと思うと、パンツをおろした!

「ふざけてる場合じゃーー」

「ーーふざけてない」

 キッと睨み返された。その迫力には押し黙るしかない。

「これ、履いて。服の上からでもいいから」

 差し出されたのは、さっきチラッと見えた赤と白の縞パンだった。

「いやいやいやいや、なんで俺が?」

 エミが真顔でブツを押し付けてくるので、あとずさりながら全力で拒絶していると、

「いいの? スピリッツに襲われたら、この学校の人たち、マネキンみたいになっちゃうよ」

 エミが突然、不穏なワードを口にした。

「どういうことだ?」

 顔をしかめる俺に、エミは続ける。

「スピリッツに心を奪われた生命体は自分の意思を失ってしまうの。感情なんてなくなって、ただ生きているだけの、マネキンみたいになっちゃうの」

 想像して、寒気がした。心臓を凍てつかせる、強烈な寒さに胸が痛む。

「そんな……」

 悲しいとも楽しいとも感じない、なんの意思もない生きたマネキン。嫌だとさえ、思うことのできない人形。きっとそれは地獄よりも地獄だ。……最低だッ!

「協力してくれる?」

 再び、脱ぎたての縞パンをぐいと突きつけられる。

「…………わかった」

 まだ生暖かいそれを受け取り、俺は男子トイレに俺たち以外誰もいないことを改めて確認して、制服のチェックの長ズボンの上から、美少女の縞パンを履いた。

 しかし何も起こらない。

「それで? こっからどうすりゃいいんだ?」

「こうして、」

 両腕を胸の前で水平に重ね、

「こう!」

 体を斜めにかたむけながら両腕を広げる。

「え? は?」

「あ、そうそう、かけ声も忘れずにね?」

「かけ声?」

「変態!って叫ぶの」

「……殴っていいか?」

 女じゃなかったらとっくに殴っていたところだ。

「ダメ」

 エミは毅然とした態度で答え、至って真剣に繰り返す。

「変ッ」

 両腕を胸の前で水平に重ね、

「態!」

 体をかたむけながらそれを広げる。うん、意味がわからない。

「ふざけてるのか?」

「ふざけてないってば! お願い、やって? 今すぐ!」

 オレンジの瞳を潤ませ、懇願してくる。

「この星の人たちを守りたいんでしょ!?」

「そんなこと言ったって……」

 確かに、この高校の人たちが心無いマネキンみたいになってしまうのは嫌だ。絶対に嫌だ。けど、エミの変身ポーズ? があまりにも珍妙すぎてそもそもの話の信憑性がなくなってきた気がする。

 そんなとき、

「きゃああああぁぁーーーーーーーーーッッ!!!!」

 つんざくような悲鳴が廊下から上がった。

「なんだ? どうした!?」

 慌てて廊下へ飛び出すと、逃げ惑う高校生たちとぶつかりそうになる。

「か、怪物だ。あんたも逃げろ!」

 制服の上から赤と白の縞パンを履いた変態極まりない俺の姿に誰も突っ込むことなく人混みが流れていく。逃げていく方と逆の方にある階段を見やると、後頭部が異様に長い、濃い緑色の肌をしたギョロ目の宇宙人たちが駆け上がってくるところだった。

「なんだあれ!?」

「危ない、引っ込んで!」

「うわっ!?」

 エミに制服の襟首を掴まれ、ものすごい力で男子トイレの中に引きずり込まれた。

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